ここがどこだかは分からないけれど、弁慶はとにかく誰かを探そうと思った。
けれど、山の中、都合よく人など見つかるだろうか?
そう思ったと同時に、再び白い鱗が眩く光り、視界の全てを奪う。
光が収まって、目を開けたとき、弁慶は驚いた。
今度は見知った、見間違えることもない場所にいたからだ。
人がいる、家もある。そこは九郎の兄頼朝のお膝元、鎌倉の街だ。
そして、彼らはごく普通に笑ったり、急いだり、苦しんだりしていて、幻とは思えない。
「……」
弁慶は手の中の鱗を握りしめたまま、街を眺める。
「……時間が違う」
街の景色が違うのは当然だけれど、空の色が違って見えた。さっきは多分正午くらいではなかっただろうか、けれど、今の空にはうっすら赤が混じり始めている。
しかもどうしようもなく寒い。無意識に外套を引き寄せてしまう。
この気候は秋ではない、冬のそれだ。
「……ああ、時刻も季節も違う」
なるほど、どうやら『時空を超える』というのは、少なくとも距離と時間を超えることができるらしい。
だったら、
「もしかして、もう一度あの場所へと願えば、行けるのでしょうか」
弁慶は試しに、白い鱗を握りしめて念じてみた。けれど、光らない。
この力は、どうやら気まぐれで、ただ弁慶をあちこちへ連れまわすためにあるらしい。
けれど一体何故?
疑問は残るが、分かったことは二つもある。
それだけでも全く違ってみえて、弁慶の顔はほころんだ。


改めて、弁慶は顎に手をあて思案する。
さて、これからどうしよう?

A 景時の家に行けば誰かに会えるかもしれない
B そんなことをより手っとり早く誰かに会えないかな
C 本当は鎌倉にはあまりいたいと思えない