ここがどこだかは分からないけれど、弁慶はとりあえず海沿いまで行ってみようと思った。
なのに、思ったと同時に、再び白く小さな鱗が眩く光り、視界の全てを奪う。
光が収まって、目を開けたとき、弁慶は驚いた。
気がついたら、浜辺にいた。
しかも明らかにさっき見ていた海とは違う場所だ。
多分、勝浦の近くではないだろうか?
……勿論、一瞬で駆け抜けられるような距離ではない。
「……」
弁慶は白い鱗を握りしめたまま海を眺める。
その色は、さっきと随分違って見えた。
さっきはあんなに眩しかったのに、今は穏やか。
「……ああ、時刻が違うのかな」
そう、さっきまでは陽はもっと上から射すように弁慶と海を照らしていた。
けれど今この場所は、早朝だ。海面すれすれを朝日が昇る。
なるほど、どうやら『時空を超える』というのは、少なくとも距離と時間を超えることができるらしい。
だったら、
「もしかして、もう一度あの場所へと願えば、行けるのでしょうか」
弁慶は試しに、白い鱗を握りしめて念じてみた。
けれど、光らなかった。
どうやらこの力は気まぐれで、弁慶のようなただの八葉では操ることができないようだ。
早速、ふたつの事が分かった。
それだけでも大分肩の力が抜けるというものだった。
改めて、弁慶は顎に手をあて思案する。
さて、これからどうしよう?
A 折角だから、ゆっくりと海を眺めながら勝浦まで行きましょう
B でも久しぶりだから、急いで行きたいような気もする
C ……熊野にはあまり来たくなかったかな