例えば貴方が私を嫌いでも、私は貴方を愛しましょう。
なぜなら主が貴方を愛すると仰っているからです。
例えば貴方が私を傷つけても、私は貴方を許しましょう。
なぜなら主が貴方を許すと仰っているからです。
例えば貴方が私を殺しても、私は貴方を助けましょう。
なぜなら主が貴方を助けると仰っているからです。
ああ、一体どれほどの罪を重ね嘘をつけば、
私はあなたに赦していただけるのでしょう?
○ さよならの会話 ○
後編
その夜には、真っ白な三日月が浮かんでいた。
雲のかげりの一つも見えない星空が、音も無く街を見下ろすような夜。
自室の窓からその様子を見ていたリンクは、今、屋根裏へと続く階段を上っていた。
遠くからは、リビングでくつろぐ夕食後の穏やかな笑い声が聞こえてくる。
目指す場所は、屋根裏から続く、屋根の上。
賑やかなこの屋敷で唯一、一人になれる可能性が極めて高い、その場所へ。
とんとんとん、とはしごを登る。
上向きの扉を押し開けると、やはりそこには静かな空が広がって。
夜の冷たい空気をいっぱいに吸い込んで、リンクは屋根へと上がりきった。
そこには。
「……あ、」
「……ああ。何だ、誰かと思えば」
明るい茶髪と、深海色の瞳。
相変わらず勝気な笑顔をした、先客が立っていた。
白い法衣を纏うその背中には、
「よお。馬鹿勇者」
「……ピット……」
どういうわけだか 翼が、無い。
人間のものと全く変わらない背中を見つめている視線に気づいて、
ピットはくすくすと、どこか意地悪そうに笑う。
「翼?」
「……無くした、わけない……よな」
「どうやって失くせっつーんだよ、あんなもの。
しまえるんだ、あれ。やろうと思えば」
「……そう、だったのか」
あっけにとられたようにピットを見つめるリンクは、一体どんな顔をしていたのか。
とても楽しそうな目で視線を返したピットは、やがてその瞳を月へと返した。
真っ白く浮かぶ、三日月へ。
リンクはその横顔を見ながら、ピットから見て近くも遠くもないところに腰を下ろす。
緩やかな傾斜のついた屋根は、落ちれば命は無いだろうが、
それでも座って景色を眺めるにはちょうど良い。
「……」
「……」
特に話すことがあるわけではなく、喋らなければいけないわけでもない。
ピットがこちらを見ていないのを知っていて、リンクは彼に視線を向ける。
深海色の瞳は今は、真っ直ぐに三日月を向いていた。
真摯と言える程の、純粋をたたえて。
「……」
「……ピカチュウが、」
「?」
静寂を先に破ったのは、座ったままのリンクの方だった。
特に動じる様子も無く、ピットは顔をこちらに向ける。
自信に満ちた態度や、普段の顔つきが。
近い誰かに、似ているような気がした。
「……お前が、オレと……。何か、話したいとか、……その」
「ああ、あれか。うん。話したいとは思ってたぜ、お前とは」
「……珍しい、って」
「うん。だって、お前みたいなの、天界にはいないから」
ピットの言葉で、リンクはもっと思い出す。
そういえば、もっといろんなことを言っていた、と。
確か。
「……ロイとか、マルスみたいなのが多い、って?」
言ってみて、リンクはやっぱりちょっぴり怖くなってしまった。
あの二人のような人間……否、天界人か……の集団なんて、全く想像がつかないからだ。
一体、どの部分をとってみて、多い、なのか知らないが。
本当に。
ふわりと吹く風。
白い法衣が、茶色の髪が。緑色の帽子が、流れ、揺れる。
「あの番犬みたいに、たった一つを見ているか。
王子様みたいに、全部を等しく見ているか。どっちかだよ」
「……」
「お前みたいな、どっちつかずはいないんだ」
世間話のように告げられたそれ。意図するところは、リンクにはわからない。
笑うことも怒ることもできず、どういう反応をすればいいのか途方に暮れる。
後ろ手についた右腕。
冷たい屋根に立てた手を、ぎゅっと握り締めた。何かから逃れるように。
「特別に大事なものがあるくせに、全部を守りたい、なんて。
しかも、間違えなければそれができるんだろ?」
「……オレは、」
「まあ、今回は、珍しく間違ったみたいだけどな。あはは」
遠回しに言われたもの。
何を指しているのかに気づいて、リンクは不機嫌そうに顔を歪めた。
この場で会ってしまえば、絶対にこの話になるだろうとはわかっていたけれど、
そんな冷静な理屈なんかより、その場の感情が上回った。
握り締めた手を意識しながら、リンクは、ぽつりと言う。
「……ピットは?」
「? 何が」
「オレに言ったろ。
どうしても諦めきれないものは、無いのか、って」
いつも穏やかな青い瞳は、剣呑な光を帯びる。
きょとん、と目をまるくした彼を睨みつけながら。
「じゃあ、お前には、あるってことだろ。違うのか?」
「…………。」
滅多に聞けないような声が、きっぱりと言い切った。
ピットの深海色の瞳はふいを突かれたように見開かれて、
真っ直ぐに、リンクを見ている。
やがて、
「……はは、」
「……何だよ」
「いや? 思ってたよりも賢いんだな、って思っただけだよ」
心底楽しそうに、そんなことを告げられた。
思いきり馬鹿にされたような気がして、リンクはますます不機嫌になった。
気がした、というか、あからさまに馬鹿にされたわけなのだが。
顔を逸らして、どこか苛立ったようにリンクは言う。
「……悪かったな、馬鹿で」
「ああ、悪いね。自分で気づけても、馬鹿は馬鹿だけどな」
「…………。」
ああもう、本当に。
ああ言えばこう言うというか、慣れているというか、場数を踏んでいるというか。
こういう言い合いでは、リンクはどうしても勝つことができない。
それをわかっていながら勝負を吹っかけたことを後悔しながら、
リンクは顔を逸らしたまま、深い溜息をついた。
青い瞳で見下ろす景色は、まだどこか賑やかな空気を伴うものだ。
遠くに光るあかりがまるで星のように見えることを、素直に綺麗だと感じた。
空に広がる星のきらめきには、敵うことは無いかもしれないけれど。
「好きなのに嫌いだったり、嫌いなのに好きだったり。
好きな奴に嫌いと言って、嫌いな奴に好きと言って、」
音の届かない静寂。
ピットの声は続く。
「……」
「まあ、どうでもいいけどな。人間なんか。俺には関係無ぇし」
つい最近も耳にした、無関心そのものの言葉で。
話は、途切れた。
遠くに夜景を見ながら、リンクはぼんやりと先程の言葉を頭の中で繰り返す。
容赦の無い物言い。翼が無くても、やはり彼は彼だ。
言っていることが何を指しているのかは、痛い程にわかっている。
未だ、ろくに目も合わせていない、自分の小さな親友のこと。
きっと彼は、このままリンクとピカチュウが仲直りをしなくても、
思うところは何も無いんだろう。
興味が無いと言っているし、実際ピットは、この屋敷の人間関係なんて、
せいぜい暇つぶしに面白がるだけで、その奥については触れようともしないのだから。
仲直りをしても思うところは何も無いということにもなるが、
どのみちリンクには、ピットの思考の回り方など理解できなかった。
自他共に認めるお人好しであるリンクでは、
無関心、というものにどうしても慣れることが出来ないのだ。
「……ピットは……、ピカチュウが何て言ってるのか、知ってるのか?」
「へえ。人間は、自分のことを自分でどうにかすることが出来ないのか」
「……お前な……。」
素直に答えてくれるだろうとは、まあ当然思ってはいなかったが。
「聞きたいんだったら、直接聞きに行けよ。
そっちの方が、手っ取り早いだろ」
「……それは、そうなんだけど……」
「そんな度胸も無いんだったら、俺が遠慮無く貰っていくけど?」
「………………。」
遠慮無く、貰っていく。
……って、つまり。
「……ッ、だから、オレとピカチュウはそんなんじゃっ!!」
「はははは!!
あー悪い悪い、お前、本当に、こういう冗談、通じないんだな」
反射的に振り向き声を荒げたリンクを笑い飛ばして、ピットはひらひらと手を振った。
数日前も誰かにこんなふうにからかわれたような気がして、
リンクは何故か顔を真っ赤にしながら、悔しそうに呻いた。
誰が教えたんだまったく、と、誰にも聞かせないような声で呟く。
「まあ、今のは冗談だけど」
いつのまに、手の届く位置にきていたのか。
ピットはリンクの頭を、こつん、と軽く小突いて。
「……、」
「見た目だけで俺を人間に仕立て上げて、何、勝手に喚いてるんだか知らねぇけど。
お前、自分の大切なものへの、自分の誓いくらい、守ってみせろよ。勇者さん」
思わず、顔を上げた、
そこには。
「俺には、あるぜ。
……どうしても、諦めきれないもの」
「……」
見たことの無い、まったく似つかわしくない顔をして。
青い深海色の瞳が、さびしげに揺れていた。
白い三日月、銀色の小さな星、金色の街あかりと、闇が未だ全てを包まない、夜。
羽ばたきの音。いつのまにかその背中には、まぶしい程に白い翼があった。
リンクの目の前で。
ピットの唇が、静かに動く。
「例えば貴方が私を嫌いでも、私は貴方を愛しましょう。
なぜなら、主が貴方を愛すると仰っているからです」
「……?」
それは、
「例えば貴方が私を傷つけても、私は貴方を許しましょう。
なぜなら、主が貴方を許すと仰っているからです」
聞いたことの無い、涼やかな、透明な。
白い三日月をいとおしげに見つめていた横顔、揺れる瞳に共通するような、
真摯で、純粋な、真っ直ぐな、声。
「例えば貴方が私を殺しても、私は貴方を助けましょう。
なぜなら、主が貴方を助けると仰っているからです」
闇夜にとけて消えそうで、空を満たしてしまいそうな 声、だった。
貴方の傍にいるために、いくらでも貴方を愛しましょう。
貴方の罪を祓うために、いくらでも貴方を許しましょう。
貴方の死を守るために、いくらでも貴方を助けましょう。
なぜなら、それが、あなたから生命を享(う)け賜った、
「私の存在するべき……、いと高き純潔の在る聖域なのですから 」
「……何……だ? ……それ、」
心臓の位置に左手を置いて言葉を締めたピットに、リンクは静かな声で尋ねた。
にっこりと笑い、ピットは答える。いつもの顔、いつもの瞳、いつもの声で。
「祈りの聖句だよ」
「……祈りの、せいく?」
「俺の“世界”で言えば、神様の仰られたお言葉、ってこと」
「……。……喋る、のか。神様って」
間の抜けた顔をして、素っ頓狂な質問をしたリンクを、ピットは真顔で見つめて。
そして、すぐにまた、笑い出した。
「何だ、何言うかと思えば。当たり前だろ? 神様なんだから」
「……」
「天使様から、馬鹿な勇者さんに、おくりもの」
「……贈り物、って。いや、うん、ありがとう。
……でも何か、あんまり前向きな言葉には聞こえなかったけど」
声を淀ませながら呟くリンク。子供のような顔で笑っているピット。
背中の翼をふわりと広げて、ピットは屋根をとん、と蹴った。
白い三日月と、夜とを背景に、空の中にかるく舞い上がる身体。
その姿を見上げて、リンクは思い出した。
そうだ、あの時は、彼は空から降ってきたのだ、と。
にっこりと笑うピットの表情に、寂しいとか、悲しいとか、そんなのは一切見られない。
「祈りっていうのはべつに、応援するものじゃねぇからな。
何だったら、祝いの聖句とか呪いの聖句とかあるけど。聞きたい?」
「……。いや、いい。遠慮しとく」
祈りと祝いはともかく、呪いって何だ。しかも、神様の。
さぞ効力がありそうだなとふざけたことを思ったところで、ピットはくるりと背中を向けた。
屋根の上で思わず立ち上がって、リンクは彼を呼び止める。
「あ、おい! ……どこ行くんだ?」
「散歩。何だよ、まだ何か言いたいことあんのか?」
「……。……あの。……その、さ、」
きちんと止まってくれたピットの背中。身体ごと包み込めそうな、大きな翼。
人間のかたちに鳥のような翼がはえた姿は、やはりどこか奇妙に思えるけれど、
それでもどうしてだか、目を逸らすことなんか、出来なかった。
あの時も。
「あるって、言ったろ。
どうしても、諦めきれないもの」
「……」
ふ、と全ての表情を消した、ピットは。
近い誰かに似ている、そんな気がした。
「何……なんだ?」
「……。……人間が、持ってるものだよ」
白い翼。だけどその白は本当は真っ白ではなくて、ところどころ藍や藤が混ざっている。
「人間に、奪われたんだ。俺では、絶対に手に入らない。
だからって、諦めることなんか、絶対出来ないけどな」
「……」
「だけど別に、人間を嫌ったり、憎んだりはしてないぜ、俺は。
興味は無ぇけど、俺に人間以上、愛するべきものなんか無い」
俺は天使だからな、と。
呟いた唇は、白い三日月を背に、子供みたいに笑って。
「じゃあな。リンク」
「……え、……あ、ああ。あんまり、遅くなるなよ」
保護者そのものの口調で言ったリンクにひらひらと手を振って、
ピットはそのまま、遠く、空へと飛んでいってしまった。
抜け落ちた羽が一枚、リンクの手元に飛んできたけれど、捕まえることはしなかった。
急に、しんと静まり返った、夜の風景。
ざあ、と風が吹いて飛ばされそうになった帽子を押さえ、溜息を吐きながら、
リンクは屋根の上に、再び腰を下ろした。
遠い空を、見上げて。
「……」
リンク自身はあまりこの場所に来ることは無かったが、
以前、マルスは言っていた。
屋根の上は、空と、星と月が近いような気がして、安心するのだ、と。
その口ぶりからして、彼はちょこちょこここへ来ているのだろうと思ったが、
その真意を測ることなど、リンクに出来はしなかった。
「……近い、か」
近くない。
近い気がするだけだ。
例えばどれほど背が高くても、手を伸ばしてみても、空を飛べても。
空に触れることなど、けっして叶いはしないのだから。
空。……今は見えない、まばゆいほどの、青い色。
色が違っても、届かなくても、焦がれてみても。
空は、空。永遠に、名前が変わることは無く、届くことも無い。
「……。
……馬鹿みたいだ……」
馬鹿みたい、じゃなくて、馬鹿なんだろう、と。
もう一つ溜息をついて、リンクは少しだけ自嘲気味に、笑う。
部屋に戻ろう、と。
屋根に右腕を立てて力を込めて、立ち上がろうとした、
その時。
「ねえ、」
「!!」
ぴた、と背中……というよりは、腰に近い……に、何かが貼りつく感覚があった。
耳に届いたのは、随分長い間聞いていなかったような気がする、声。
届いたんじゃない、聞こえたんだ、と。
表情、身体、すべてを強張らせたリンクの耳に、声が続けて聞こえてくる。
「リンクが一緒にいたくないのなら……、それでいいかな、って思ったけど」
「…………」
「来ちゃった。……嫌い、なんて、そういえば一言も聞いてないからね……」
ふわふわの毛並み、あたたかな体温。
夜の冷たい空気の中に、たった二つだけの。
「……ピカチュウ」
「ねえ、リンク」
小さな姿なんか、この目で見なくたって。
気配と、声と、それだけで充分にわかる。
一番近いところに、ピカチュウが、いる。
「僕は、人間が怖くなくなったりは、してない」
「……」
「だって、ピットさんは、人間じゃないもの。
……あなたは、僕が人間を嫌いだから、僕と一緒にいてくれたの?
……僕が人間を好きになれたら、あなたは近くにいてくれない?」
「……」
淡々と、こんなことになる前の。
当たり前だった日常の中とまったく同じ調子で、ピカチュウは話す。
のんびりと、マイペースに。
自分だけの、正しい言葉で。
「だけど、僕は」
「……」
「人間から守ってもらうために、あなたと一緒にいたわけじゃない。
……手を伸ばしてくれたから。一緒にいたくて、一緒にいたんだ」
屋根にふれた手を無意識に握り締めて、リンクは言葉を聞いている。
いつも真っ直ぐで、本音の中に本当の真意が隠れている、素直な言葉を。
声は空に響くことはなく、リンクの背中で、とけて消える。
「ねえ。リンク」
きゅ、と。
リンクを、ちいさな手で捕まえながら。
「……僕のこと。
……嫌いに……なったの?」
「…………。」
遠い、空。
星と月が見下ろしている、静けさに抱きしめられて。
噤んでいた口を、静かに開く。
「……オレが、」
「……うん」
「……お前を嫌いだったことなんて、一度も無いよ。
……知ってるだろ」
「うん。知ってる」
知っている。
だけど。
「じゃあ、行かないで」
「…………!」
かすれるほどの小さな声で、紡がれた。
それは、
ずっと昔に約束した。
空に届けた。
祈りの言葉。
「……うん」
「うん……」
泣きそうなほどの想いにふさがれて、リンクは祈るように瞳を閉じる。
「……ごめん」
「……」
「……なんか。……オレしかお前を守れない、って、思ってたみたいだ。
……馬鹿だよなあ。だって、お前は……、こんなに、強くなったのに」
神様を信じない。
けれど、小さな親友の言葉が届くことが、そして自分の声が届くことが。
変わらなかったことを、喜びたかった。
あんなふうな、ひどい気持ちを晒しても。
離れなかったことを。
「……オレの方が、お前に、いろいろ、教えられてることもあるのにな」
「……」
嘘の無い気持ちで微笑んで、リンクはゆっくりと振り向く。
背中にぴったりと貼りついて離れない、
小さな親友が、ピカチュウが、ちゃんと、そこにいた。
「出かけたいって、言ったでしょう」
「……うん」
「……街のすみっこにね、すごく大きな樹を、見つけたんだ。
……リンクにね、どうしても、見せてあげたくて……」
「……ピカチュウ」
ささやかな、願いごとを。
忘れたことは、一度も無かった。
「リンク」
「うん?」
「そっち、行っても、いい?」
真っ黒い、真っ直ぐな瞳が、夜に隠れたリンクの瞳を覗いた。
久しぶりに、視線が合った。
真昼のような青い空が、瞳の中に広がっていた。
あたたかな木洩れ日のように笑って。
毎日が戻ってきたような声が、優しく答える。
「いいよ。おいで」
「うん」
屋根を蹴って、ピカチュウはリンクの肩に飛び乗った。
懐かしい高さ。それから、懐かしい重さ。
リンクの頬に額を押しつけて甘えるピカチュウの頭を撫でて、
また。
「……ありがとう」
「うん。僕も、ありがと」
なつかしい声で、すなおな言葉を交わして。
二人は、小さく笑いあった。
遠い空、伸ばしても届かないひかりの色。
手でふれられる場所に、大切で、どうしようもなく守りたいものがあることを。
祝うでもなく、呪うでもなく、
ただ、祈って。
夜の星、街のあかりが、うんと遠くに見えていた。
緑色の青年の頭の上で、小さな親友が眺めている光景のすべてを、
あたたかな静寂が、黙って包み込んでいた。