駅前の公園。ちらちらと舞い散る雪に、街灯の光がきらきらと反射している。
 裕也との電話を切り、僕はブランコに腰を掛けた。其れから一呼吸して、瑞希の電話番号を押した。
 瑞希の電話番号も携帯アドレスも登録はしていない。連絡手段を持ってしまえば、いつか亜希を裏切る行為に走ってしまう気がしたから。でも、僕の指は覚えていた。前に一度だけ、亜希が携帯を忘れたからと僕の携帯で瑞希に電話した時のコトを。亜希が声に出し、其れを聴いて打ち込んだ数字を、僕の指は忘れていなかった。
『あのっ……』
 プルル……っと3回目のコールの後に流れ始める待機用のメロディ。思わず呼びかけて、直ぐに口を閉ざした。
 そっか。瑞希、待機用の音楽にわざわざ変更しているんだ。あんまりイメージじゃないかも。
 なんて、変に冷静なコトを考えたりして。瑞希というよりは裕也が好みそうな女性シンガーの声が切り替わるのを待つ。だが、全く出てくれる様子が無い。かといって通話中という訳でも、留守番サービスに切り替わることも無い。
 知らない番号だから出てくれないのかな? それとも風呂に入っているとか?
 諦めようかと、一瞬だけ迷う。でも気になって、一言だけでも聞きたくて、瑞希が出てくれるのを待つ。なにより今日を逃したら、僕はもう瑞希に連絡を入れられない気がしたから。
『……もしもし?』
 コール20回目を超えたくらいだろうか。さすがにイタ電ではないと想ったのか、電話の向こうから瑞希の声が聞こえた。
『あの、僕……柚貴だけど』
『柚貴君? あ、ごめんっ。知らない番号だったから、出るのためらっちゃって』
『良いよ良いよ。そんな気がしてたし、こっちも急に掛けたから』
 予想通りの返答に、僕も予定通りの台詞を返す。
『今、電話していても大丈夫かな』
『うん、大丈夫だよ。……どうかした?』
『特にたいしたことないンだけど、ちょっと気になったから』
『……ありがとう』
 軽めの口調で返される言葉。もっと沈んでいるかと想ったけど、瑞希の声は結構元気そうだった。
 空元気? それとも、そんなにショックじゃなかったとか?
 さり気無い様子を装いながら、頭の中だけでぐるぐる考える。互いに明るい声を出しているのに、ちょっとだけ、変な空気。気まずいとかじゃなくて、パズルピースが枠に入らないような、そんな感じ。
『えっと……』
 何を言って良いか判らない中途半端な間に、なんとなく足を揺らせる。ブランコからキィって音が鳴った。
『もしかして、外にいるの?』
 どうやらその音が瑞希にまで届いたらしい。無言の間を割って、ちょっと驚いた声。
『ん、今は駅前の公園』
『駅前って……』
『溝口駅の前。粉雪が降っていてね、結構綺麗だよ』
 溝口。亜希の家から一番近くの駅。亜希と仲の良かった瑞希には直ぐに判ってしまったのだろう。周囲がうるさければ絶対に聞こえてこないくらいの小さな声で、『そっか…』と呟いた。
 其れからやっぱり少しだけ間があいた。僕が何故電話をしてきたかなんて、瑞希はとっくに気がついているだろう。でも核心には触れられないから。
『……寒くない?』
『ちょっとね。でも一応厚着してきたから』
『なら良いけど、風邪ひかないように気をつけてね』
『大丈夫大丈夫、もう直ぐ冬休みだし』
『それって風邪ひいても大丈夫ってコトだよね? ダメだよ〜』
『はいはい。ご心配ありがとうございます』
『どう致しまして〜』
 結局、軽めの声で話を続ける。空を見上げれば灰色。此の分だと明日も雪かな?
『……あのさ』
 少しだけ、考えて。
 其れは『また電話しても良い?』とか『メアド教えて』とか、そんな話題に持っていこうかという考えだったんだけど。
『クリスマス、空いてる?』
 ぽつりと出てきたのは、僕自身にも予想外のコトバだった。



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