幾つものイルミネーションが飾られ、色とりどりに輝いている街路樹。
 さすがはクリスマスといったところか。
『……寒いなぁ』
 寄り添って歩く人たちが多い中で小さく呟く。
 悴んだ手にはぁと息を吹きかけても、全く温まることはない。 気温が低いのはもちろんだけど、多分、手を繋いでくれる人がいないからだろう。 なんていうのは、ちょっと淋しすぎるかもしれない。
 特に行く先もなくて、駅前の噴水の脇、誰かと待ち合わせているかのように座り込んだ。
 駅前広場にある大きめな噴水は、待ち合わせの目印にするには丁度良い。だから今日も何人かの人が其処に座っていて、僕が混ざりこんでも全く違和感はないだろう。
 でも。本当は僕だけ違う。皆は誰かが迎えにきてくれるけど、僕だけは独りきりだ。 あぁ、でも如何なんだろう。同じようにして座っている人たちは実は僕と同じで、行くあてがないから此処にいるんじゃないか?  自分を慰めるためにも、そんな下らないことを考えて。頬に冷たい飛沫を掛けてくる噴水を、そっと仰いだ。
 この聖なる夜を独りきりで過ごすのは、一体どのくらいぶりだろう。
 家族には当然のように亜希と出掛けると思われてしまい、挙句母親に 『年頃の女の子を遅くまで連れまわしちゃ駄目だからね』 と言われたものだから、家でごろごろしている訳にも行かず出掛けてみたけれど。 さすがにこの特別な日に、家に帰っても可笑しくない時間帯……つまりは夜なのだが、其れまで独りでいるのは悲しすぎる。 だからと言って誰かの家に行くか、というのも考えられない。きっと其々にスケジュールが詰め込まれているだろうから。
『ぁー……、せつない』
 小さく呟いて、自嘲気味にくすりと笑った。
 仰いだ先に見える灰色のソラ。今は雲が覆っているだけだけど、夕方には白い粉雪がチラつくと天気予報で流れていたっけ。 素敵なホワイトクリスマスになりそうですね。天気予報氏の明るい声が、耳の奥にこびり付いている。


***


『あのさ。クリスマス、空いてる?』
『……え?』
『いや、あの、……特に深い意味はないンだけど、もし空いているなら、その』
 僕自身、想像もしていなかったコトバ。聞き返されて、思わず口篭ってしまった。 なにか言わなきゃいけない。慌てれば慌てるほどに、思考は巧く働いてはくれず。ただ、もごもごと言葉にならない言葉を綴って。
『……今年は、家族と過ごそうと思うの』
 多分、僕がしっかり言い終わるのを待っていてくれたのだろう。時間にすれば数分程の無言の後で、瑞希のコトバが届いた。申し訳なさそうな、その声色。
『あ、そっか。そうだよね』
『うん。……せっかく気を使ってくれたのに、ごめんね』
 掠れたような小さな声での謝罪。
『いや、気にしないでっ。そいうえば僕も、友達に誘われていたの思い出したよ』
 瑞希の素直な謝罪に、なんでだろう、急に後ろめたい気持ちが生まれた。 言い訳がましい声で、在りもしない約束なんかを綴って、良い人を演じる。
 違うんだ。気を使ったんじゃない。多分僕は、コレが瑞希と2人っきりになれるチャンスだと思ってしまっただけ。
 言えるはずもなくて。気付かれれば嫌われてしまうンじゃないかって怖くなって。僕はごめんなさいと繰り返した瑞希に、『本当に気にしないで』と優しい声を掛けた。


***


噴水の脇に座り込んで、どのくらい経ったのだろう。携帯のミュージックプレイヤーから流れる曲が、一周してしまった。もともと取り込んである数が少ないから、長く見積もっても1時間くらいだけど、さすがにホンキで凍えてきた。
 どこか喫茶店にでも移動しようか。凍えた脚で、ゆっくりと立ち上がる。 なんとなく僕と同じようにして座っていた人たちを確かめようと、視線だけをくるりと動かせば、皆とも見知らぬ顔に変わっていた。 そっか、やっぱり行き場がなくて座っていたのは僕だけなんだ。改めて実感させられて、ぐっと切なさが増した気がした。



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