瑞希と僕が初めて逢ったのは、高校2年の夏だ。
『海に行くから、お前も彼女連れて来いよ』
幼馴染の裕也の誘い。僕は二つ返事で答え、その時の彼女、亜希を連れて待ち合わせの場所に向かった。
『新しい水着買ったんだよ』
そんな会話とともに、可愛い彼女と電車に揺られる楽しい時間。此の後起こる事なんて一切予想せず、僕等は海水浴場に到着した。
そして互いに水着に着替えてからご対面。自己紹介。そこであろうコトか、僕は。
『初めまして、水沢瑞希です』
『は、じめっまして』
裕也の彼女に、一目惚れしてしまったのだ。
特に美人、というわけでもない。スタイルが素晴らしく良い訳でも、水着が際どいわけでもない。ただ、優しげな笑みに心を奪われてしまったのだ。
『えっと、阿良川柚貴です』
思わず顔を赤らめた僕に、瑞希は何か感じただろうか?
判らないけれど、その時は僕に彼女がいて。当たり前なのだけど、瑞希は裕也と行動して。僕は亜希と行動して。
楽しい筈なのに。僕の視線は裕也達を追いかけていた。
***
それ以降、僕等は一緒に出かける事が増えた。
どうやら亜希と瑞希……当時は裕也の恋人……がその海水浴で仲良くなったらしい。
『毎日メールしているんだ』
にこにこと微笑む亜希に、僕の胸は痛んだけれど。瑞希に会うたび、僕の心はどんどんと瑞希に惹かれてしまっていた。
海沿い。深夜に放った打ち上げ花火。甲高い声を上げる亜希と、少々離れた位置で微笑む瑞希。夏祭り。カキ氷のシロップに染められた唇と舌。亜希は青で、瑞希が赤。耳元で切りそろえられた髪。肩まで伸びた髪。学園祭。セーラー服を翻し屋台で売り子をする亜希。実行委員だからと、スーツ姿で走る瑞希。秋の紅葉は、2人とも同じ顔して見とれていたっけ。
4人で居るのに、亜希が隣に居るのに。僕の視線はいつも瑞希を追っていた。
裕也と2人きりになる瞬間がないように、まるで見張りをするかのように。
まるで純愛? 否。きっと単なる裏切り行為。
彼女に言えず、裕也に言えず、瑞希にいえる筈もなく。夏が過ぎて秋も過ぎて、真っ白な粉雪の振る季節が訪れた。
この季節もまた、4人で過ごすのだろうか。そして僕は彼女を、裕也を、瑞希を裏切り続けるのだろうか?
声にさえしなければ気付かれないだろうこの感情。しかし持っているだけでも僕の中に生まれる罪悪感。
僕には亜希が居る。瑞希には裕也が居る。
考えていた僕に、運命の時が訪れた。
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