*大嫌い!!




頭を抱えながら会社を出ると、すぐ脇に車のドアに体を預けながらタバコを吸っている人物が目に入る。

「・・・奥田?!」

その姿に一瞬息を呑み、立ち止まる。

今は会いたくないのに・・・。

「今から帰り?ちょっと付き合ってくんない?」

「え、嫌よ。きょっ今日は見たいテレビがあんのよ。」

言ってて意味が分からない。テレビなんてどうだっていいのに、そんな言葉が私の口から出た。

「いいから顔貸せって。」

そう言って強引に私の腕を取ると、体を車の助手席に押し込む。

「ちょっと奥田?何考えてんのよ。これじゃ拉致じゃない!!」

「そ、拉致。大人しくお前は横に乗ってろ。言っとくけど、飛ばすからな。助手席から逃げようってんなら死ぬぞ。」

「・・・・・。」

そんなバカな事するか、ボケ。

そう憎まれ口を叩いてやろうかと思ったけど止めた。いつもと違う真剣な表情の奥田だったから。

「おせっかいな先輩がさ、さっき連絡くれたんだよ。」

「先輩?」

新たにタバコに火をつけながら、運転中のヤツは前を見たままそう話を切り出す。

「更衣室で話してたんだろ?俺の事をよ。ちったぁ俺自身を見れるようになったかよ。」

「・・・・・さぁ?」

伝達早いわね。そんな事を思いながら一応とぼけてみせる。

「さぁ?ね。ま、いいや。これから俺が遊んでねぇって事証明してやるから。」

「・・・・・どこ行く気?」

「そりゃぁ、男と女が行くとこっつったらイッコっきゃねぇだろ?」

「下ろせ。」

ニヤっと意地悪く笑って見せた奥田の表情に若干の危険を感じて思わず私の手がドアに伸びる。

「バーカ、冗談に決まってんだろ。ま、事と次第によっちゃぁそうなるかもしんねぇけど?」

「やっぱり下ろせ!!止めろぉぉ!!」

喚いたところで、一向にスピードが緩む気配もなく、そのまま私はとある場所まで連れて来られた。

・・・とある場所。



「・・・・・マンション?」

奥田は所定の場所に車を停めると、私も降りるようにと促す。

「そ、俺の家。」

「なんであんたの家に連れて来られるわけ?それに、何。こんな高級マンションに住んでんの?」

「まあな。とりあえずついて来いよ。」

「えぇ!!襲われる。」

「・・・・・あのな。何かに付けてお前はそれかよ。ちったぁ信用しろよ。ったく、ほれ行くぞ。」

奥田は私の腕を掴むと、スタスタと歩き始める。

8階でエレベーターを降りてドアの前までやってくると、ポケットから鍵を出し開けて中に入った。

腕を掴まれたままリビングに通されて、その光景に私の目が点になる。

・・・・・汚ねぇ。

リビングには脱ぎ散らかされたシャツにスーツ、テーブルの上にはビールの空き缶が転がり、シンクには汚れたお皿が積み上げられていた。

あまりの光景に絶句していると、奥田がぼそっと呟く。

「分かったかよ。ここ2週間何にもする気起きなくて、仕事も忙しかったから片付けらんなかったんだよ。もし、俺が他の女と遊びまくってんならこんなに散らかってねぇだろ?」

「・・・・・汚すぎ。」

「お前、人の話聞いてっかよ。仕方ねぇだろ?お前にあんな風に大ッ嫌いって言われてすっげぇ落ち込んでたんだからよ。片付ける気すら起きなかったんだよ。」

「え、マジで落ち込んでたの?」

「当たり前だろ。本気で惚れてる女に面と向かって、大ッ嫌いって言われてみろ。さすがの俺も落ち込むっつうの。」

「本気って・・・また冗談を。」

「何度俺に告らせたら気が済むんだよ、お前は。俺はお前が好きだし、諦めねぇって。ま、先輩の話によるとお前も俺に惚れてるらしいけど?」

いやに自信ありげにニヤリと笑う奥田。

・・・・・あの先輩、奥田に何を吹き込んだのよ。

「ちょっちょっと・・・そんな、勝手に人の気持ちを決めないでよ。一言もあんたに惚れてるなんて言ってないわよ!!」

「え〜。俺が他の子と話すのがムカつくんだろ?それって完璧ヤキモチじゃん。それ聞いてすっげぇ嬉しかった。だから仕事途中で切り上げて、直帰って言ってお前を待ってたんだぞ。」

「やっヤキモチじゃないもん!ただあんたが馴れ馴れしく女の子と仲良く喋ってるのが腹立ってくんの!!」

「同じじゃん。」

「・・・・・。」

クスクス。と笑われて、思わず私の顔が赤くなる。

墓穴掘りましたか、私。



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