*大嫌い!!




売り言葉に買い言葉・・・こんな事を言うんじゃなかったと後で後悔しても先に立たないわけで・・・。

・・・・・マズイ、酔っ払ってきた。

あれから居酒屋やBARを梯子して、4件目のお店でさすがの私も少し酔いがまわってきた。

いや・・・かなり?

「あんらもねぇ〜・・ふらふら〜っとあそぶのぉ・・・やめなはいよ。」

「・・・・・お前、ロレツまわってねぇぞ。」

「うっさい!!人の話を聞けっつうの。」

目の前に置かれたカクテルを手に取り、半分座りかけた目で奥田を睨む。

「はいはい。聞いてますって・・・こいつ絡み酒かよ。タチ悪ぃ。」

奥田は苦笑を漏らしながら、私の手元からそっとグラスを遠ざける。

「くそぅ。な〜んで、おんなじ量だけ飲んで、あんらは酔わないんだっつうの!!面白くっない!!」

「好きな女がへべれけに酔ってんのに、俺が酔うわけにいかねぇだろ?あぁ、もぅ飲むなって・・・ウーロン茶頼んでやっから。ブラックルシアンなんて強い酒なんて飲みやがって。」

「好きな女って誰?・・・あぁん、もう持ってかないでよまだ飲んでるんだからぁ。ウーロン茶なんて飲めるかぁ!!」

私は奥田の手からグラスを奪い取ると、グイッ。とアルコールを煽る。

「好きな女って・・・お前の他に誰がいんだよ。」

ぶすっと拗ねたように呟く奥田の表情に自然と笑いが込み上げてくる。

「ぶははっ!!え、私?にゃはははは・・・面白い冗談言うね。奥田が私を?あはははっ・・・ありえねぇ。」

「ありえねぇって勝手に決め付けんな。俺は本気だぞ?お前を落とす為に1年も頑張ってんだ、そろそろ気づけよ。」

「や〜ん、うっそぉ。冗談は顔だけにしてよぉ・・・笑っちゃう。ほんと、あり得ない。だって私、奥田の事嫌いだもん。」

奥田が私の事を好きって?・・・笑っちゃう。

アルコールで犯された私の脳は判断力を失っていた。

「はっきりと言いやがったな・・・酔っ払いの言動とは言え、結構傷ついたぞ今の。何でお前はそんなに俺の事を嫌う?」

「だってぇ。軽い男だもん。しょっちゅう女の子に声かけられてヘラヘラ笑ってるし自分の事カッコイイって自惚れてるし?」

「・・・だから偏見だって言ってんだろ?いつ俺がヘラヘラと喋ったよ。仕事の話以外してねぇし、こうやって何度も食事に誘ってんのはお前しかいねぇっつうのに。」

「嘘くせぇ。」

「嘘くせぇって、外見ばっかで判断しやがって・・・お前は一度だって俺自身を見た事あんのかよ。固定概念だけで人を判断すんじゃねぇよ。」

「奥田じしん〜?そんなの見たってただの女好きが見えるだけでしょぉ?」

「お前、ふざけんのもいい加減にしろよ。俺がどんな思いで毎回毎回お前を誘ってるって思ってんだよ。あぁ、もうっ!!ここ出るぞ。」

奥田はそう言って私の腕を掴むと否応ナシに表に連れ出された。

ちょっと・・・痛いってば!!



店を出ると、そのまま腕を引かれて店の脇にある小さな公園に連れて来られた。

「ちょっちょっと奥田・・・痛いってぇ!手を離してよっ!!」

「嫌だね。」

奥田はそう小さく言葉を吐き捨てると、突然私の身体を強く抱きしめてきた。

・・・えっ?!なっ何で抱きしめられてんの、私?

酔っ払って焦点が定まらないまま、ふわふわっとする気分でそんな事が頭に浮かぶ。

「ちょっと・・・奥田?」

「本気でお前の事見てるんだ。だからお前も偏見でなく真正面から俺自身を見ろよ。」

耳元で囁かれて、私の身体が急激に粟立つ。

「そっそんな事言われたって・・・んっ?!」

・・・無理よ。そう言葉になる前に私の唇が奥田の唇で塞がれてしまった。

久しぶりに感じる柔らかい唇の感触。でも、今までに感じた事のない脳天を刺激させられるキス。

それがお酒のせいなのか、奥田のせいなのか分からなかったけど、角度を何度も変えられて浴びせられるキスに次第に脳がぼうっ。としてくる。

・・・ちょっと待って。何で奥田にキスなんてされなきゃなんないのよ!!

キスに溺れそうになる自分を何とか制すると、奥田の舌が唇を割って入って来たと同時に体をビクンっ。と震わせて、両手でドン。と彼の体を突き放す。

「やっ!なっ・・・何するのよ、突然。冗談はやめてよ。」

「何度言ったら分かるんだよ。冗談じゃねぇって言ってんだろ?俺は本気なんだよ。気づけよ、俺の気持ち。」

「なっ何度言われたって分かんないわよ、あんたの気持ちなんて。酔っ払った人間を相手にキスするような軽いヤツの言う事なんてっ!!」

「こうでもしなきゃお前は分かんねぇだろ?言っとくけど、俺は惚れた女以外にはキスなんてしねぇんだからな。」

「そんな事知らないわよ。変態!スケベ!!私・・・かっ帰る!!」

「おい、待てよっ!!」

奥田に掴まれた腕を力いっぱい振り解くと、私は駆け出した。

「俺は諦めねぇからなっ!お前が俺自身を見てくれるまで・・・・・」

背後から追いかけてくる奥田の声を最後まで聞き終わらないうちに、タクシーを拾って飛び乗った。

タクシーの中で、私は高鳴る鼓動を抑えるのに必死だった。

・・・どうして?どうして、こんなに心臓が高鳴るの?私、アイツにキスされて嫌じゃなかった・・・嫌いなハズなのに、どうして。

『俺自身を見ろよ!!』

奥田の言った言葉が何度も脳裏を過る。

奥田自身・・・そんなの見たって一緒よ。自惚れてて自信過剰で、女っタラシ。

奥田なんて・・・大ッ嫌いよ。

私は今も奥田の感触が残る自分の体にそっと腕をまわした。



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