*大嫌い!!




隆志が散歩に付き合えというから、ヤツと一緒に病室を出た私。

院内をとりあえずグルグル回るものだと思っていた私は、何も考えずに隆志の進むほうに同じようにあとをついて歩いていた。

この時間だから、とっくに病院の診察時間は終了していて、廊下以外の施設は全て灯りが落とされているから院内は少し薄暗い。

だからか、あまり大きな音を立ててはいけない気がして、歩き方に気を遣ってしまう。

病院独特のにおいと雰囲気に包まれた中を、ほぼ無言で歩く2人。

エレベーターに乗って1階におりて、隆志はスタスタと先を歩いていく。

つい先日まで吸引機や点滴をぶら下げたスタンドを押しつつ、痛そうにソロソロとゆっくり歩いていたのが嘘のようだ。

パジャマとスリッパという入院患者らしい姿ではあるけれど、歩き方はもう、従来の隆志のものに戻っていた。

まあ…態度についてはその前から元通りだったけど。

隆志は、あてどもなくというより目的地があるように、迷う事無く歩(ほ)を進める。

私も途中までは何も考えずに歩いていたけれど、途中から何となく、ん?と、首が傾いていった。

1階におりてきたのは、中庭に行くつもりなのかと思いきや、それとは全く逆のほうに歩いていくし、自販機でジュースでも買うのかと思いきやそれも通り過ぎて行く。


どこに行こうとしてるのかしら…


どうも散歩をしているというより、目的地に向かって歩いているとしか思えないこの足取り。

ねえ、どこかに向かってるの?と、口を開きかけた私の視界に、ある案内プレートが映った。


『↑第一駐車場』


……駐車場?

隆志はそのままずんずんと奥に進み駐車場内に足を踏み入れると、こちらに振り返って、車どこ?と、聞いてくる。

その突拍子もない隆志の発言に、思わず足を止めてしまった。

「え…車って…なんで?」

「出かけるからに決まってんだろ」

「は?」

全く意味が理解できなかった。

出かけるってナニ?って。

その場で暫く固まっていると、私が教えるより先に車を見つけた隆志がまた歩き出す。


おいおいおいおい…


私はワケがわからずに、そのあとを追うしかなかった。

隆志は私の車のところまで辿り着くと、あとからついてきた私に向かって、

「ドア…あけて」

と、ロックを解除するように促してくる。

「ドアって…まさか、車で出るつもり?」

「院内でチンタラ歩いてたって運動になるわけねえだろ?ほら、早くあけろって」

「え、ちょっ…なによ、どういう意味なの?」

さっぱりワケがわからないまま、いいから早く。と、再び促されて、仕方なくカバンからキーを取り出し、車のロックを解除した私。

カチッカチッと、ウインカーが点滅するのを確認してから、隆志がドアを開けて助手席に乗り込んだ。

「これから軽く運動しに行くんだよ」

と、ニヤリとした笑みを浮かべて言いながら。


軽く運動?…はぁ??全然意味がわかんないっ!!


車に乗り込んだ隆志を外からボーっと眺めているわけにもいかず、しかたなく私も運転席に乗り込む。

「ちょっと、隆志!全然意味がわかんないっ。出かけるって、軽く運動しに行くってどういう意味よ?」

「まんまの意味だけど?この近くに確かラブホあったよな。だし、そこで」

だし、そこでって…だしって何よ、意味わかんねえっつうの。

いや、ラブホと言えばすることは一つしかないというのはわかるけれど。

今ので隆志の言いたいこともわかってしまったけれど…。

何故、今、この状況でなんだってことよ。

「冗談でしょ…まだ完治してないじゃない」

「だから、軽くだって言ったろ。激しくしなきゃ問題ねえよ」

お前は医者かっ。

そんな無責任なことを言って…何かあったらどうすんのよっ。

「ちょっ…冗談でしょ?マジで言ってんの?」

「大マジ。だから、早く出せよ。見つかるだろ?」

「そんな、これって無断外出じゃないっ。絶対ヤバイって。無理、絶対無理!!」

「無理じゃねえって。エンジンかけてアクセル踏みゃ済む話だろ」

そーいうことを言ってんじゃないっての!

「大体、聞いたことないわよ。入院患者が病院を抜け出してラブホテルに行くなんて」

「そっか?結構いるんじゃねえの?コッソリこうして抜け出してるヤツ。まあ、もしいないなら俺が前例を作ってやるよ」

「バカじゃないの?何言ってんのよ。それにこんな、パジャマにスリッパ姿で行くつもり?絶対バレるし!何かあったらどうすんの?」

「パジャマにスリッパ?誰も気にしてねえし、見てねえよ。っつうか、なんの為のラブホだよ。バレるわけねえだろ?それに、体のことは心配すんな。絶対大丈夫。傷も今日シャワー浴びられたぐらいだから問題ねえし」

絶対大丈夫なんて。

その自信はどこから来るんだ…。

だけど、例え隆志がいくら大丈夫だと言い張っても…

「ヤダ…私にはできない」

「あっそ。なら、ココで襲う」

「………っ!?」

突然、隆志は私の肩をグイッと抱き寄せると、そのまま唇を塞いでくる。

貪るような激しいキス。

口内奥深くで絡み付いてくる隆志の熱い舌に、呼吸もままならずに次第に息苦しくなってくる。

少し体を離そうと突っぱねてみても、ガッチリと肩を抱かれているから微動だにしなくて。

逆に更に体を抱き寄せられて密着度が高まってしまった。

「たか…しっ…ちょっ…くるしっ…」

キスの合間に途切れ途切れに言うのが精一杯。

微妙に酸欠になってきたのか、頭もボーっとしてくる。

長かったのか、短かったのか判断できない時間が過ぎ、ようやく隆志の唇が少し離れたときには、私の息は相当上がってしまっていた。

それでも、隆志の唇から解放されることはなく、今度はまったりとした甘い口づけへと変わった。

「どれだけオアズケ食らわされてると思ってる?」

「んっ…たか、し…」

「この間も…すげー久しぶりにお前を抱けるって高ぶってたのによ…入院で更に先延ばし…いい加減溜まったもん吐き出さねーと、ある意味健康に悪いんだけど?」

「なにっ…言って…」

「コレ…もう、収拾つかねえとこまで来てんだけど…」

唇が触れたまま言葉を交わし、隆志は私の手を取ると徐にある場所に導いた。

硬く、突起しているように思える物体が指先に触れる。

なんだコレはっ!?なんて言わずともわかってしまう。

そして、隆志がどれだけ私を求めているのかも。

「優里…お前は欲しくならねえの?俺のこと」

隆志はそれを私に触れさせたまま、色っぽく囁き唇をまた重ねてくる。

キュッと胸の奥が締め付けられて熱くなった気がした。

「そんな…だって隆志は今、入院中で…退院してからでも…」

口ではそう言いつつも、半分気持ちが傾いてしまっている私。

隆志の温もりが欲しくないわけがない…あの日だってすごく久しぶりだったから。

だから余計にこうして甘いキスを交わしていたら、ダメだと思っていても気持ちが傾いていってしまう。

だけど、だからと言って隆志の今の状況を考えると、傾いてはいけないとあと半分の私が抑制する。

かなり辛いジレンマ…

私がそうして頭の中の葛藤と戦っていると、隆志がまた更に私を追い込んでくる。

「退院してからすぐに仕事復帰するけど?こんだけ穴あけたんだ…暫くは今まで以上に働かねえと埋められねえよ。それでも退院してからって言うのか?また更にオアズケさせる気?」

「仕事人間にはならないって…言ったじゃない」

「自分の請け負った仕事は最後まで責任持ってやらなきゃ気が済まないとも言ったけどな」

「……………」

隆志の言葉にグッと押し黙り、少し俯いた私の頬を隆志の指が優しく撫でる。

それから、ウニッと軽くそこを摘まれた。


なんで摘むんだよ…


「お前が俺の体を心配してくれてんのはよく分かってるよ。休めるときには休めって言いたいのもわかる。だけど、俺なりに時間を見つけてちゃんと休んでんだけどな…だから仕事も頑張れるんだし」

「いつ時間を見つけて休んでんのよ…ほぼ毎日夜中近くまで仕事で、休日なんてロクにないじゃない」

「そのロクにない休日と、たまに早く帰れる日」

「それが少なすぎるって言ってんの!大体、そういう日は私と一緒なんだし…一人でゆっくり休めてないじゃない」

「一人でゆっくり休む必要ねえだろ…お前がいんのによ」

「………?」

隆志の言葉にきょとんとしていると、ヤツの口から大袈裟なほどのため息が漏れた。

なんでそこでため息が出るんだ…

「お前さぁ…いやもう、今更だけどよ…。ホント、とことんこういう事に関して鈍(ドン)だよな」

「どういう意味よ…」

隆志のつくづくと言ったような言い回しに、俄かに自分の眉間にシワが寄る。

「ここ数日で更によーく身に染みたよ…お前に下手な言い回しは通用しねえってな」

「なによ、ソレ。バカにしてんの?」

「嘆き悲しんでんだよ、バーカ」

「バッ…はぁぁっ?!」

「あ〜ぁ。ここまで鈍感でいられると、ある意味開き直れるわ。お前には駆け引きなんて必要ねえ、直球勝負あるのみだっつってな」

「何が言いたいのよ…」

「何が言いたいかってか?一先ず、お前と2人きりで誰にも邪魔されずゆっくり愛し合える場所に今すぐ行けってとこだな。あとのことはそこに行ってからだ」

「今すぐ行けだぁ?…私に命令するのかっ」

「あぁ。俺に今ここで襲われたくなかったらな」

「冗談っ…」

「本気だ」

で、どっちにするんだよ。と、真剣な眼差しを向けて二者択一を迫られた私は、慌てて車のエンジンをかけた。

マジだコイツ…

って言うか。

なんで選択肢が二個限定なんだ…

なんでそこに病室に戻るという選択肢がないんだっ。

それを言っても無駄だと隆志の横顔から察知した私は、ため息混じりにアクセルをゆっくり踏み込んだ。





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あの…決して意地悪してるわけではないですので(滝汗)
書いてたらね、長くなっちゃったというか…
このあとのお話の長さの兼ね合いなどから、一旦ここで切っ…ごめんなさい。
もー、次ページでラストですので!これはホントっ(?)
このページはちょびっと小指の爪の先ほどの甘さですが…お楽しみいただけたら嬉しいです〜

H19.7.10 神楽茉莉