*大嫌い!!




隆志が入院して3日も経つと、社内はもちろんのこと全ての得意先においても彼の入院を知らない者はいなくなった。

私が休みを取って付き添っていた2日間だけでもどれほどの人が見舞いに来ただろう。

会社の人間や、取引先の社長など。

見舞い客が来るたびに隆志の使っているベッドの周りが、色とりどりに華やかになっていく様を見ていると、改めて隆志の社内での人気の高さと、得意先からの人望のあつさを実感した。

花かごだったり、フルーツの盛り合わせだったり…

たかだか肺に穴があいたぐらいで大袈裟な。なんて、当の自分はめいっぱい心配だったクセに、窓際のスペースに置けないくらいに飾られたそれらを見て思ってしまう。


お前は芸能人かっ


隆志の容態はというと、既に3日目には管を抜く事を許され点滴も打つこともなくなり、パジャマ姿以外は外見的には病人だという雰囲気はなくなっていた。

あとは順調に肺が膨らむのを待つのみということで、かなり暇を持て余しているようだった。

なんか、仕事の感覚忘れそう。なんて苦笑を漏らしながら。

4日・5日目の検診では肺の回復は見られなかったけど、一先ず5日目の今日には、傷口部分をカバーして軽くシャワーを浴びれるほどにはなったらしい。

昨日から仕事に行っていた私は、今日も一旦家に車を取りに戻ってから病院に行き、新たに増えた花かごを見た瞬間、

「よくおモテになることで…」

と、ついつい面白くなくて可愛げのない言葉を漏らしてしまった。

「なんだよ、優里…妬いてんの?」

私が行くまでベッドの上で横になりながらテレビを見ていたらしかった隆志は、その姿勢のままいやらしく視線を流してくる。

「はぁ?なんで私が妬かなきゃなんないのよ。バッカじゃない?」

「あははっ!んな、強がんなよ。顔に書いてあるぞ?私、すごくしんぱ〜い♪って」

……なんで音符マークついてんだよ。

「自惚れんな、自意識過剰男っ」

と、隆志の言葉に悪態をつきながらも、何故か顔をさすってしまう。

その様子に含み笑いをしながら、隆志は傷口をパジャマの上から押さえつつゆっくりと起き上がった。

「まあなぁ、俺ってモテちゃうから?気苦労が耐えないねぇ…優里ちゃんは」

確かにその通り。これは自惚れでも自意識過剰でもなく本当の話。

コイツは半端なくモテる。

背が高くてこの容姿を持って、仕事もバリバリ出来ちゃう男…奥田隆志。

どんなに隆志が女に興味がなくても、向こうが放ってはおかないだろう。

そんな男を彼氏に持つ私は、隆志が言うように気苦労が耐えない。

会社では奥田ビイキの女子社員による嫌がらせを受け。

会社を出れば、各方面から色んな手段を使って言い寄ってくる女たちに嫉妬したり。

この入院騒動に至っても隆志の話によれば、一日に何度か見舞いに来た子が数人いたらしいし。

どおりで。有休を取ってる子が多いなと思ったのよ。

……まったく。

それに、このフロアーを担当している看護婦たちの様子もなんだか気になる。

どういう風に?と言われると具体的には答えられないんだけど、なんとなく女の直感ってところかしら。

隆志が、私への気持ち一本だと見せてくれているからこの関係が持っていられるようなもので

少しでも隙を見せたならば我慢は出来ないだろうと思う。

私は気持ちが離れそうになるのを泣いて縋るような性格の持ち主でもないし。

プライドが変に高くて、気が強い私。

だから、こうして自分がモテることを知った上で、あえて私の神経を逆撫でするようなことを口にする
隆志には若干のムカツキを覚える。

「どーぞお気遣いなく。全く気苦労なんてないので」

こういう時、可愛い性格の持ち主だったらなんて言うんだろう…。

と、強がりを口にしながらなんとなくそんなことが脳裏を過った。

「あははっ!強がっちゃって?まあ、そういうとこがお前らしいけど…だけど、なにも不安になってんのはお前だけだと思うなよ?」

「は?」

「お前…昨日今日と会社行ってなにもなかったかよ」

「は?なにもなかったって…なにがあんのよ…」

「誘われたろ…晩飯とかよ」

「……………」

「数人思い当たるヤツがいるんだよ。俺の入院中に隙あらばって考えてる不届きヤローがよ。そいつらに何か言われたりしてねえだろうな」

「……………」

「俺が軟禁状態なのをいいことに、絶対何かしでかしそうなんだよな…って、お前なんで急に黙りこくってんだよ」

「いや…リンゴ?でも食べようかなとか思って。食べる?」

隆志の追及を逃れるように、見舞い品の中にあるフルーツバスケットに手を伸ばす。

いや、別に。やましいことなんて何一つないんだけど

隆志の言ったことが大当たりだっただけに、何故かそれだけで後ろめたい気持ちになったりして。

なんで私がそう思わなきゃなんないんだって思うけど…。

食事の誘いだけじゃなく、もしも隆志が週末もまだ入院してるならドライブにでも…なんて誘われたとなると、やっぱりどこか後ろめたい?

もちろん丁重にお断りしたけどさ。

「ちょっと待てよ、テメエ…なんで今リンゴなんて出てくんだよっ。まさか、マジで誘われて…」

「いや…ちゃ、ちゃんと断ったってば!」

「当たり前だろうがっ。ったく、信っじらんねぇ。予感的中かよ…。ひとが入院してる間に手ぇ出そうとするなんてよ…今すぐ退院したくなってきた」

「なに、バカなこと言ってんのよ。まだ完治してないじゃない」

「そういう問題じゃねえんだよ」

どーいう問題だっつうの!

「あー、なんか…スゲーむかついてきた。優里、わかってんだろうな?お前は俺の女だってよ」

「わ、わかってるわよ…だから断ったじゃない…」

なんか…いつの間にか私、押されてる?

確かついさっきまで私のほうが面白くなかったハズなんだけど…。

「なによ…妬いてるの?」

「あぁ、思いっきりね。大体、俺ほどの男が惚れ抜いてる女を、何を血迷って手ぇ出そうとしてるのかがわかんねえ。勝ち目あるとでも思ってんのかよ…」

……って、私に言われても困るし。

だけど、ちょっと嬉しかったりする。この台詞。

私と違って素直にこうして言える隆志が羨ましくもあり、嬉しくもある。

だからだろうな…何があっても隆志の傍にいられるのは。

「優里…ちょっとこっち来いよ」

ほんの少し黙り込んだあと、隆志が顎をちょっとしゃくって私を呼ぶ。

「なによ……」

訝しげに眉を寄せながら隆志の傍に歩み寄ると、突然腕をグイッと引っ張られてベッドに腰が落ちた。

「ひゃっ!?なっ…なに…」

「牽制…俺の女に手を出すなっつうな」

そんな言葉と共に、隆志の顔が近づいてくる。

私がこの突然の状況に戸惑っているうちに、隆志の唇が首筋に吸い付いてきた。

チクッと首筋に走る小さな刺激。


ちょっ…ちょっ…ちょっと!?


「あっ、あんっ…」

あんた一体何考えてんのよ…。そう言葉になる前に、隆志の唇がそれを奪った。

唇に伝わる柔らかくて心地よい隆志の唇の感触。

僅かにあいた隙間から割って入ってくる熱い隆志の舌が口内をかき回す。

一瞬の出来事だったけれど、それでもボーっとしてしまうぐらい官能的なキスだと思った。

「信じられない…こんな場所で堂々と、なに考えてんのよ…」

少しだけ離れていく感触を名残惜しく思いながら、視線を落としてポツリと小さくそう呟く。

それに、クスクス。と小さく笑いながら、隆志は親指の腹で私の唇をそっと撫でた。

「我慢できなくてな…」

「だからって…みんないるのに」

ここが個室なら、そこまで抵抗はなかったかもしれない。

だけど、ここは6人部屋で全部患者で埋まっている。

それぞれカーテンで仕切られてるとは言ってもそれは隣り同士だけで、就寝前のこの時間は、殆どの患者が足元の通路側をオープンにしている。隆志だってそうだ。

絶対見られてるし!と、帰るときどんな顔をすればいいんだと不安になっていると、再びチュッと軽く唇を重ねてから隆志が視線をあわせてきた。

「だから確認してからしただろうが」

「え…?」

「隣りはまあ…いるみたいだけど、向かい側とその隣りはお出掛けみたいだしな。現場は見られてねえよ」

少し声のトーンを落として小声で囁いてくる隆志の言葉を確認するように振り返る。

本当だ…。ちょうどここから見える2列分のベッドの上は蛻の殻。あとの一つは死角になってここからでは見えない。

隣りからはテレビの音が少しだけ漏れているからいるみたいだけど、案外このカーテン1枚あるだけで会話が漏れるのを防ぐ効果があったりする。

先ほどほんの少し黙ったのは、部屋の状況を確認していたのかと思うとため息が漏れる。

それにしても、だ…

「なにも牽制とか言ってつけることないでしょ?」

「あ?キスマーク?」

「そう!私、もう今年で26よ?バッチリ目立つところにつけて歩けるトシじゃないっての!」

「気にすんな。俺がつけたんだし」

気にするっつうの。

しかも意味わかんねーし。俺がつけたんだしって…なにそれ。

「もうっ。恥ずかしいじゃない。いいトシしてバカみたいにキスマークつけて会社に行くなんてさ…いい笑い者よ?」

「バーカ。それぐらいしねえと悪避けになんねえだろうが」

確かに…隆志にとっては悪避けになるかもしれない。

だけど私にとったらこの行為は、厄寄せになるってことを分かってんのかコイツは。

自分がモテるのだと自覚しているんなら、こういう部分にも気を遣ってよね。

しかもこれが隆志につけられたものじゃないんじゃないか。なんて、疑われでもしたら…

入院中なんだからつけられるわけないじゃん。とか言われてさ…

それこそ話がややこしくなるし、それを考えただけでも頭痛がしてくる。

ホント…勝手な男。

「あー、でも。今の、自分で首を絞めたかも…」

「え?」

「ちょい理性が…」

「……は?」

「今は…19時半過ぎか。検診も終わったし、なんとかいけるかな」

「何言ってんの?」

隆志は意味不明なことをぼやきつつ、時計で時間を確認してからニヤリと笑う。

なんだ…その、不気味な笑みは…。

「お前…今日も車で来た?」

「え?うん…ここ不便だし、一応家族ということで家族用面会時間の23時までいるから帰りのことを考えるとね」

そうしろって先に言ったのは隆志じゃん。と言うと、ヨシヨシ。というようにヤツが頷く。

そして暫く黙ってから、隆志はベッドからおりて立ち上がった。

「お前さ、食後の散歩…付き合う?」

「え、今から?」

「そ、今から。医者から動けって言われてんだよね…だし、付き合えよ」

「あぁ、まあ…いいけど。動いてもいいの?」

「あぁ。激しくはダメだけど軽くならな…」

隆志のその言い方と、カバン忘れんなよ。という一言に若干の疑問を持ちつつも、私は隆志について散歩に出ることにした。

院内を動くだけなら、何かあったときでも対応してもらえるしね。

なんて、気楽に考えていた私だったから、この時隆志が何を企んでいたのかなんて考えもしなかった。





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さてさて。一体隆志は何を企んでいるのか…
優里以外の方は予想できますよね(^▽^;
前のページといい、どんだけ優里は鈍感なんだって感じですが。
続きは週明けに(本当にごめんなさいっ。間に合いませんでした 汗)

H19.7.6
左目に、またまた目イボが出来てしまった神楽でした…うは〜ん…。