*大嫌い!! ・・・・・さっぱり訳が分かんねぇ。 昨日の夕方、取引先の社長が急用で来れなくなったから、自分一人で改装工事の打ち合わせに行って、優里が待ってるハズの自分の家に心躍らせながら帰ってみれば蛻の殻。 不思議に思って携帯にかけてみれば電源を落とされ、家に出向けば門前払い。 今朝だって俺とは視線を合わそうとはせずに、あからさまに素無視をカマす。 優里のヤツは何かに対して怒ってるらしいけど・・・さっぱり見当もつかない。 ったく、なんだってんだよ! おまけに事もあろうか『別れる!』だなんて言葉を発しやがって・・・。 それが例え怒りの延長でつい漏れた言葉にせよ、結構・・・いや、かなりの打撃。 昨日なんて、その言葉ばかりが頭をぐるぐる回って一睡もできなかった。 俺は訳の分からない憤りと焦燥感を感じながら、どうしたもんかと頭を悩ます。 事の根源を聞きだそうにも、当の本人が聞く耳を持たないんだからどうしようもねぇし。 かと言って、このままこんな状況が続くのは俺が堪えられない。 昨日、俺が打ち合わせに出る前まではいつも通りの優里だったんだ。 『あ〜あ。隆志の為に夕飯作るの面倒くさ〜い。』なんて笑いながら憎まれ口を叩いてたのに。 打ち合わせから帰ってみれば一変してこの状況だ。 はぁぁ、もう。どうすりゃいいんだよっ!何が原因なんだ!! こんな状況で仕事に身が入るハズも無く、頭を悩ませながら煙草に火をつける。 俺が悶々とした時間を煙草と共に過ごしていると、それに更に追い討ちをかけるような事が。 ちょうど取引先の工務店から注文された商品の在庫を見ようと倉庫まで出向いた途中で、トラックの陰から誰かが話す声が聞こえてきた。 「なぁ、中里。奥田と何かあった?喧嘩してるようだけど・・・。」 「別に・・・木下君には関係ない事でしょ?」 「あぁ、まぁ。関係ないかもしれないけど・・・俺でよかったら話聞こうと思ってさ。」 「結構よ。」 ・・・・・あんのヤロッ。 木下とは、俺等と同期で営業成績は俺には劣るけど、そこそこ出来るヤツ。で、あいつこそが正真正銘のプレイボーイと名を馳せる男。 入社当時から優里の事を狙ってるって噂が流れてたけど・・・あのヤロー。俺と優里が喧嘩してる事(俺はそう思ってない)をいい事に、付け入りやがって! カッ、と頭に血がのぼるのを感じながら、俺は2人の前に立ちはだかる。 「木下・・・お前には関係ねぇ事だろっ!さっさと失せろよ!!」 「奥田・・・。」 「たか・・・あ、ねぇ木下君、よかったら今日飲みに行こうよ。最近ムカつく事あってさぁ、思いっきり騒ぎたい気分なのよね。ね、いいよね?」 「はっ?!優里!おまっ・・・何言ってんだよ!!」 「だから人の名前気安く呼ばないでって言ってるでしょ!私と奥田はもう何も関係ないんだから、話しかけてこないでよっ!!じゃ、木下君。後でね。」 優里は俺をキッ。と睨みつけてから、踵を返して事務所へ戻ってしまった。 「じゃま、そういう訳だから。中里の事は俺に任せとけって。」 ぽんぽん。と憎たらしい笑みを浮かべて俺の肩を叩くと、木下は去っていった。 っくそっ!!だから、一体全体ナンなんだっつうんだよっ!!! 思いがけず商談が長引き、俺は焦燥感に苛まれながら会社を飛び出す。 優里のヤツを引きとめようと思ってたのに、急に取引先から呼び出され商談に借り出されてしまって。 こういう時は頼りにされてるのも困りもの。 俺は奴等の行きそうな飲み屋を片っ端から探しまわる。 あぁぁ、もうチクショー。何だって、一人の女に俺がこんなに振り回されてんだよっ!! クソ優里。原因がハッキリしたら覚悟しろよな・・・絶対許さねぇから。 夜の飲み屋街を探し回る事6軒。 走りに走りまくったから、さすがの俺も少々息切れがしてきた。 大体ヤツ(木下)のテリトリーはここら辺のハズ。 もし、この店にいなかったら・・・流石にお手上げかもしれない。 少々弱気になりながら、店の前で一呼吸置き、店の中に足を踏み入れる。 ・・・・・やっぱいねぇか? 店内を見渡しながら、諦めのため息を漏らしそうになり、それをぐっと呑み込む。 いたっ!! 店の奥の角地の席に2人の姿を見つけ、すぐさまそこに駆け寄った。 優里のヤツ・・・木下と腕なんか組みやがって・・・後で覚えてろよ。タダじゃおかねぇから。 「優里!てめっ・・・いい加減にしろよっ!!俺を振り回しやがって、何様のつもりだっ!!!」 「あぁん?はんっ、おめーかぁ。いい加減にしろだぁ?あんたがいい加減にしろっつうの!何様だって?優里様に決まってんでしょーがっ!気安く話しかけんなっ!!」 ・・・・・完璧酔ってやがる。 半分目が据わり、頬を紅色に染めながら悪態をつく優里の姿。 どうやら木下は優里が絡み酒だと言う事を知らなかったようで、半分引きつったような表情を見せる。 相当絡まれたか。ザマーミロ。 「優里、おらっ・・・帰るぞ!」 「触んないでよ、もぅ!あんたとなんて喋りたくもないんだからっ!!」 ぐっと腕を掴み引き上げると、思いっきり体を振り回してそれを解く。 その拍子に優里の手が俺の頬を掠め、チクッ。と小さな痛みが走る。 「いって・・・んのヤロー、爪伸びすぎなんだよっ!バカみてーに爪伸ばしてんじゃねえよ!!」 「んですってぇ!そんなの人の勝手でしょうが!!避けきれないあんたの運動神経が悪いのよ!!」 「この減らず口女!さっさと俺のいう事聞けっつうんだよ!!」 「はぁぁ?タラシ男にそんな事言われたかないわよ!何で、私があんたの言う事なんて聞かなきゃなんないのよっ!!」 だぁぁ、もぅ。コイツだけは・・・。 「いいから、来い!木下、お前ココの勘定払っとけよな!!」 嫌がる優里を無理矢理引きつれ、店の外へ出る。 木下は解放された喜びからか、おぉ。と若干顔を綻ばせながら俺等を見送った。 店の外へ出てからも優里の嫌がりようは凄まじく、体を抱え込むのに必死だった俺。 「痛いってば!もぅ、離してよ!!」 「離せるわけねーだろっ!ったく、何ムカついてやがんだよ、お前は。」 「っるさいわね。あんたに関係ないでしょっ!さっさと年上の女のとこ行きなさいよっ!!」 「はぁ?だから、年上の女って誰だよ!訳、分かんねぇ事ほざいてんじゃねょ。」 「しらばっくれる気?サイテー!黙ってればバレないとでも思ったわけ?バカじゃないの?私と言う可愛い女がいながら、年上の女ともホテルに行くようなヤツ・・・サイテーよ。」 「はぁぁ?ホテルだぁ?行ってねぇよ、そんなとこ・・・って、うわっ。」 俺がそう呟いたところで、思いっきり優里に体を突き飛ばされ、危うく転びそうになる。 「見たんだから・・・あんたが昨日、女とホテルに入って行くとこ。信じてたのに・・・隆志の事、信じてたのに。ホント・・・本気で嫌い。あんたなんて、顔も見たくない。」 「ゆう・・・り。」 ・・・・・泣いてる? 俺がその事にたじろいでいると、優里は、バカ。と小さく吐き捨て、走ってタクシーに飛び乗ってしまった。 アイツが泣いてた?優里が? ・・・・・と、言うよりアイツが言ってた昨日のホテルって。 |