*大嫌い!!




・・・・・何よ、あれ。

会社帰りのオヤジやOLが行き交う交差点。

私は2人分の夕飯の材料を買い込み、 クソ重たいわね。などと言葉を漏らしながら歩き、自分の視界に飛び込んで来たモノに一瞬立ち止まり息を呑む。

自分よりも数メートル先を歩く背の高い男と、横を歩くキャリアウーマン風の女性。

パリッとブランド物のスーツを綺麗に着こなす男の後ろ姿。

自分の目を信じるなら、多分あの後ろ姿は自分の彼でもある奥田 隆志のモノ。

・・・・・じゃぁ横の女は?

確か事務所にあるホワイトボードの奥田の欄には、『打ち合わせ・直帰』となっていたハズ。

あの女性が打ち合わせ相手?でも、うちの会社は卸だから打ち合わせをするなら工務店のオヤジ達も居るはずなのに・・・何で女と2人な訳?

不快な脈を打ち始める自分の心臓を片手で軽く押さえながら、2人の後を追う。

少し先を歩く2人は凄く楽しそうに会話を交わし、時折隣の女性が親しげに隆志の背中を叩く。

ちょっと・・・何よ。ヤケに馴れ馴れしいじゃない。しかも、アイツも楽しそうに笑って。

にこやかに笑う横顔を見てると、次第に気分が悪くなってくる。

相手の女性は横顔からすると、30代後半から40代前半。

だけど、その横顔から見受けられる容姿は整っていて魅力的な顔だった。

もしかして、隆志のヤツ・・・・・?

そんな不安も自分の中を占領し始め、余計に気分が悪い。

私が2人を追ってる事など露知らず、彼等はどんどん前に進んでいく。

ちょっ、ちょっと待ってよ・・・このまま進めばこの先って・・・。

遠くからでも分かるネオン街。彼等がそのまま進めば、ホテル街へと行ってしまう。

やだやだ、行かないで・・・その手前で曲がってよ。

そんな私の切なる願いも空しく、彼等は何の躊躇いもなしに突き進んであるホテルの中に入って行ってしまった。

嘘だ・・・嘘よね?・・・・・隆志、これってどういう意味?




***** ***** ***** ***** *****





「すっごいムカツク。」

私は自分のマンションに帰り、2人分の夕食の材料が入ったスーパーの袋を乱暴に床に投げ置き、冷蔵庫から冷えたワインを取り出すとマグカップに並々注ぎ一気に飲み干す。

「ぷっはー。あぁぁ!もぅ、すんごいムカツク!ムカツク!!な〜にが、『俺は惚れた女に一筋なんだ』、だっ!!!よくもまぁ、そんな嘘をこの優里様に言えたもんだわね。ぬあぁっ。もぅ絶交よっ・・・隆志となんて口聞いてやんない。別れてやる。」

ダンッ!と大きな音を立ててマグカップをテーブルに置くと、再び並々とワインを注ぐ。

絶対許さない。プライドが大きく傷ついたわよ!

出来ることなら卓袱台を思いっきりひっくり返したい気分。

イライラとムカムカが入り混じる私の気分。

アルコールでそれを腹の底に流し込み、いつしかワインのボトルを一人であけてしまっていた。

当然、空腹な上に無茶な飲み方をすれば酔いも早い。

私は1時間も経たない内に、立派な酔っ払いとなっていた。

半分据わる目と、クラクラする頭の中。

ティリリリ・・・ティリリリ。と、携帯がカバンの中で鳴っているような気がして、ゴソゴソと探る。

「誰だ・・・・・隆志・・・・っけっ。誰が出てやるもんかー。お前とは・・・絶交だっつうの!!」

携帯の画面に映し出される『奥田 隆志』の文字を見ながら終了ボタンを押し、そのまま携帯の電源も一緒に落とす。

ふん、だっ!勝手に年上の女性とヨロシクやれっつうの。

「あぁ、もぅ。飲み足りない!!なんかお酒・・・なかったっけぇ〜〜?」

ふらふら〜。と千鳥足で冷蔵庫まで歩み寄り、頭を中に突っ込む。

「うぉっ!チューハイはっけ〜ん。あ、スパークリングもあるじゃ〜ん。どっちにしよっかなぁ。」

ふわふわと揺れる上半身で、冷蔵庫の中からそれらを取り出すと、再びテーブルに戻り手をつける。

隆志が携帯に電話してきてから半時間ほど経った頃。

急に、ピンポンピンポン〜。と玄関のチャイムが鳴り響く。

アルコールに犯された私の脳は、すっかり隆志の事など忘れ去っていて、「誰だ、こんな時間に。」などと呟きながら、ドアフォンを取る。

「は〜い。」

『優里、俺。お前、何で携帯に出ねぇんだよ!今日はお前が俺の家で晩飯作って待ってる予定だっただろうが。家に帰ったらお前はいねぇし、携帯に電話したら切られっし・・・。』

「どちらさまですかー。」

隆志の声を聞き、夕方の出来事を思い出して、私の声のトーンが下がる。

『は?おまっ、何言ってんの。俺だよ、俺。鍵開けろって!』

「俺様?・・・知らねーな、そんなヤツぅ。な〜んで、鍵を開けなきゃなんないわけ?知らないヤツを家にはあげられませ〜ん。」

『はぁ?!お前・・・酒飲んでるな。酔っ払ってねぇで、早く開けろよ。腹減って死にそうなんだって。』

「じゃぁ家に帰って食えば?あ、それともあれだね。年上の女性にでも作ってもらえばいいんじゃない?」

『さっきから何訳分かんねぇ事言ってんだよ。年上の女性って何だよ・・・優里、開けろってぇ。』

「気安く人の名前を呼ぶな。あんたとは絶交。もう別れる・・・金輪際、私に構わないで!」

『なっ?!はぁ??ちょっ、待てよ!何、突然言ってんだよっ!!とりあえず、ここ開けろ!!!』

「うっさい!開けないっつったら、開けない!!自分の胸に聞けばいいでしょっ、バカっ!!!」

ドアフォンを顔の前まで持ってくると、最後大きな声を出してからガチャッ。と乱暴に切る。

それから何度も何度もチャイムが鳴り、ドアを叩く音がしたけれど・・・・・ヤツを家に招き入れる事はしなかった。



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