*Magical hand






私は学校を飛び出すと、そのまま内藤の家へと向かった。

途中でコンビニに寄り、買い物を済ませて彼の家の前に立つ。

カバンから携帯を取り出し、内藤を呼び出した。

昨日は繋がらなかった携帯…さっき美和に連絡が来たって言ってたから、もしかしたらって思ってかけてみたんだけど。

よかった…コール音が聞こえてる。

逸る気持ちを抑えつつ、内藤の声が聞こえるのを待つ。

『……………もしもし?』

かなりのコール音の後、いつもより少し小さめの声が受話器から聞こえてくる。

「もしもし、内藤?風邪だなんて嘘ついて学校休まないでよ」

『……仕方ないだろ。お前と顔を合わせづらいしよ…お前だって暫く俺の顔なんて見たくないだろ?』

「勝手にそんな事決め付けないでよ。昨日だって私にも言いたかった事があったんだからね?それを無理矢理追い返されて…ねぇ、今家にいるの?」

『あぁ…』

「じゃあ開けてよ玄関。寒くてたまんない」

『はぁっ?!おまっ…今どこにいんだよ』

「内藤ん家の前」

『はっ?ちょっ…なんでっ?!……』

内藤の慌てた声とドタバタと移動する足音が受話器から漏れてくる。

それからすぐに2階の部屋の窓がカラカラっと開いて内藤が顔を出す。

「よっ!」

「よ、じゃないだろ。須藤…学校はよ?」

「あー、体調悪いから早退してきた。ねぇ…一緒に肉まん食べようよ」

「は?肉まんって…どういう事だよ。しかも体調悪そうに全然見えないし…サボりやがったな」

「人の事言えた口?それよりもここのさぁ、肉まんて美味しいんだよね。特に中身が。私、この肉まん大好き…やっぱり中身が大事だよね?肉まんも…男も」

「須藤?」

「ほぉら、早くあけてよ。肉まんも私も冷え切っちゃうって!!」

「え…あ、ちょっちょっと待て…今開けっから」

窓を閉めると家の中からドドドっと階段を勢いよく駆け下りる音が聞こえて来て、ガチャリと鍵が開いて内藤が顔を出す。

「須藤…お前何考えて…ぅっうわっ!?」

ため息混じりに呟きかけてくる内藤の首に腕をまわしてぎゅっと彼に抱きつく。

勢いに押され、内藤は咄嗟に私の体に腕をまわすと何とか倒れる事を持ちこたえた。

「すっ須藤?」

「内藤…好きだよ?内藤の事大好き…昨日、そう言いたかったのに内藤ってば私を追い出しちゃうんだから!」

「へ?…今、なんて言った?」

突然の事で事態をウマく呑み込めていないのか、内藤の口から素っ頓狂な声と、間の抜けた表情を見せられる。

「もう!ちゃんと聞いてよ。私は内藤が好きなの!昨日内藤から告白されて凄く嬉しかったんだからね?内藤からキスされてすんごくすんごく嬉しかったんだからね!なのに、それなのにさ。内藤ってば言った事もした事も全部忘れてだなんて言って一方的に突き放しちゃうんだもん。酷いよ、それって…私の気持ちも確認しないで」

「私の気持ちも確認しないでって…んな事言ったって、お前は顔が重視なんだろ?佐藤が好みの顔なら、俺なんて到底足元にも及ばねぇじゃんかよ……」

「そんな事ないもん!内藤はカッコイイよ?お洒落だし、センスもいいし。何よりもチビデブスの私を好きになってくれたんだよ?そんな奇特な人内藤以外この世にいないって」

「お前はもうチビデブスじゃないだろ?そんだけ綺麗になったんだ…お前好みのいい男がわんさかこの先言い寄ってくるって」

「私だって肉まんの味くらい分かるもん。どれだけ皮が上等なヤツだって、中身が美味しくなかったら嫌だもん。内藤、言ってたじゃない…中身がよければ外見もそれに伴ってくるって。自分が好きになった子が一番可愛いって…私だってそうだもん。好きになった人が一番…内藤が一番カッコイイよ。私は内藤が好き…内藤幸一が好きなの!!ねぇ、分かってる?」

それでも未だにこの状況を把握できていない様子の内藤。

「いや…急にんな事言われてもだな…俺、あったま悪ぃし…なぁ?」

なぁ?じゃないわよ、なぁ?じゃ。何回告白したら伝わるのかしら、私の気持ち。

私は小さく、はぁ。とため息を漏らしてから、ぐいっと内藤の首を引き寄せる。

「こうしたら分かってくれる?」

「えっ?!」

私はニッコリと笑ってから、めいいっぱい背伸びをして内藤の唇に自分の唇を重ねた。

柔らかく伝わる内藤の唇の感触。

最初驚いて硬直していた内藤も徐々に状況を把握してきたのか、体から力が抜けて私の体にまわした腕に力が篭る。

「……本気で言ってんの?」

「ん…本気」

「……マジで?」

「……マジよ?」

「マジで俺の事?」

「マジで内藤が……好き」

「冗談?」

「……しつこい」

キスをしながら、クスクスと笑う内藤に自分も同じようにクスクスと笑いながら、またキスをする。

重ねるだけのキスから啄ばむようなキスに変わり、お互いの息が上がってくる。

何度も角度を変えて浴びせられる甘いキス。

僅かに開いた唇から、内藤の舌が中に入ってきて私のモノと絡み合う。

次第にお互いを求めるような激しいキスに私の口から甘い声が漏れだした。

「んっ…ぁっ…」

その声を聞いた途端、内藤がビクっと体を震わせて慌てて唇を離す。

なっ…なんだ、今の声。

私の声?

「やべっ…玄関先で襲うとこだった」

「ない…とう?」

「須藤…今日はこのまま帰った方がいい。すぐそこまでだけど送ってくから…今日は帰れ」

「え…なんで?どうして急にそんな事言うの?一緒に肉まん食べようって思ってるのに」

「須藤を自分の部屋に入れて耐えていられる自信がない…ずっとお前を求めてて、ずっと我慢してきたんだ。須藤の気持ちが分かって、キスだけでも脳天ぶっ飛びそうだったのに…お前が部屋になんて来てみろ、絶対押し倒しちまう」

内藤の熱い眼差しに、ドキンと一つ鼓動が高鳴る。

だけど、内藤なら…内藤だから。

「……そうなっても…いいよ?」

「………須藤」



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