*Magical hand






「なんか…意外に綺麗に片付いてるね」

私は内藤の部屋に案内されて、へぇー。と声を漏らしながら綺麗に片付けられている部屋を見渡す。

「……どういう意味だよ、意外っつうのは。こう見えても俺、綺麗好きなんだけど?」

「嘘ぉ。もっと内藤の部屋はきちゃなくて、エロ本とかたくさん山積みされてるんだと思ってた」

「あのねぇ…エロ本は見つからない所に隠してあんの」

「へぇ、そうなんだ……って、持ってんの?!」

「そりゃ俺だって男だし?エロ本の1冊や2冊持ってっしょ?」

「うわー…そんなの見てどうすんのよ」

「まぁ、男には色々事情ってモンがあるんだよ……って、何でこんな会話をしなきゃなんないんだよ!!」

「何赤くなってんのよ」

「うっうるせぇよ」

内藤は少し膨れっ面をしながら、自分はベッドに腰を下ろし、私にテーブルを挟んで向かい側に座るように促す。

その内藤の表情に小さく笑いながらホットカーペットに腰を下ろしてベッドに座る内藤を見上げる。

部屋の中は暖房が暑いくらいに効いていて、コタツがなくてもホットカーペットだけで充分だった。

「今日さ…佐藤君に綺麗に痩せたから付き合ってやるよって言われたよ」

「ふ〜ん………で?OKはしなかったのかよ」

私の言葉に少し視線を逸らしながら、内藤は面白くなさそうにボソっと呟く。

「中身のない男となんて真っ平ごめんよ!って言ってやった。んー、すごい爽快感」

「お前…本当にそれでいいのかよ。俺なんかじゃなく、佐藤を選んでた方が数倍よかったんじゃないか?あいつだったら隣りに歩いていても自慢できるだろう?」

「内藤の方が自慢できるよ?私をこんなに綺麗にしてくれた最高の彼氏だって。なんでもっと早く気付かなかったんだろうって思うよ。私ってバカだよねぇ?外見でしか判断できてなかっただなんて」

「いや、別に須藤の意見はごく一般的だと思うよ?やっぱ第一は顔だろ。大概みんなそこから「好き」って入っていくもんだし」

「でも内藤は違ったじゃない。チビデブスだった私の事を好きでいてくれたんでしょ?すっごい珍しいよね、それって」

「あぁ、自分でもそう思う」

「って、ちょっと!それってすんごく失礼じゃない?」

そう言ってプクっと頬を膨らませると、内藤はおかしそうにケラケラと声を立てて笑う。

「悪い、悪い。そういう意味じゃないんだけど…まぁ、そういう意味か?けど、不思議なんだけどすんげぇ須藤にずっと惹かれてたんだよね、俺」

「内藤ってさぁ…ブス専?」

「いんや…俺、あゆとかあややとかが好みだもん」

うわっ!めちゃめちゃ面食い?

「じゃぁ、デブ専?」

「んー…それも違うかな。どっちかっつぅと華奢な子の方が好みだし」

「……だったらチビ専?」

「まぁ…強いて言うなら明美専」

「はっ?」

「だーかーらー。言っただろ?好きになった子がタイプだって。そういう理屈じゃないんだって、人を好きになるのなんて。あくまで好みは好み。好きになるのとはまた別問題」

「ふーん…」

なんか、よく分からないけど……やっぱり内藤って変わってる。

「じゃあさぁ、チビデブスだった頃の私と…その、キスとか…その先とかって考えられた?」

「あぁ、全然考えられたね。何回夢の中でお世話になったか」

「なっ?!へっ変態!!」

「しょーがないだろ?男なんだし。そういう生きモンなんだよ!」

……開き直りやがった。

全く、どんな夢見てたのよ。

「ねぇ…夢の中の私ってやっぱり太ってた?」

「あー…結構重かった」

……って、どんな夢見てたんだ…内藤は。

「重かったって失礼な!もっ、もう重くないんだからね!ちゃんと標準体重になったんだから!!」

「分かってるって…んな、大声だして主張しなくても俺が一番よく知ってっから。だけど、本当にいいのか?俺で。後悔しない?」

「なんで後悔するのよ」

「全然カッコよくないしよ…」

「すごくカッコよくはないけど、カッコ悪くはないよ?どっちかって言うとカッコイイ方に入ると思う」

「微妙だな、おぃ。まぁ、でもカッコイイ方に入るって言われただけでも救われた気がする」

「私がカッコイイって言ってるんだから、それで充分でしょ?他の子が内藤の事をカッコイイって言ったら私、きっとヤキモチ焼いちゃうから。私だって内藤にだけ可愛いって言っててもらいたい。他の誰からでもなく、内藤だけに」

「充分可愛いよ、須藤。俺の方がこれから数倍ヤキモチ焼かなきゃなんないんじゃない?絶対須藤はこれからモテるからな…先行き不安」

「そんな事ないよ…内藤に綺麗にしてもらえたって思うけど、やっぱりどこか自信がないもん。自分自身に…ねぇ、本当に私って綺麗になれた?もぅチビデブスって言われない?」

「あぁ、絶対言われない。綺麗になったよ、須藤は。すげぇ、俺には勿体無いくらいのいい女になった」

「本当に?」

「本当に」

「じゃあ…自信をつけさせて?私の全てを見て…内藤が綺麗に仕立ててくれた私の全てを……」

「す…どう?」

私はその場に立つと徐にブレザーを脱ぎ捨て、シャツのボタンを外し始める。

「なっ?!ちょっ…すっ須藤?おまっ…何する気?ま、待てって!」

「いいから…見て欲しいの。内藤に私の全てを…全てを見せて、綺麗になったって言って欲しいの。まだ、自分の中での『チビデブス』が抜け切らないの。またみんなにそう言って笑われるんじゃないかって不安で仕方ないの。だからお願い…私の全てを見て?」

「……須藤」

私は身に纏っているもの全てを脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿で内藤の前に立つ。

ゴクンと喉を鳴らして、内藤が息を呑むのが分かる。

私は内藤の手を取り自分のお腹に彼の手を当てる。

「三段腹だったお腹もね、綺麗にへこんだの…内藤と一緒に腹筋したおかげ」

「おわっ!………すっ須藤?」

慌てて手を引っ込めようとする内藤の手をしっかりと掴んで、今度はお腹から太ももに移動させる。

「いつも太ももが邪魔をして踵がくっつかなかったんだけど、内藤と一緒に足上げを頑張ったから、ほら…隙間まで出来た」

少し顔を赤らめながら私の身体をじっと黙って見つめ始めた内藤の手を太ももからお尻に移動させる。

「お尻だってそう…足上げのおかげで垂れてた部分が無くなって…」

お尻から今度は顔の部分まで持ってくると、内藤の体が少し伸びる。

「二重顎だったけど、内藤が教えてくれたフェイスマッサージで二重顎も無くなった」

「………ん」

「首も細くなったし、鎖骨だって見えなかったのに、ほら…ちゃんと見えてる」

「ん…綺麗に痩せたな…須藤」

最後に胸に内藤の手を当てて、胸はちっちゃくなっちゃったけど。って小さく呟くと、別に気にならないよ。って少し笑う内藤の声が聞こえてきた。

「全部、全部内藤のおかげ。こうして痩せられたのも、綺麗にイメチェンできたのも…全部内藤がいてくれたから」

「俺はなんもしてないよ。須藤が頑張ったからだろ?俺はその手助けをほんの少しだけしただけ…全部須藤が努力したからだろ?」

「ううん、違う。内藤がいてくれなかったら、私はここまで出来なかった。ありがとう、内藤。ねぇ、私綺麗になれたかな?」

「あぁ、綺麗だよ…須藤」



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