*Magical hand






それから、私と内藤のダイエット大作戦は始まった。

毎日夜はジョギングをこなし、ジョギングの後は変な筋肉がつかないようにと、入念にマッサージをして。

学校がない週末は、内藤と一緒にプールに行って、ひたすら歩きまくった。(これが一番効果的なんだって。)

何か不思議だけど、内藤なら水着姿を見られても恥ずかしくなかったんだよね。

まぁ、それは私が内藤の事を「男」として認識してないからなのかもしれないけれど。

大好きなお菓子も絶った。(これは何よりも一番辛かった)

ご飯はちゃんとカロリー計算をして食べるようにもなったし。

絶食をしようかとも思ってたんだけど、それは内藤にきつく止められて。

「お前ねぇ。絶食して痩せても、絶対後でリバウンドが来るんだぞ?今の倍以上太ってもいいわけ?」

「え、嘘!それは嫌だぁ。」

「だろ?そう思うんなら、3食きっちり食え。食った分は、運動すればちゃんと燃焼してくれるから。」

正直、内藤が立ててくれるダイエットメニューは辛かった。

走って、プールで泳いで…また走って。

走る事に慣れて来たら、今度はお腹を引き締める為に腹筋も増やして。

私がめげそうになると、内藤はいつも元気付けてくれる。



――――佐藤の彼女になる為に頑張るんだろ?絶対お前ならできるから。



…って。

ぷよぷよだった私のお肉は、燃焼しやすかったのか、すぐに5キロほど体重が落ちた。

元々の肥満具合から言って、然程外見的には変わりがなかったけれど、それでも私は飛び上がるぐらい嬉しかった。

「ねぇねぇ、内藤!今日体重量ったら5キロも減ったよ!!」

「マジで?!すげーじゃん。な?お前ならやれば出来るっつっただろ?そう言えば心なしか顎の辺りのお肉が減ってきたんじゃない?」

いつものようにジョギングの為に家までやってきた内藤を見るなり、私は嬉しさの余り内藤に飛びつく。

内藤も自分の事のように嬉しそうに笑いながら、いい子いい子するように私の頭を撫でてくれた。

「もう、すっごい嬉しい!この調子で行けば、標準体重まで頑張れそう。」

「そうだな。標準体重まであと、ん〜?キロって所か。よし、焦る気持ちもあるだろうけど、じっくり期限いっぱいまで使って綺麗に痩せようぜ?頑張れよ、須藤。」

「あはは!そうそう。まだあと、ん〜?キロだけど…うん、頑張るよ。ありがとうね、内藤。」

「ん?」

「だって、内藤が一緒にやってくんなかったら、きっと自分ひとりでここまで出来てなかったもん。内藤様様だよ。」

「じゃぁ、須藤が佐藤の彼女になった暁には飛び切りのご馳走奢れよな?」

「おぅ!何でも奢っちゃる。」

お互いに微笑み合い、今日のメニューをこなす為に走り出した。




***** ***** ***** ***** *****





月日は流れ、私の体重が減ってきた事が外見からでも分かるようになってきた。

日に日に自分の体重が減って行くのが嬉しくて、佐藤君の彼女としての位置が見えてきたような気がして心が浮かれてくる。

周りの友達からも、明美痩せた?って言う声が聞こえだして、尚更自分の顔に笑みが浮かぶ。

私はルンルン気分で学校からの帰り道を歩きながら、教室に宿題のノートを忘れて来た事に気付く。

「しまった…浮かれすぎて数学のノート机の引き出しに入れたままだったよ。」

ペロっと一人舌を出して、肩を竦めると教室に向かう。

教室の手前まで来た時に、中から数人の男の子の声がしてきて、咄嗟に私は足を止めた。



……誰だろ。まだ教室に残ってるなんて…この声からすると、佐藤君のグループの子かな?



「――――なぁ、猛。須藤のヤツどうすんだよ。」

……須藤?…須藤って言ったら私の事?

ドクンと、自分の名前が出てきた事に心臓が波打ち、思わず会話に耳を欹ててしまう。

「どうするって?」

「ほらー。最近、須藤のヤツ痩せてきたじゃん。お前と付き合う為に頑張ってんじゃねぇのぉ?」

「あぁ、それね。なぁ?…マジで痩せるとは思ってなかったんだけどなぁ。あんな冗談、真に受けるなんて思ってなかったし。」

……冗談って…え…それ、どういう意味?

「何であんな冗談言ったんだよ。」

「えー。だって、面白いじゃん。何か、ニンジンをつられてそれを追っかけてる馬みたいで。あいつに告られた時に、その馬の絵が浮かんできてよ。ちょっとからかっちゃおうっかなぁって感じ?」

「いい性格してんよね、猛。本気だぞ?須藤のヤツ…どうすんだよ。お前、須藤と付き合う気?」

「はぁ?冗談やめろよ。痩せたところであんなダサい女とどうして俺が付き合わなきゃいけないんだよ。どうせすぐにリバウンドして、倍になるって。見ものだよなぁ、倍になった須藤。ぶははっ。想像しただけでも笑える。」

「まぁな。チビデブスは変わらねぇか。どうするよ、猛。倍になった須藤が、『ごめんなさい、佐藤君。やっぱり痩せられなかったの。でも私は佐藤君が大好き…だから抱いて?』なんて言われたらよぉ。」

「うわー。マジ勘弁…想像しただけで勃つモノも萎える。っつぅか、縮む。」

あはははっ!!と、教室から漏れる笑い声に、私の目から涙が溢れ出す。



酷い…酷いよ、佐藤君。

私は本気で佐藤君と付き合えるって思ったから、今まで内藤と一緒に頑張って来たのに。

目標までもう少し…もうちょっと頑張ればって所なのに。

私の努力は一体何?佐藤君達に笑われる為に頑張ってたの?

内藤だって、ずっとずっと応援してくれてたのに……佐藤の彼女になるんだろ?頑張れよって。

笑い者…チビデブス…私はいつまで経ってもここから抜け出せないの?



私は溢れる涙をそのままに、カバンを抱きかかえて家まで走って帰った。



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