*Magical hand






内藤に言われたからって言うわけじゃないけれど……佐藤君に告白してみようかな?なんて気持ちになった。

玉砕でもいい、笑われてもいい。

内藤の受け売りだけど、私には絶対無理だと思うけど、恋ってどう転ぶか分からないんだから。

もしかして、佐藤君はブス専かもしれないし。

いや…今までの彼女を見ていたら、そんな事は絶対あり得ないとは思うけど。

もしかしたら、デブ専かもしれない。

いや、それもないと思う。

チビ専……は、あるかもしれない。

だから、覚悟を決めて告白しようと思った。



――――清水の舞台から飛び降りる。



まさにそんな覚悟で、私は公衆電話から彼の実家に電話をして、彼を呼び出す。



仲のいい友達に、今日佐藤君に告白するって言ったら、すっごい勢いで驚かれて、

「悪い事は言わない…告白なんて、バカな事言うのはやめなって。」

と、言われてしまった。

うん。私もそう思う…私が彼に告白しようなんてバカな事だよね?

「じゃ、なくて。佐藤ってすんごい性格悪いって噂だよ?カッコイイとさぁ、結構天狗になってんじゃん?性格すんごい捻くれてるって。明美はすごくいい子なんだから、あんな性格悪いヤツに告白なんてしない方がいい。」

「私もそう思うよ?あ、明美が佐藤に告白するのが嫌だから言ってるんじゃないからね?私は明美の事が好きだから、明美が恋をしたって言うなら俄然応援したいんだけど…佐藤は止めた方がいいと思う。明美の良さを分からないバカ男ドモにはホトホト呆れるけど、もっと他にいい男がいるって!」

幸いな事に、男の子からはボロクソに言われる私だけど、女の子受けはいいらしい。

クラスの子も、他のクラスの子も、結構私を可愛がってくれる。

何か憎めないキャラでいいんだって…よく分からないけど。(アンパンマンだからか?)

必死になって、みんな私を説得してくれたんだけど……そう言われると、意地でも告白したくなった私。

結構、性格が曲がってるかもしれない。と、思った。




佐藤君の家の近くの空き地で待っていると、程なくして普段着の彼がやってきた。

モテる彼はこういう事に慣れているのか、別段変わった様子も見せずに私の前に立つ。

間近で見る佐藤君。やっぱり顔が整っていてカッコイイって見惚れてしまう。

私が暫く、ボーっと見ていると、「で、何?」と、ポケットに手を突っ込み首を傾げる。

「えーっと…あの。こんな私から言われるなんて不本意だと思うんだけど…その、一緒のクラスになってから気になってて…その…何ていうか…あの…」



あー…心臓がドキドキしちゃって上手く言葉が話せないよ。



「もしかして、それって俺が好きとかって言う告白?」

いつまで経っても言葉が出ない私に対して、彼は痺れを切らしたのか私の言おうとした言葉をサラッと口にする。

「あ…うん。」



――――…マジかよ。



そう小さくボソッと呟いた佐藤君の声が微かに耳に届き、俯いてしまう。

あー、やっぱり。迷惑じゃん、とかって思ったんだろうなぁ。佐藤君の声、嫌そうだもん。

「で?好きって言ってその後は、付き合ってくださいとか言うわけ?」

「そんなっ!付き合って、なんて言えないけど……もし良かったらなんて思ったりして。」

佐藤君はその言葉に一瞬眉を寄せてから、地面に視線を落として暫く何かを考える素振りを見せてから、ニッコリと私に微笑みかけてくる。



「いいぜ、付き合ってやっても。」

「えっ?!」



――――付き合ってやっても。



私は彼の言葉が一瞬理解できずに、固まってしまう。

「まぁ、ただし。俺と付き合うなら、もうちょっと痩せてくんない?俺、太ってる子ダメなんだよね。須藤が俺の為に痩せてくれるっつうなら、付き合ってやってもいいけど?」

「嘘…ホントに?」

「あぁ。痩せられる?俺の為に。」

そりゃあなた……あなたと付き合えるなら私は絶食してでも痩せてみせるわよ。

「うん、痩せる!絶対痩せる。」

「そ?じゃ、頑張って。須藤が痩せられるまで、俺は彼女を作らずに待っててやっからさ。」

「それって…それって佐藤君も私の事が好きって事?」

「さぁ?…それは須藤の頑張り次第なんじゃない?」

そう言って、佐藤君はクスクスっと小さく笑う。

ちょっとその笑い方が気になるけど……でも、私が頑張って痩せたら佐藤君は私の事を好きになってくれるんだ?

是が非でも頑張らなくては!!

「じゃ、じゃぁ約束してくれるのね?私が頑張って痩せられたら付き合ってくれるって。それまで本当に待っててくれるのね?」

「あぁ、いいよ。ただし、待ってられるのは2年の間だけだからな。それまでに痩せられなかったら……」

「痩せる!絶対痩せるから…その先は言わないで。」

私は佐藤君の言葉を遮り、力強く言葉を発す。

2年の間って事は…今は、9月だから後半年?

半年あれば何とかなる……かなぁ。



私は佐藤君と別れて軽快な足取りで、帰り道を歩く。

うわー。何か、信じられないけど頑張れば佐藤君と付き合えるんだ。

あの佐藤君だよ?クラスでも他のクラスでも注目されてる彼なんだよ?

ホント、恋ってどう転ぶか分からないもんだね。

何だかニヤけてきちゃう。

まだ痩せてもいないのに、付き合うつもりでいる私。

でも、佐藤君の為なら頑張れる気がする。

そう、ウキウキ気分で歩いていると、カバンの中の携帯が鳴る。

「ん…誰だろ。あ、内藤だ!」

この話を誰かに話したいって思ってたから、タイミングよくかかってきた内藤からの電話に笑みが漏れる。

『もしもし?あのさ…美和達から聞いたんだけど、マジで佐藤に告ったのか?』

美和と言うのは友達の中で、一番仲がいい女の子。

その彼女と内藤も仲がいいから、情報流れるの早いなぁ。なんて思いながら、携帯を握る。

「へっへー。告ちゃったよ。」

『で?返事は?』

「うん、それがさー。信じられないんだけど、私が痩せたら付き合ってくれるって。」

『え…マジで?痩せたらって……それ、どういう意味だよ』

「んー。佐藤君は太ってる子は苦手なんだって。だからね、私が痩せたら付き合ってやってもいいって。」

『それは佐藤が須藤の事を好きだって事?』

「いや、それは私の頑張り次第だって言われた。だからね、頑張ろうと思って。」

『佐藤の為に痩せるっての?』

「うん!だって、頑張ったら彼と付き合えるんだよ?あ、そうだ!内藤さぁ、一緒に走ったりしてくれないかなぁ?」

『は?…一緒に走るって…俺が?』

「んー、2年の間に痩せなきゃダメなんだよね。一人でやると途中で萎えそうだから、内藤も一緒にダイエットに協力してくれないかなぁ…なんて。家も近いし。」

私の突然の申し出に、暫く黙っていた内藤が口を開く。

『あー、まぁいいよ。体動かすのは嫌いじゃないし、高校も部活とかに特別入ってる訳じゃないから、体なまりそうだしな。須藤のダイエットに協力してやるよ。』

「うわっ!ホントに?助かるよ。じゃぁ、早速今晩からお願い!!」

『げっ…早速か?』

「あったりまえよ!」

善は急げって言うでしょ?



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