<ご注意>こちらの作品は、性的描写が含まれております。 申し訳ございませんが、18歳未満の方、そういった表現が苦手な方は、ご遠慮ください。 *Magical hand 『チビデブス』 それが小学生から高校2年生の今現在までの私の裏のあだ名。 男の子達は私の前では普通の苗字で呼ぶけれど、影でそう呼んでるのは知っている。 ちびでデブでブス…省略して「チビデブス」 誰が考え付いたのか知らないけれど、まぁ…上手い事言うね、なんて他人事みたいに思ったりして。 だけど、そう言われてる事が当たってるだけに文句が言えないこの容姿。 143cm 73Kg 決して可愛いとは言えない自分の顔。アンパンマンみたい…って、友達からもよく言われる。(失礼だ) 自分でも納得してるけど、裏のあだ名を気にしてないかって言うと、嘘になる。 だって私だって一応女だし…誰かに「可愛いね」って言われたい。 それにね、こんな恋愛とは程遠いって思われてる私だけど、最近同じクラスの男の子が気になりだしてるの。 佐藤猛(さとう たける)君。 彼は背が高くって、ジャニーズ並にカッコいいから、うちのクラスの子も違うクラスの子からも結構人気があったりする。 だから、彼は私にとっては高嶺の花。 どれだけ眺めていても、決して手に入らないモノ。 私にとっては誰が相手でもそう言えるわけで、どうせ私が誰かに恋をしても叶わないんだから。そう思っていつも諦めている。 「はぁ〜。」 机に両肘をついて、その上に顎を乗せた私の口から大きく漏れたため息。 「なに、でっかいため息なんてついて」 「あぁ…内藤かぁ。」 クラスの男の子の中で唯一私に気軽に話しかけてくる、内藤幸一(ないとう こういち) 彼はクラスの中では目立つ存在ではないけれど、根暗と言うわけでもなく、いたって普通の男の子。 どうやら美容師を目指しているらしく、練習の為にとちょくちょく自分の髪を弄ってるから、いつも髪型も色も違う。 今は片方の髪を少し伸ばして、もう片方の耳の上を短く刈り上げてるちょっと変わった髪形。(ショートにしたいのかスポーツ刈りにしたいのかどっちなんだ!) 色は彼曰く、「ゴールドをベースにポイントにアッシュ系ローライトを入れてみたんだ」そうで。 うちの高校は結構校則が緩くて、みんな奇抜な髪型をしてるから、普通にしてたら目立つであろう彼の髪の色も形も気にならないんだけどね。 けど、自分でそこまで出来ちゃうんだから、内藤の腕はカナリあると思う。 あとはもうちょっとジャニーズ並の顔立ちをしてたら、きっと彼はすごくモテるだろうな、って思うんだけど。 あ、別にかっこ悪いって言ってるんじゃないよ?かっこ悪くないんだけど、凄くカッコイイわけでもない…街を歩いていたら、そこら辺で見かけそうな普通よりちょっとだけ上かな?って感じの顔。って、こんな私から言われたら、内藤怒っちゃうかもしれないけど。 その内藤がどうして私なんかに話しかけてくるのか不思議で仕方ないんだけど、私の仲良くしている友人とも仲いいし、よくみんなでも遊びに行ってるから、ついでに話しかけてくるだけかな?なんていつも思う。 私は彼にチラッとだけ視線を動かして、またボーっと前を見る。 「須藤明美(すどう あけみ)は、恋煩いってか?」 私の前の席の椅子に跨るように座って、背もたれ部分に両肘を乗せながら、内藤はニッコリと笑ってくる。 「……………恋煩いって、別にそんなんじゃないよ。」 「そう?な〜んか、顔が誰かに恋してますーって顔なんだけど?」 「えー。こんなチビデブスが恋したって叶わないもん。恋心を持つだけ無駄だよ。」 「そうかな?別に誰かに恋する分には自由なんじゃないの?それに…チビデブスって何だよ、それ。」 「知らないの?私の影のあだ名…男の子達はみんなそうやって影で私を呼んでるよ?」 「へぇ…知らなかった。」 「ふ〜ん、そうなんだ。でも、内藤もこのあだ名、ウマイ!って思ったでしょ?私にピッタリって。」 「いや、別に。須藤明美は須藤明美だし。人が影で言うような事は気にしなくてもいいんじゃない?」 そう言って首を傾げてくる彼に、別に気を使ってくれなくていいのに。って言ったら、使ってないけど。ってサラッと流されてしまった。 なんか…内藤って変わってる。 「でもさ、須藤が誰かに恋してるなら、告ってみたらいいじゃん。」 「えー!そんなの私の容姿を見てからモノ言ってよ。絶対無理に決まってるじゃない。」 「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん。」 「やらなくても分かるよー。絶対無理だもんそんなの…私じゃ絶対に無理!」 「何でそう決め付けんだよ。お前、そうやって自分を卑下するのはよくないぞ?もっと自分に自信を持てよ。」 人の事をバカにしてんの? どこをどう見て自信を持てと? 「じゃぁ、聞くけど。私のどこが自信を持てると思うわけ?」 「え、どこって……」 急に押し黙る内藤。 ほらご覧なさい…答えられないクセに、そういう無責任な事を言わないでよね。 「なぁ…逆に聞くけど、須藤はどうなったら自分に自信が持てるわけ?」 「どうなったらって…そんなの決まってるじゃない。もっと身長が高くなって、もっと細くなって、もっと美人になったらよ。」 「それって外見ばっかじゃん。」 「そうよ?恋の勝負は外見から始まるのよ。その時点で私は負けてるの。だから、誰かに恋をするなんて無理な事なの。」 言ってて悲しくなるけれど、これが現実。 私はどう頑張ったって、恋をする資格がない。 こんなに、チビで、ぶっとくて、可愛くない私には。 「スタートラインにも立たずに、試合を放棄する訳?須藤は負けてるって言うけど、勝ってる部分もあると思うよ?」 「勝ってるって…何が勝ててるって言うの?」 「人一倍明るいところとか、人一倍努力するところとか、思いやりもあるし、何気に負けん気が強いし、それに人一倍よく食う。」 最後の一言が余計な気がする。 「そんなの、そうでもしなきゃ本当に根暗なイジイジ女になっちゃうじゃない。だから、努めて明るく振舞ってるし、顔が良くない分頭ぐらいは良くないとって思って勉強もしてる。負けん気が強いのは昔からだし、でもそれは逆に言えば可愛くない女でしょ?気が強いのなんて…可愛かったら許されるだろうけど…私じゃマイナスイメージに拍車をかけてるだけだもん。」 「でも、ウジウジされるより気の強い方が俺はいいと思うけど。須藤はそうやって人一倍努力してる所に自信を持てばいいんじゃない?」 「目立たないとこばっかじゃん。」 「そういう事の方が大切だと思うけど。ほら、よく言うじゃん。美人は3日で飽きるってね?」 「ぜ〜んぜん、飽きないと思うけど。私なんてカッコイイ人見てても全然飽きないもん。」 「と、いう事は。須藤は外見重視な訳?」 「そりゃ、出来ればその方がいいでしょう?まぁ。私の場合そんな事言ったら、何お前がそんな事言ってんだよって蹴り入れられそうだけどねー。」 クスクスっと笑いながら、内藤の方に視線を向けて、何故か少し複雑な表情を浮かべる彼に首が傾く。 「何、どうかした?」 「え?いや、別に。でも、恋ってどう転ぶか分からないものだからさ、告ってみてもいいんじゃない?」 内藤は椅子から立ち上がりながら、ポンポンと私の肩を軽く叩いて小さく囁いてくる。 ――――今ならフリーだからさ、佐藤猛は。 「えっ?!」 なっ何で知ってるの?! |