ほんのり恋の味


未知なる世界へ ...02

2人共がどこかしらぎこちなく手を繋いで街を歩く。



とうとうやって来てしまった今日と言うこの日。

さっきからどうも落ち着かなくて、ソワソワと自分の鼓動が蠢いている。

篤の方も今日は何だか口数少なめで、それが余計に自分を追い立ててるような気がしていた。



あー…何か喋らないと、落ち着かない。

折角朝早くから会ってるのに、無言のままで終わっちゃいそうだよ。

でも、何喋ろう?

ドキドキ心臓が鳴っちゃって、言葉を出すとそのまま心臓の音までが聞こえちゃうんじゃないかって思ってしまう。



「加奈子…映画でも見よっか?ちょうどそこ、ちっせーけど映画館みたいだし」



何か喋らなきゃと話題を探していると、篤の方から声をかけてくる。

その言葉にホッと胸を撫で下ろし、篤と一緒に歩を止める。



「え?映画……あ、うん。いいね、映画見ようか」

「えーっと。今やってるのは、と……ホラーか恋愛モンしかやってないけど。どうする?」

「げっ。ホラーはパス。映画館で観るのは懲り懲りー」

「あははっ!別に俺はそれでも全然OKだけど?加奈子から抱きついてもらえそうだし」

「なっ?!何言ってるのよ!抱きつかないって。あー…でも、恋愛モノも苦手だしなぁ」

「じゃぁ止めとく?」



そう言って篤は私の顔を覗きこんでくるけど。

ドキドキしながら篤に手を引かれて街を歩くよりは、映画を見てる方が楽かもしれない。

少なくとも映画を見てる間は喋ろうって努力しなくても済むんだから。

いつもならこんな心配しなくてもいいぐらい話題が尽きないのに……。



「あーっと、たまには恋愛モノもいいかな?篤はこれでもいいの?」

「え?あぁ、俺は別に何でもいいよ。どのジャンルでも楽しめる方だし」



とっ、とりあえず、2時間程度は時間潰しが出来るわね。



――――なんて、その考えが甘かった。





……………しまった。





篤と一緒にラブシートとか呼ばれる場所に並んで腰掛けて見始めたはいいけれど、画面を見つめたまま自分の頬が次第に赤く染まって行くのがわかる。

恋愛モノにはつき物の、ラブシーンがある事をすっかり忘れていた私。

話が進むにつれて、やっぱりそういうシーンも出てくるわけで。



みっ、見れない。



この映画を見ようと言った事を後悔しつつ、外国人さんのキスシーンに戸惑っている自分を誤魔化すように体の位置を少しずらす。

と、突然篤の腕が私の肩にまわってきて、くいっと引き寄せられてしまった。



『えっ?!あっ、篤?』

『加奈子、キスしよっか?』

『は?え??なな何言ってるの、突然。ここ映画館だよ?みんないるんだから無理だって』

『こんなガラガラで、周りにも人がいないんだから大丈夫だって。何の為のラブシート?』

『何のって……でも……っ』



続きの言葉は篤の唇によって奪われてしまった。

ゆっくり啄ばむように繰り返される篤からの短いキス。

場内に響くキスシーンの音と重なって、妙に自分の体が熱く火照ってくる。

どっちの音かもわからない水音。

唇に伝わる柔らかい感触と温もり。

次第に大胆になって、唇を割ってゆっくり入ってくる篤の舌。

それを感じてビクッと体が震えたけれど、抵抗する気にはなれなかった。

どんどん深くなる篤とのキス。

いつの間にか私の体は篤に抱き寄せられていて、体全体を預けるような体勢になっていた。

映画なんてそっちのけで、与えられるキスに酔いしれる。

自分の脳に白い霧がかかり始めた頃、突然篤の手が服の上から私の胸に触れた。





「……んっ…」





ビクッと震える体と同時に漏れた自分の声。

なっ何、今の声?

え…私の声??



自分の声に戸惑っていると、篤が唇を離して視線を合わせてくる。

その顔はあまり見せたことがない真剣なものだった。

「ごめん、加奈子。やっぱ無理」

「え……なっ、何が?」

「俺の部屋に連れて帰ってもいい?」



…………え。