ほんのり恋の味


未知なる世界へ ...10

必要な物以外、何も置かれていないようなシンプルな男の子っぽいスタイルの部屋。



その部屋で私は今、篤と共にお互い向かい合って正座をして座っているところだ。



………何で正座なんだ、私達。



2人共が若干頬を赤く染めながら、お互いに次の言葉を待っているようで。



「あー…っと。何か……飲む?」



先に口を開いたのは篤の方。

特別な事を言われたわけじゃないのに、ドクンっ。と一つ鼓動が鳴る。



「えっ?!あ…あぁ、うん。なっ、何かもらおうかな」

「えっと、何かあったかな…」

「あのっ。家の人は?今日はお出掛け?」



アパートに入った時に誰もいなかった事を思い出して、ちょっと聞いてみたりする。



「あぁ。俺ん家、母親が早くに死んじまったから親父と2人で住んでんだ。で、親父は長距離のトラックヤローだから、殆ど家にいなくてさ……」



まぁ、一人暮らしのようなモン。と、可愛らしく笑いながら立ち上がる。



「あ…ごめん」

「え?どうして謝るの?」

「あーいや、何となく」

「あははっ!別に気にする事ないのに。ずっとそうやって育ってきたから慣れっこだって」



篤はそう言って笑いながら、台所に飲み物を取りに行く。



そうなんだ。篤ってばここで一人暮らしのような生活してたんだ。

全然知らなかった……だから毎日購買でお昼買ってたんだ。



……そっか。



帰りに本屋さんに寄って料理の本、買って帰ろうかな……………初心者向けの。







「あのさ、加奈子」

「っん…何?」



篤が持ってきてくれた飲み物を飲みかけた所で声がかかったから、危うくこぼしそうになって慌てて掌でそれを受ける。

それにちょっと反応を見せて、篤は近くにあったティッシュケースを私に差し出しながら言葉を続けた。



「俺の部屋に連れてきたって事は、俺がどういうつもりなのかって……分かってるよね?」

「……………あー」



忘れてた訳じゃないけれど、考えないようにしてたのに。

落ち着きかけてた心臓が、再び急激に高鳴り出す。



「映画館で我慢できなくて、無理矢理ここに連れてきちゃったけど……今なら何とか間に合うから。嫌だったら嫌ってハッキリ言ってくれていいよ?」



今なら何とか間に合うって、もう篤の部屋に来ちゃってるのに?

嫌って言えないような状況なのに?

………一応、勝負下着とやらも着けてきちゃってるし。

改めて、篤からそんな事を言われると、何て言っていいのか分からずに困ってしまう。

私は返答に困りつつ、徐々に火照り出す頬を隠すように両頬に手をあてて小さく呟く。



「嫌……じゃない…けど」

「………けど?」

「えと…その何…あの…どうしたらいい?」



何が言いたいんだ、私。

言葉が上手くまとまらずに、真っ赤な顔で俯く。



「加奈子は何もしなくていいよ?俺に全てを預けてくれたら……」



そんな篤の声が上の方でして、頬に彼の手が触れるとそのまま上を向かされて唇が重なった。



*** *** ***




キスで翻弄されながら、篤に服を脱がされてお互い下着姿でベッドの上で向かい合って座る。



……………はっ恥ずかしー。



私は真っ赤に頬を染めて、なるべく篤と視線が合わないように下を向く。

けど、下を向けば向いたで篤の下着が視界に入るわけで……どこ向きゃいいんだ!!



「すごく可愛い下着。加奈子ってそういうの着けてたんだ」

「やっ、あの…普段はこんなんじゃないんだけど…買ったの…勝負下着」



………って、おぃ。

何喋ってんだぁ!!

勝負下着って言った、今?言っちゃった、私??

あぁ、もう最悪。



篤は私の言葉に一瞬驚いたような表情を見せたけど、ニッコリと嬉しそうに笑って、

「なんだ…そっか」

と、感慨深げに呟き、私の体をぎゅっと抱きしめてくる。



「わっ?!やっ…あぁ篤??」



直に触れる篤の肌の温もり。

途端に自分の鼓動がはちきれんばかりに、ドクドクドク。と大きく波打つ。



「すげぇ…今、むっちゃくちゃ嬉しいよ。加奈子も同じ気持ちでいてくれたんだ…ありがと、加奈子」

「あっ、ありがとって…別に、そんな…」

ぎゅぅ〜っと、めいっぱい抱きしめてくれるけれど、頭がクラクラして倒れそうだった。

それよりも何よりもあなた…私の心臓が爆発しそうなんですけど?

「好きだよ、加奈子…大好き」

そう耳元から篤の声が聞こえてきて、彼の肌の温もりが離れると、代わりに唇に柔らかい感触が伝わる。

啄ばむようなキスから始まり、徐々に深くなっていくキス。

いつの間にか押し倒されていたけれど、頭の中はもういっぱいいっぱいでされるがまま。

それでも全然まだまだ応えられない私だけど、少しずつ篤と同じように自分の舌がぎこちなく動いていた。

篤は舌を絡めながら、頬に当てていた手を首筋を通って鎖骨を這わせ、ブラの上から胸を包み込む。



「………んっ…」



やっぱり漏れた聞きなれない自分の甘い声。

篤に触れられただけで、胸の奥がきゅんっと刺激される。

「加奈子の胸…すげぇ柔らかい……」

独り言のような囁きに、どう反応していいのかわからない。

私はただ目を閉じて聞こえないフリをする。

それを特に気に留める様子はなく、篤はそのまま優しく包み込むように掌を動かし、時折親指で先端を刺激するように動かしてきた。



「んっ……ぁっ…」



先端を弾かれるたび、ピリッと脳内でショートするような刺激が走る。

篤からのキスと、今まで感じた事のない刺激に自分の体が無意識に反応を示していた。



わわっ!どうなってんの、今の私。

自分が自分じゃないみたい……もう、何がなんだかわからないよ。

私はこんなにいっぱいいっぱいなのに、篤は平気なの?余裕なの?

次第に息が上がってくる自分に戸惑いながら、自分一人だけ余裕がないんじゃないかって思えてくる。

そんな不安を抱き始めたとき、篤がゆっくりと唇を離して私の首元に顔を埋めると、ぼそっと呟いた。



「加奈子……ごめん」

「え?なっ、何?」



なっ、何がごめん?え、私何か変な事した?



「ホック……どこ?」

「ホック?!」

ホックって、ホックって何?え…ブラのホックの事??

「ホックって……ブラの?」

「…………ん」

「あっ…まっ、前…前なのホック」

そういえば、これってフロントホックだったんだ。

「そっか…前、なんだ。……必死で探してた、俺」

篤は私の首元に顔を埋めたまま、ははは…。と力なく笑ってから、はぁ。と息を漏らす。

「篤?」

「ごめん、加奈子。俺、加奈子を不安にさせない為に必死で平静を装ってたけど……すげぇ緊張してて…段取り悪いよな、ごめんな」

「そんな…」

ごめんだなんて。

むしろ篤も私と同じように緊張してたんだって事が嬉しいのに。

私だけじゃなかったんだって。



篤となら怖くない……未知なる世界へ足を踏み入れても。

この瞬間、ふわっと気持ちが軽くなった気がした。



私は篤の背中に腕をまわしてきゅっと力を入れる。



「私、篤の事大好き…初めてが篤でよかったって思うよ」

「……加奈子」



きっと真っ赤だったと思う、私の顔。

篤もゆっくりと顔を上げて私の視線に合わせてくると、俺も加奈子の事大好きだよ。って微笑んで唇を重ねてきた。