【加奈子Side】
……………買ってしまった。
私は自分の部屋に戻り、紙袋から取り出したものをじっと眺める。
薄いいピンク色の下着セット。
うん、可愛い♪……ん、だけど。
買ってしまったからには週末覚悟を決めなきゃいけないんだろうか。
篤はきっと外へお出掛けって思ってるだろうし、自分だってまだ半分はそのつもりなんだけど……。
……あと半分は。
――――加奈子も一緒に綺麗になろうよ!
――――世界がちょっと違って見えちゃうわよ?
じっと下着を眺めたまま、美佳子の言葉を思い返す。
篤とそういう関係になったら、どんな風に世界が変わるんだろう?
本当に美佳子の言う通り綺麗になれたりするのかな?
篤の腕の中……って、どんなんだろう。
全く持って想像がつかないよ。
あんな初めてのキスだって、びっくりはしちゃったけど全然嫌じゃなかったし、何だかまるでふわふわと夢の中にいるような感じさえした。
そんな感じ……なのかなぁ。
でもね?
もしも覚悟が決まったなら、その時はどうすればいいわけ?
篤は私がいいって言うまで待ってるって言ってたけど。
え…私から言うの?
そんなの絶対恥ずかしすぎて不可能に近いんですけど。
でも、一応は会う日にはこの下着を着けて行こうかな。
ちょっぴり頬を赤く染めながら、私はそんな事を考えていた。
【篤Side】
……………買ったのはいいけど。
これってどこに置いとけばいいんだよ。
不透明なビニール袋から取り出した小さな箱を手に持ち、暫くの間自分のベッドで固まる俺。
加奈子と会う日は多分外でのデートなんだろうけど、もしかして?って事もあり得るわけじゃん?
そうなったらさ、加奈子を不安にさせない為にも用意周到・順風満帆で行きたい訳で。
でもなぁ。
そうなった時に、用意してましたって感じの所から出したら、いかにもやる気満々でしたって見え見えじゃん?
まぁ……満々に間違いはないんだけど。
かといって、箱のまま置いといてそっから出すのも……なんか段取り悪いしなぁ。
軽くため息を付き、封を切って箱の中から小さな袋を一つ取り出す。
実際実物をこの目で見るのは初めてに等しかった。
だから何となく気恥ずかしさと共に気分も高揚してきたりして。
これを使って加奈子と……
遂に俺にもそんな時が来たのか!
ヤバ…想像したら……
俺は自分の頬がほんのり赤くなっているのを自覚しつつ、ゴホホン!ととりわけ大きな咳払いをして気分を正す。
落ち着け、俺。今はコレをどこに置くか…が、問題だよな。
枕の下…とかって、それこそいかにもな場所だしなぁ。
机の引き出しは、ちと遠いし。
財布とか制服のポケット?…そんな所に入れといて、加奈子からいつもそんなモノを持ち歩いてるのか!なんて思われても嫌だしな。
どうするかな………って、俺悩んでばっかだな。
そう思うと自分の口から苦笑が漏れる。
………やっぱここしかねぇよな。
少し手を伸ばしてベッドボードの小さな引き出しを開けて、手に持っている小さな袋をコトンと入れる。
こんだけ悩んでっけど、会う日は外なんだよな?
でもさ、もしも…もしもだよ?加奈子がその気になってくれてたら?
加奈子から誘われるだなんて事100%に近い確率であり得ないよな。
だったら俺から誘う?
でも、いいって言うまで待ってるなんて言ったしなぁ。
………何で俺、あんな事言ったんだ?
アレを使える日…いつくるだろう?
俺はベッドボードの小さな引き出しを見つめながら、加奈子の顔を思い浮かべた。