ほんのり恋の味


未知なる世界へ ...07

色とりどり、デザインも様々な下着が並ぶ。

私と美佳子はその下着売り場の一角に並んで立っていた。



………そう、勝負下着を買いに。(正しくは美佳子に無理矢理連れてこられたんだけど)



「はぁ、もぅ加奈子は。斉藤君をそこまで追い込んでどうするのよ」

「追い込むって……別に私は」

「爆発だなんてよっぽど我慢してるってことでしょう?加奈子、やっぱり週末に覚悟を決めるべきよ。斉藤君の為に」



美佳子は色んな下着を手に取りながら、ため息混じりにそんな事を言ってくる。

そんな事言ったって……篤の為に?んー。



「加奈子さぁ。そんなに渋る理由は何?」

「え……何って……分かんないけど、痛いし…怖いし?」

「そーんなの、痛いかどうかなんてやってみなきゃ分からないって。痛くない子だっているんだし。そんなに最初から構えてると痛くなくても痛くなっちゃうわよ?根性見せなさいよ、加奈子」



こっ、根性って……。

こんな所で根性見せてどうすんのよ。



美佳子の言葉に深いため息を付きながら、自分も様々な下着を手に取ってみたりする。

「あ、これ可愛い」

ふと何気なく手に取った下着。

薄いピンクの生地に大きな花柄がプリントされていて、ふわふわっとストラップ部分からカップにまでフリルがついているブラとショーツがセットになったもの。

それを手に取り眺めている私を見て、美佳子が少し驚いたような表情を見せる。

「えー、意外!加奈子ってそういうフェミニン系が好きなんだ。もっとボーイッシュ系なのかと思ってた」

「……悪い?」

「ぜ〜んぜん。いいんじゃない?好みなんて人それぞれなんだし。斉藤君も喜ぶと思うよ〜?」

「そうかな。喜んでくれるかな」

ふと篤を思い浮かべて笑みが漏れる私。



………って、何買うつもりになってるの?



「加奈子ー。加奈子も斉藤君に女にしてもらってさぁ、一緒に綺麗になろうよ!」

「……綺麗に?」

「うんうん!何かね、女の子って好きな男の子とエッチすると綺麗になれるんだって。どう?私、ちょっとは綺麗になったかしら?」

一応悩ましげなポーズを取ってるらしい美佳子の姿を見て、一瞬考え込んでしまう。



……………イマイチ違いが。



美佳子は元々が綺麗だからなぁ。

綺麗になったか?と、言われればなったような気もするし、変わってないような気もする。

強いて言うなら……大人の雰囲気がちょっと出た?

あぁ、やっぱ分かんない。



「……微妙」

「………。何よ、その微妙っていうのは!もぅ、失礼しちゃう。お世辞でもいいから綺麗になったって言ってよねぇ」

「お世辞って……だって分からないんだもん。正直に言ったまでよ?でもまぁ…大人っぽくなった…かなぁ?」

「あん、もう!わからないならもういいわよ。まぁ、加奈子も斉藤君と一線を越えられたら分かると思う。私が言いたいこと。ちょっぴり世界が違って見えちゃうわよ〜?」

何て、少しいやらしい笑みを浮かべながら美佳子は言うけど……。

どんな風に世界が違って見えるの?

私には全然分からないって。

暫く無言でいる私に対して、とにかく!と、肩を叩いてくると、

「週末、頑張るのよ!応援してるからね♪」

なんて念を押されてしまった。

え……予定ではしませんけど?



*** *** ***





加奈子が美佳子と一緒に勝負下着を買いに行っている頃――――



とある薬局の前にて。





………どうしようか。

買っておくべきか、まだ先のようだから買わなくても大丈夫なのか。

悩みどころだよなぁ。

男としてアレを用意しておくべきなんだろうけど。



……………すんげぇ恥ずかしい。



俺は薬局の前で店に入ろうかどうしようかと、ウロウロと店の前を歩き回り、不審者極まりない行動を取っていた。



いや、仲の良い奴らに言ったらくれるとは思うんだけど、何か恥ずかしいじゃん?

奴らは俺がとっくの昔に経験済みだなんて思い込んでやがるし、「え、お前まだだったの?」なんて言われるのも男として悔しいし。

だから家の近所だと誰かに見られるんじゃないかって思って、こうしてコッソリわざわざ隣町の小さな薬局に自転車に乗って買いに来たんだけど……



だぁぁぁ。すげぇ緊張する。





遠くの方から薬局の中を覗き込み、店員を確認する。

じーさんと、若い女の人か。

じーさんならいいけど、あの女の人の方にあたったら嫌だよなぁ。



うわ、これ買うの?なんて思われそうだし。

かと言って、このままこんな所でウダウダと時間を潰してるわけにもいかねぇよな。

俺だって男だ。

加奈子に「早めにいいって言って」なんて催促したからには、用意するべきものは用意しとかなきゃいけねぇよな?男として。

俺は大きく深呼吸をしてから、意を決して薬局の中に足を踏み入れる。



「いらっしゃいませ〜♪」



そうにこやかに微笑みながら対応に出てきたのは若い女の人の方。

うーわ、最悪。

何で女の方が出てくんだよ……買えねぇじゃん。

彼女はニコニコと笑いながら、何故か俺の横についてまわる。

………どっか行ってくんねぇかな。



「何かお探しですか?」

ウロウロと店内を回る俺に対して、彼女が声をかけてくる。

ホント最悪。客が少なそうな店を狙ったのが逆に仇になったか?

でも、このままウロウロしてるだけじゃ不審がられるよなぁ。



「え…あっと…コン……」

「コン?」

「コッ…トン…ありますか」



………何言ってんだよ、俺。



「あぁ、コットンですね。こちらにありますよー」

彼女に案内されるまま棚に行き、コットンを手渡される。



……じゃ、なくて。



深いため息と共に上げた視線の先に、俺の探していたモノが並んでいた。

数種類ある小さな箱。

それを見つけて、俄かに自分の頬が火照ってくるのが分かる。

落ち着け、落ち着け、俺。

根性見せろよ、斎藤篤。

俺はなるべく平静さを装い、何も確認せずにそれを一つ手に取りコットンの上に乗せる。



「あっと…ついでにこれも」



ついでじゃねぇけど。

むしろこれが本命だけど。



「は〜い、コンドームですね。こちらのタイプでよかったですか?他にも色々あって、簡単に装着できるものや初めての女性の方にオススメのゼリータイプもありますけど?」



声がでかい!そんなハッキリと言わなくていいって!あ〜もぅ、超はずかしいんですけど!!

はぁ…でも…

他にも色々…そんなに種類があるのか? でも、こんな状況でじっくり見比べられないしなぁ。

確か、初めての女性の方って言ったよな、今。

加奈子……だし…

「あ、じゃぁ〜…そっちで」

と、頬を染めながら薦められた方と取り替えてる俺。



………って、初めてってモロバレじゃん?!



あぁ、もう。早くこの場を立ち去りたい。

俺はレジを済ますと、足早に薬局を後にした。



はぁぁ。すんげぇ疲れた。

これだけを買うために、どんだけ気力使ってんだよ、俺。

不透明なビニール袋に入れられたコットンの箱の横にある小さな箱を眺めてため息一つ。



……コットン、加奈子使うかな。