今日は篤と帰る約束だったから、明日の放課後に美佳子とその勝負下着とやらを買いに行く約束をしてしまった。
……………引き返せないのか、私。
放課後になって教室まで篤が迎えに来てくれて、並んで校門を出ると暫く歩いてから、いつもの様に篤が私の手を握ってくる。
『本当は学校でも手を繋いでたいんだけどねぇ。加奈子が恥ずかしがると思って?』って、そんな事を以前篤が言ってたっけ。
いつもは色んな話題で盛り上がる帰り道も、今日はどこかしら2人共がぎこちない。
その理由の根本が多分2人共が同じだから、敢えてお互いにそれについて触れずに歩いていた。
「加奈子、今日はちょっとそこの公園に寄って帰ろうっか?」
「え?あ、うん。いいよー」
洒落たお店の隣りにある小さな公園。
そこを指差し、私の返事を聞いてから篤がそちらに向かって歩き出す。
夕方の公園に人影は無く、どこかしらひっそりと静まり返ってるように思える。
そこのベンチに2人並んで腰掛けて、暫くの間無言の時を過ごす。
「なぁ……加奈子?」
篤は繋いだままの手を自分の足の上に置くと、その手をじっと見つめながらぼそっと私の名前を呼ぶ。
「ん?」
「あのさ。週末の件、もしかして嫌だなぁとかって思ってる?」
「え……」
バレた?
一瞬、篤の言葉にドキンと心臓を高鳴らせ、思わず口をつぐんでしまう。
正直、「嫌」まではいかないまでも、ちょっぴり腰が引けてる自分がいるわけで……。
そう思ってる事が態度に出てしまってるのだろうか、と若干の疑問が頭に浮かぶ。
「どうして……そう思うの?」
「んー。何となくそんな気がしてさ。なんかずっと口数少なくてどっか上の空だったし…」
そこで篤は一旦言葉を区切って一息つく。それからやや間をおいて再び口を開いた。
「もし加奈子が嫌だって思ってるんだったら俺……無理にはしないから」
「……篤」
「昼間はさ、勢いで『そのつもりでいて』なんて言ったけど、教室戻ってからずっと考えてたんだ。そういうのって女の子は凄く不安だったり怖かったりするんじゃないかって。加奈子だって突然俺からそんな事言われてすげぇ不安になってんじゃないのか?って」
篤は握った手に少し力を入れて続ける。
「もし、加奈子が嫌だってそう思ってるなら週末は俺の家じゃなくて外で会おう?家に来られるときっと俺、我慢できないだろうから」
「あの……嫌って訳じゃないんだけど。その、私にとっては未知な世界な訳で、どうしていいのかも分からなくて……美佳子からは痛いし、血が出るかもって聞かされて、そんな思いをしなきゃいけないの?って不安になっちゃって……その……」
何だか分からないけど、じわっと目頭が熱くなる。
何で、泣きそうになってるの?私。
怖いのと、不安なのと、私の話を篤が優しく頬を撫でながらじっと聞いてくれていたから…かな。
「うん、いいよ加奈子。マジで嫌だって言われたら凹むところだったけど……そうじゃないって分かって安心したよ。週末は外で会う予定にしとこう?んで、加奈子がいいって思えたら俺ん家で会う事にして」
「………諦めた訳じゃないんだ」
ぐずっと鼻をすすり上げながら篤を見ると、ニッコリと可愛らしい笑みを返される。
「当たり前。加奈子を欲しい気持ちに変わりはないんだから。週末は無理でもいつかは必ず貰う」