ほんのり恋の味


ほんのり恋の味 ...06

昼休み、私は昨日と同じように屋上で篤の隣りに腰を下ろしパンを頬張る。

「加奈子、ごめんな?」

大好きな『ハムレット』を今日も篤がゲッチューしてくれてて、それを味わっていると、ぼそっと隣りからそんな声が聞こえてきた。

「……ふぁ?」

「いや、ほら。友達と一緒に飯、食いたかったんだろ?無理矢理付き合わせたからさ…」

その篤の表情が少し悲しげに見えて、動かしていた口が止まる。

「えと…ううん。私こそ、ごめん。酷い事言ったよね。ほんっと、私って恋愛音痴だから。困っちゃうね」

「そういう加奈子も俺は好きだけどな」

「篤はさ…こんな私でいいの?傷ついたりしない?」

「全然」

「そ…、か」

にっこりと可愛らしく微笑まれて言葉に詰まる。

どうしてこんな私を篤は好きって言ってくれるんだろう。

私は好きって気持ちが全然分からなくて、篤を傷つけてるって気がするのに。

「なぁ、加奈子。明日の土曜日って何してる?」

「明日?んー、特に何してるって訳でもないけど…どうして?」

「デートしない?」

「は?」

「それとも休日まで彼氏に占領されんのは嫌ってか?」

そんな…イヤミな言い方しなくても。

「いや…じゃ、ないけど」

「そ?じゃ、デート決定!!加奈子はどこ行きたい?」

何だかんだ言いもって、篤も結構強引だよね。

お昼の事といい、デートの件といい。

「どこって言われてもなぁ…普通デートってどこ行くもの?」

「そうだなぁ。遊園地とか映画館とか?あ、ショッピングっつぅのもあるけど」

「遊園地か映画かショッピングねぇ…んー…じゃぁ、映画?」

「オッケー。映画って、加奈子は何系がいいの?」

「あー、恋愛系はパス。じれったくて見てられないから…アクション系?」

「ぶははっ!それ、加奈子らしー。りょーかい。じゃぁアクション系の映画見るか!!」

何で、そこで笑いが起きるんだ!!

あぁ、そうですよ。恋愛音痴の私は恋愛映画も苦手なんですー。

私はふんっ、と鼻を鳴らしてかじり掛けの愛しのパンを再び大きな口をあけて頬張った。




*** *** ***




次の日の土曜日。

私は待ち合わせの場所へ少し早く辿り着くと、何度もショーウィンドウに移った自分を確認する。

デートって初めてだから、どういう恰好したらいいのか分からないのよねぇ。

とりあえず、美佳子の助言通り女の子らしくキャミソールにカーディガンを羽織って、少し短めのスカートをはいて来たんだけど…こんなんでいいのか?これでOKなのかい??

一応これでも1時間くらい悩んで決めた服なんだけど。

一人ブツブツと言いながらガラスに映し出された自分を見ていると、ポン。と肩を叩かれる。

「悪ぃ。待たせた?」

「あ。篤…」

視界に入り込む篤の姿。

途端に自分の心臓が高鳴り出す。

だからもー。何だって言うのよ、このドキドキはぁ!!

だけど、制服じゃなくて洗いざらしのジーンズにTシャツとシャツをラフに着こなしている篤の姿に暫し見とれている自分がいた。

…何か、いつもと印象が違う。

「何?なんか俺、ついてる?」

「あ?ううん、別に。私服なんだーって思って」

「休日デートにワザワザ制服着てくるやついないと思うけど?」

クスクス。と笑いもってそう言われ、そりゃそうですねー。と自分の口からイヤミが漏れる。

篤は少し体を引いて、改めて私の姿を上から下まで視線を流す。

そして、満足そうに頷いた。

何よ……何か変ですか?

「加奈子は私服でもすげぇ可愛いのな。いつもおろしてる髪をアップしてんのも超似合ってるし…なんつーか、やっぱすげぇ可愛い!!」

そうニッコリと笑ってみせる篤の顔がすごく眩しくて、どんどん頬が赤く染まるのが分かる。

「なっ、なによぉー。からかわないでよ!!」

「なんで怒るんだよ。…あれ?もしかして、照れちゃった?」

「ててて照れてなんかない!!」

「うわー。すんげぇ可愛い、今の加奈子。ね、抱きしめていい?」

「はっ?!何言ってんの?…って、わぁっ!!」

篤は私のたじろぎも気にせず、人目も憚らず私の体を抱きしめてきた。

ふわっと鼻を擽る篤の香りと体に伝わる柔らかさと温もり。



――――きゅんっ。



一瞬胸の奥がそうなったような気がした。

だけどそれはほんの一瞬で、後は頭の中が真っ白になってよく覚えてない。

どうなるんだ、私…この先、どうなっちゃうの?!