ほんのり恋の味


ほんのり恋の味 ...05

「あはははっ!加奈子も人並みにドキドキするんだぁ」

「ちょっと…笑い事じゃないってば!本気で悩んでるのよ?私、病気じゃないかって」

昨日の自分の異変に真剣に悩みながら美佳子に打ち明けると、彼女は反対に大きな口をあけて高く笑う。

何よ、そんなにバカ笑いする事ないじゃない。

「病気って。それが普通の反応なんだってば。男の子と手を繋いだり、抱きしめられたりしたら心臓が、きゅん。ってなるもんなの。あぁ、ちょっと安心。加奈子もそういう反応が出来る子なんだ。本当は少し心配だったのよねぇ。本気で加奈子が恋愛音痴だったらどうしようって」

「普通…なの?」

「そうよー。それが普通。と、いう事は…加奈子も遂に本物の女の子になる日が近いって事よねぇ」

「何よ、本物の女の子って」

「恋する乙女になれるって事」

「やーよ、もぅ。全然分からないんだから勘弁してよ、そういうの。きっとね、昨日のはバイクにひかれそうになったからドキドキしたんだって。それしか考えられない」

「はいはい。そう思うならそう思っておけばいいんじゃない?その内自分でも自覚するから」

なによー。その意味ありげな笑いはさ。

未だに、ククク。と忍び笑いをする美佳子を軽く睨むと、ぷいっ。と前を向く。

冗談じゃないわよ。何が、恋する乙女だっつぅの!私は恋愛より友情と食欲優先なんだから…

そう自分に言い聞かせようとしたところで、不意に自分の名前を先日から聞きなれた声が呼ぶ。

「加奈子ー」

「うわっ!あっ、篤…」

教室のドアから私の名前を呼びながら近づいてくる篤の姿が目に映ると、途端にもの凄い勢いで心臓が高鳴り出す。

……絶対病気だ。近い将来自分は心臓病で死ぬかもしれない。

「……すげぇ、反応」

「あっ…いや…その…、何?」

シドロモドロで答えると、隣りの席から美佳子のクスクス。と言った小さな笑い声が耳に届く。

なによ、なによ、もぅ!密かに笑ってんじゃないわよ!!

「あっと…今日も一緒に飯食わないかなぁって思って」

「今日は美佳子達と一緒に食べる。だって昨日も一緒に食べたじゃない?」

「かーなーこ!私達ならいいわよー。折角彼氏がワザワザ誘いに来てくれてるのに、悪いでしょ?一緒に食べてきなって」

「ちょっと美佳子。どうしてそういう言い方するの?私は美佳子達とも一緒に食べたいもん」

「あんたねー。彼氏を前に堂々とそういう事言わないの。誘いに来てくれた斉藤君の立場がないでしょ?」

「あははっ。まぁ、そういうとこ加奈子らしいけど?」

「だって、本当の事だもん」

「じゃぁこうすれば?月・水・金は斉藤君と一緒にご飯食べて、火・木は私達と食べるって言うのは?」

「なんで、美佳子達と食べるほうが日数が少ないの?篤だって友達と食べるでしょ?なら、火・木は篤と一緒に…」

「加奈子!!」

なによ、もー。そんな、目くじら立てて怒る事ないじゃない。

だから付き合うだなんてまどろっこしい事、嫌なんだって。

私が渋々承諾をすると篤は苦笑を漏らしながら、じゃぁ昼にな。と言葉を残して教室を出て行った。




「ほんっと、加奈子。そんな態度だと斉藤君、離れてっちゃうわよ?」

篤の姿が見えなくなってから、美佳子が呆れたようにため息を漏らす。

「だから、私が誰かと付き合うだなんて無理だって言ったの。友達とワイワイしてた方が楽しいもん」

「心臓がドキドキするクセに?」

「そっ、そんなの関係ないでしょー。ドキドキしたからって、ナンだって言うのよ」

「もっと真剣に斉藤君の事見てあげなさいよ。他からいっぱい告白されてるのに、敢・え・て、加奈子を選んだのよ?」

そんな、変な所を強調しないでよ。

「だから何ー?」

「そんな奇特な人いないって。加奈子だってすっごく可愛いんだからさ、斉藤君とお似合いよ?現に、斉藤君と加奈子が付き合い出したって噂が広まってるけど、誰も反論して来ないでしょ?みんなそれで納得してるって事よ。だから、斉藤君をよく観察してみ。こんなカッコイイ子が自分に惚れてくれてるんだぁ、って幸せな気分になっちゃうから」

褒められてんだか、けなされてんだか…。

観察ねぇ。そういえば、じっくりと篤の顔って見た事ないかも?

でもさ、篤を前にすると何でか心臓がバクバクしちゃうんだもん。マトモに顔を見れないじゃない。

こういう気持ちが好きって気持ちなのかな?

んー、でも違うような気もするし…。

はぁあ。恋愛って面倒くさい。