ほんのり恋の味 ...04
「えぇぇ!嘘、嘘!!マジー?!あの、斉藤 篤と加奈子が付き合うってぇ!!!」
「ちょっ、美佳子。声が大きい!!」
私は、シー。と口に人差し指を当てながら、何故か身を屈める。
「うっそー。本当にそんな展開になるとは思ってなかったぁ!すごいじゃない、加奈子。あの斉藤 篤の彼女だよ?はぁぁ。あの恋愛音痴の加奈子がねぇ。学校内でも有名な彼と付き合うだなんて、夢見たい。よかったね、加奈子」
よかったのか悪かったのか。
「無理って何度も言ったんだけどなぁ。ねぇ、美佳子も無理だと思わない?絶対来週ぐらいには破局〜。とかって事になってると思うよ」
「斉藤君が大丈夫って言ってるんでしょ?だったら大丈夫。加奈子は絶対斉藤君の事を好きになるわ。あぁん、加奈子がどんな女の子に変身するのか楽しみぃ♪」
「あんた…面白がってるでしょ」
「うふふ♪ わかる?」
「いい性格」
「どうもありがとう」
……ったく、もぅ。
「じゃぁさ、じゃぁさ。今日の放課後は一緒に帰ったりするの?」
「え?なんで??私はいつも通り美佳子と一緒に帰るけど」
「えぇぇ!なんでよー。私の事はいいからさ、一緒に帰んなよ。付き合って初日だよ?」
「初日だからって何?私は友達優先するってちゃんと言ったもん。美佳子だってそんなツレない事言わないでよ」
「ダーメ!加奈子に初めて彼氏が出来たんだから、一緒に帰んなきゃ。あんないい男、二度と彼氏に出来ないかもよ?」
だったらそれでいいわよ。
大体彼氏が出来たからって、どうして彼氏を優先させなきゃいけないわけ?
全く持って理解不能。
「兎に角!私はいつも通り、美佳子と一緒に帰るから!!」
*** *** ***
「――――まっさか、一緒に帰れるだなんて思ってなかったなぁ」
嬉しそうな顔を浮かべて私の隣りを歩く斉藤 篤。反対に仏頂面の一歩手前な私。
もー、美佳子ったら!
あれだけ一緒に帰るって言ったのに、知らない間に篤を連れてきて自分はちゃっちゃと他の子と帰っちゃうんだから。
信じられないよ、もぅ。
「加奈子、ご機嫌斜め?」
「……別に」
そう口にしても、モロバレな私の態度。
篤はそれを見て、苦笑を漏らしながら私と歩幅を合わせて歩く。
「あれだろ、加奈子の友達が加奈子を俺に預けてさっさと先に帰っちまったから怒ってんだろ?」
「そーです!もぅ、美佳子ったら信じられない。私は友達優先するって言ったのに先に帰っちゃうんだもん。怒るのは当たり前でしょ?」
「まぁねぇ…でも、ま。その美佳子ちゃんとやらに甘えて今日ぐらい一緒に帰ってもいいんじゃねぇの?何てったって付き合って初日だもんな。俺はすんげぇ嬉しいけど」
私は全く持って嬉しくありませんがー。
「ねぇ…篤ってさぁ」
「何?」
「2.3年のお姉さま方からモテてるんでしょ?なのに、なんだって付き合うのが私なの?こんな恋愛音痴じゃつまらないでしょ」
「あははっ!お姉さま方ねぇ。ま、確かによく先輩達から告られっけど…どうもなぁ、って感じで。それに、加奈子と一緒にいてもつまらなくねぇよ?元気いっぱいの加奈子といると、すんげぇ楽しい」
「あまり私の事を知らないクセに?」
「えー、結構知ってんぞ。例えば…ジャニーズよりお笑い芸人の方が好きだったり、色気より食い気だったり、好き嫌いがはっきりしてて誰に対してもはっきりとモノを言うところとか。ご飯よりパン派、理数系が苦手。ついでに言うと虫類も嫌い。ゴキブリは特に。動物は大好きでペットで言うなら犬より猫派。結構気が強いようで、ドラマとか見て泣いてしまうタイプ…ってな感じ?」
…結構っていうか…カナリ知ってる?
「…どこで調べたの?」
「んー、そりゃぁ加奈子のクラスに密かに通い詰めて。ほら、加奈子のクラスに和田ってヤツいるだろ?あいつ、中学からの連れだからさ。それに託けてしょっちゅう加奈子のクラスに行ってたんだ」
篤は少し照れくさそうに笑いながら、俺がクラスに遊びに行ってたの知らなかった?と付け加える。
……全っ然知らなかった。それに、私のクラスに通い詰めてたって……。
「え、ストーカー?」
「ぶははっ!あ〜…、そう言われればそうかもしんない。チャンスがあればってずっと狙ってたから。休み時間とかにさ、友達とかとすんげぇ楽しそうに話してる加奈子を見るのが嬉しくて、いつか俺にもああやって楽しそうに話してくれたらいいなぁ、なんて思ってた」
「…………」
「だからさ、強引に付き合うような形になっちゃったけど少しずつでいいから俺の方も見てくんないかな」
「んー…努力してみます」
そこまで言われちゃぁねぇ…私も篤の事を見ないと申し訳なく思えてくるじゃない?
でもさ、どうしたら私は篤の事を好きになれるの?
どんな気持ちが好きって事なのか全然分からないだけに、どうすればいいのか分からない。
努力…どんな努力をしたら、彼の事を好きになれるのかなぁ。
今の私には超難題かもしれない。因数分解より解けない難題。
ぼーっと考えながら歩いていたから、前の方からブォー。と言う轟音を立ててバイクが近づいて来てる事に気付かなかった。
「っぶねっ!」
「ひゃっ!?」
危うくぶつかりそうになった私を寸前の所で篤がくいっと私の肩を抱いて引き寄せる。
「加奈子、ボーっとしてたら危ないって」
「ごっ、ごめっ…」
謝ろうと篤の方へ顔を向けて、あまりの顔の近さに思わず心臓がドキンッ。と高鳴る。
わわっ!なっ、何々…心臓がドキドキ言ってるんだけど?
10cm程しか違わない彼との背丈。
引き寄せられた反動で、私のコメカミ辺りに篤の唇が当たり、柔らかい感触がそこに残る。
それを感じ取って俄かに自分の頬が赤く染まって来たような気がした。
「加奈子…顔、真っ赤だけど」
「へっ?あ、いや、あのぉ…今日、暑く…ない?」
「そっかぁ?あれれ、もしかしてドキドキしちゃってる?」
「なっ、何で?!どうして?どっ、ドキドキなんてするわけないじゃない…顔っ!…顔、近いって!!」
「わっ。加奈子、可愛い〜。このまま抱きしめちゃおうっかなぁ」
「ぬわぁぁ!けっ、結構です!!ちょ、離れてよー」
何なのよ、何よコレ。何でこんなに心臓がドキドキ言うの?
もの凄い勢いで脈を打つ私の心臓さん。
壊れてしまうんじゃないかってぐらい、ドクドクと音を立てている。
私はトン。と彼の体を押して離れると、気付かれないように深く深呼吸をする。
「ほら、加奈子」
「え…何?」
篤はそんな様子の私に、クスクス。と笑いながら手を差し出してくる。
その意味が分からずに首を傾げていると、篤は半ば強引に私の手を握って歩き出した。
「えっ?えっ?!」
「危なくないように。加奈子の手って細いのな。あんなによく食うのに、何でこんなに細いんだ?」
「ちょっと、失礼な言い方。よく食うって…人並みだと思うけど」
「人並みに食ってて、そんだけ細いから不思議だって言ってんの。ほら、指なんてすんげぇ細い」
そう言って篤は私の指に自分の指を絡ませながら、おかしそうに笑う。
それにも私の心臓が反応を見せて、さっきよりも脈が速くなる。
やだもぅ、何よコレ。私の心臓どうにかなっちゃったんじゃないの?
掌に初めて感じる誰かの温もり。
それを感じ取るだけで、自分の体までが熱く火照ってくるような気がした。
どうしよう、絶対変だよ私。
もしかして病気か何か?!