*「舌、絡ませて…」 『――――…舌、絡ませて…』 うわっ… 『――――…いい…もっとそこ…』 うわわっ… 『――――…あんっ♪いい、いいわタケル…もうイっちゃう!!』 どっへぇぇぇ!!なんじゃこりゃぁ!!! 私は火が噴出しそうなほど真っ赤に頬を染め上げて、開いていた単行本をバタン!と音を立てて閉じる。 な…なにこれ。 心臓がバクバクと痛いくらいに高鳴って、見てはいけないものを見たような気がして罪悪感に捕らわれる。 恵子…普通の恋愛マンガだって言ったじゃないぃぃ。 表紙を裏返しにされたマンガを見ながら、未だにドクドクと高鳴る心臓を手で抑えて、はあぁぁ。と、深いため息を付く。 今日、学校で恵子から、「美菜、長瀬が受験勉強で大変だから、あんまり相手にしてもらえないでしょ?気分転換にこのマンガ貸してあげるから読んだら?普通の恋愛モノだから結構勉強になるわよぉ〜?」と、言われて借りたこのマンガ。 ど、どこが普通の恋愛モノなんだ。 どう勉強になると? 言葉が…イラストが……うにゃあぁぁぁ!! 崩壊寸前の脳にグルグルと色んなモノが動き回る。 「美菜?どうしたの、そんな真っ赤な顔をして」 私が頭を抱えて何とか心の乱れを落ち着かせようとしていると、斜め向かいで勉強をしていた修吾君が不思議そうな顔をして問いかけてくる。 「にゃっ?!うっううん!ななっ何でもないですよ?」 「何でもないって…すごい顔が真っ赤なんだけど…休憩するってそのマンガを読み始めてから様子が変だよね?なに?そんな変なマンガだったの?」 「いややややっ…ふっふっつーのマンガだよ?全然、全然!変じゃぬわぃ!!」 「美菜…」 「は…はぃ?」 「見せて」 げっ…。 ただならぬ私の様子に鋭い修吾君はすかさず手を差し出してきて、マンガを渡すように催促してくる。 マズイ…それはひじょーぉに、マズイです。 こんなのを読んでただなんて知れたら、変な目で見られちゃうよぉ。 もぉぉ。恵子、どうしてこんなマンガを読めば?なんて言うのよ。 しかも、しかも。「長瀬と一緒の時に読んだ方がいいんじゃない?ホラ、恋愛モノだし何かと話題にもできるじゃない?勉強の合間の息抜きに♪」…だなんて。 今更ながらに、このマンガを渡された時の恵子のニヤリとした笑みがプレイバックされる。 ……恵子…ワザとか。 「あのっ…あの…しゅ、修吾君が読んでもなぁんにも面白くないかと思われます…ふっ普通の少女漫画だし…ね?」 「普通の少女漫画なら、俺に見せられるよね?ホラ…貸して」 「だっダメぇ!!」 「……美菜?」 ……はっ?! お、思わず思いっきり拒否ってしまった。 更に訝しげにシワが増える修吾君の眉間。 ま…マズイ。。。 「ふうん…じゃあ、分かった。とりあえず俺の方もひと段落したから休憩しようか?美菜、お菓子食べる?」 修吾君は意味ありげな視線を見せたかと思ったら、瞬時に綺麗な笑みを浮かべると、私の方に大好きなお菓子を差し出してくる。 「うん!食べる!!」 よかった……諦めてくれたのかな。 私は、ホッと安堵のため息をついて、マンガを持っていた手を弛めると、差し出されたお菓子をそっと摘む。 それと交差するように彼の腕が私の方へと伸びてきたかと思ったら、次の瞬間にスッとマンガを引き抜かれてしまった。 「……へ」 一瞬の出来事で、私は状況を把握できずに間の抜けた声が口から漏れる。 「へぇ…『舌、絡ませて…』」 「ぐほっ!げほごほっ!!…しゅっ…修吾君!?」 「ふ〜ん…『いい…もっとそこ』だって、美菜」 いや…私に話を振られてもですね…非常に困るわけですよ。 修吾君はパラパラっとページを捲り、セリフの部分を声に出して読み上げてチラッと視線を私の方に向けてくる。 あ…穴…どこかに隠れられる穴はないでしょうか…。 「へぇ〜…美菜ってばこういうマンガを読んでるんだ?」 「えっ?やっ…あの…それは違うくって…その、恵子が…ひゃあぁっ!?」 彼の視線から逃れるようにたじろぐ私の体を引き寄せると、修吾君はクイッと私の顎を持って自分に向けさせる。 ……そしてニヤリと口角を上げた。 「美菜はこういうのに興味あるの?」 「やややっ…ち、違うの…」 「ん?何が違うのかな?真っ赤な顔してこんなの読んじゃって…美菜のエッチぃ」 「なっ?!だっだから違うんだってばぁ!!け、恵子が貸してくれたのっ…ふ…普通の恋愛マンガだって言ったから…その…にゃぁあっ!ごっごめんさない!!」 「あははっ!どうして謝るの?」 「だってぇ…いけないモノを読んだ気がするんだもん」 「そう?いっつも俺とこういう事してるのに?」 「ぬわぁぁっ!なっ何を言ってるんですか?!し、してないもん!!」 クスクスとおかしそうに笑う修吾君に真っ赤な顔で抗議しつつ、視線をどこへ向けていいのか分からなくなってくる。 「じゃあ、これからしよっか」 「へっ?!うわわっ…何を言ってるの?しゅ、修吾君はまだお勉強があるでしょ?だっダメダメ!横道にそれちゃぁ!!」 「さっきひと段落したから休憩しようって言ったよね?」 「ぅ……でも、でもぉ…っ?!」 そんな抵抗の声も空しく、修吾君の柔らかい唇が自分のと重なってしまった。 Next→
お題配布→『桃色手帳』様
|