嘘と真の境界線

エイプリルフール






 

 いつもそうなのだが、己の主はつまらない事を楽しげに話す。
 つまらない事だからこそ楽しげに話す。
「えいぷ‥‥?」
「April Fool's Day 害のない嘘ならついてもいい日だ」
「はぁ」
 呼び出されて何を申しつけられるかと思えば、与り知らぬ諸外国の風習。
「‥‥して? 政宗様はそれに倣って嘘を吐かれるというのですか?」
 すると、ぷくりと少し唇を尖らせた。
「かとも思ったが‥‥こういうモノは広まってこそやって意義があるものだしな。突然吐いて、城中大騒ぎになるのも避けたい」
 おや、よく解ってらっしゃると重臣は内心でクスリと笑う。己は主の大概の嘘なら見抜く自信もあるのだが、なにせ彼は一国の主である。一言が大変な影響力だ。
「そこでだ」
「はい」
「小十郎、お前に嘘を吐く許可をやろう」
「‥‥はぁ?」
「お前はくそ真面目過ぎる。だから俺に対して今日一日嘘を吐く許可をやろう」
「はぁ‥‥」
 無理から、どうしてもこの風習がしたいらしい。しかも“従者に嘘を吐け”とは難題である。
──いや、そうでもねぇか。
 重臣は難しい面持ちで一度己の顎に指を添えてから、主に向かってニコリと微笑んで見せた。
「政宗様、そのお心遣い、不要にてございます」
「不要?」
「この小十郎、毎日政宗様に嘘を吐き、騙しております故」
 柔らかく微笑んで告げる重臣を、ぽかんと主は眺めた後、間をおいて「ハハッ」と笑い出した。
「流石小十郎だ。嘘もひと味違うな」
 満足げに笑む主に対し、静かに、微笑んだまま重臣は頭を下げる。

 それが嘘か真かなど、とてもつまらないお話し──。