七夕

 七夕






 夜の空は底がない。
 ジッと見上げていればその深い闇へ落ちてしまいそうな。
「‥‥なぁ小十郎」
「ハッ」
「年に一回逢瀬を許された心寄せ合う恋人と、面はいつでも付き合わせても‥‥」
「?」
 真っ黒い瞳が全てを伺おうと彼に向けられる。
 ─どちらが不幸だと思う?─男の瞳を見ていると、そんな質問するべきではないと思い返す。
 せっかく今日は底のない闇に光の川と橋がかかる。そんな日に余りにも無粋な話だ。
「sorry.忘れてくれ」
 視線を逸らし、浮かべるらしくない笑み。それでいて彼らしい、躊躇いがちに作られる誤魔化しの笑みに、男は少しの間瞬いてから、ゆっくりと言葉を紡ぎはじめた。
「どちらも‥‥幸せだと思いますよ」
「え?」
 思わぬ言葉に視線を戻す。
 そこには、闇夜に紛れそうな双眸。
「唯一つを見つけた者に、それ以上、なんの幸福があるとお思いか?」
 細められたその瞳は、夜空と同じく吸い込まれそうな漆黒。

 そこにも星は瞬いているのだろうか?