困った彼で10のお題 04

 場所を選ばず







「政宗様‥‥」
 いつもよりワントーン低い声が、かさついた唇から紡ぎ出され、耳の後ろにゾワリと何かが這うような感覚が走る。
 ジッと見つめられると視線を逸らすしかない。俺の目がどうのと小十郎は語る時があるが、コイツだって大概だ。真っ直ぐ、恥ずかしいぐらい俺を見つめてくる。
「‥‥何だよ‥‥」
「何ではございません」
「‥‥」
「政宗様」
 じりりと付き合わせた膝の距離が縮まる。
 緊張でどうしても肩が強張ってしまう。
 逃げられるものなら逃げてしまいたい。そんな‥‥
「政宗様、何故目を背けられます?」
「‥‥」
「この小十郎を見る事ができませんか?」
「できるさ」
「ではこちらをお向き下さい」
「‥‥」
「政宗様──どうして廊下の板の間がごっそりと抜け落ちてるんでしょうな」
「‥‥‥」
「又背けられる。やましくなければこの小十郎を見る事が出来るはずです」
「‥‥わかってるよ」
「わかってらしゃるのであれば、何故来客前にこういう事が起こるのですか。もう少し当主としての──」
「故意にあぁなったんじゃねぇよ。俺はちゃんと考えて」
「考えておられるなら悪戯も、せめて時と場所をお考え下さい。まったく政宗様は‥‥聞いておられますか?」
「‥‥聞いてる。」

 大体、時と場所って言うなら、来客前にどうして俺は膝突き合わせて小言を聞く羽目になってんだ!?

「政宗様!!」
「あーもー、聞いている!」