困った彼で10のお題 01

 夢見がちな彼








 なんでもない風に聞いていた。だが、だんだん、だんだん気恥ずかしくなって、最後には文机に肘を立て、思わず頭を抱え込んだ。
 確か最初は小言のはずだった。なのに途中から、自分の幼少時代の回想録に入り、口を挟んだ途端、方向指示器を変な方向に入れてしまったらしく、自分を囃す(はやす)言葉や恥ずかしい台詞の雨が降ってくる事となって顔が上げられない。
「sorry.小十郎、もうカンベンしてくれ‥‥」
「はい?」
 他人事に感じる自分への賞賛に白旗を挙げると、男は不思議そうにこちらを見つめてくる。
 素だ。
「あーのな、小十郎。時々思うが、俺はお前の思っているような男じゃねぇ。夢見るな」
「ほぅ? そうでございましょうか? この小十郎、幼少のおりより政宗様に‥‥」
「だーかーらー!」
 悪夢のような無限ループに入るかと慌てて言葉を途切れさせれば、男はニコリと微笑んだ。
「見開いたまなこで夢を見せて下さるからこそ、我が主君にてございます」
 押し黙る。そして一度視線を逸らせてから盗み見るように、彼はチラリと男を見た。
 そこには、自分を真っ直ぐ見つめる瞳。
「‥‥俺は‥‥夢を見せるだけが仕事じゃねーぞ」
「無論」
「夢で終わらせる気もねぇしな」
「御意に」 
 見事な笑みを見せる男に、まぁ少しぐらい夢を見せてもいいかと思いながら、彼はゆっくり顔を上げて微笑んだ。