寝相







 小さな主は、ひどい寝相である。
 まだ子供であるから仕方がないとはいえ、ひどい寝相だ。そのひどい寝相というのは足を放り投げて、大の字で寝ているからそう言うのではない。むしろその方がいい。
 大の字ではなく俯せなのだ。いつも。寝ている床に縋るようにして、自分の腕を抱えるようにして。そうでなければ横になり、胎児のように膝を丸めて眠っている事がある。
「…………。」
 ひどい、寝相だと思う。虚勢を張り、大人達に表そうとしない不安や孤独感がそういう形で出ているようで、こちらがいたたまれなくなる。
 ──それにしても子供は何処でも寝るな。
 過ごしやすい季節となったとはいえこのまま板の間で寝かせている訳にも行かず、隣の部屋に寝床を作り、ゆっくり、彼を起こさないように抱きかかえる。
 腕の中に収まる身体。子供独特の柔らかい感触と寝息。
 こう見ると本当に子供である。目を覚ましてしまえば、腕に収まるどころかこちらが引きずり回されてしまうが、せめて寝ている時ぐらいは彼が呼吸しやすい方法で。
 ひどい寝相であれ、それが彼の息のしやすい方法であるのなら。
 抱えて運び、床の横に膝を着いた時、うっすらと、その大きな瞳が開き出す。
「こ、じゅうろう?」
「起こしてしまいましたか? 申し訳ありません」
「いや……いい」
 まだ眠そうに瞳をうとうととさせてそう呟く。完全に覚醒した訳ではないようだ。
「風邪をひかれます故、床に」
 そう、身を屈めて寝床の上に彼の身体を置こうとした瞬間、ゆっくり、小さな手が肩に掛かり、もう片方の手は背中に回される。
「若?」
「いい。このままがいい。このままでいい」
 縋り付いたかと思うと、そのまま安らかに寝息を立て始める。
 落ち着いた呼吸。なのにその小さな手は、力こそ入っていないが、離れることを拒む意思が伝わってくる。
 ──全く、ひどい寝相だ。
 小十郎はその場に腰を落とすと、子供を抱え直す。言われた通り床に寝かせようとはしなかった。
 いや、そうではない。
 その温もりが、不思議なほどに己に心地よさと安堵を与えたからだ。
 放せないのは──自分。
「……」
 抱きかかえ、小十郎もゆっくりと目を閉じる。
 呼吸は、いつの間にか重なっていく。

 ゆっくり、ゆっくり、安らかに。まるで一つの呼吸のように……