「あの〜、つかぬことをお聞きしますが・・・」
「ん〜?何?」
「みなさん、これ何やってるんですか?」
「ん?これ?立てこもり。」
「立て・・・っ?!」
ものすごく恐ろしいことを、あまりにあっさり言うこの男に、思わずオウム返ししそうになり。
「な、何で大学で立てこもりなんか・・・?」
「来年度から学費が値上がりするんだよ。
みんな、親からなけなしのお金仕送りしてもらったり、講義の合間をぬって一生懸命働いているのに。
そのくせ、いい教授陣は他の大学に簡単に引き抜かれて・・・高いお金を払ってるのに、講義の質はだんだん落ちていってる。
高い入学費用を出しているのに・・・これでは詐欺に遭ったようなものだ。」
男がそう言うと、周りにいたヘルメット集団が「そうだそうだ!」と雄叫びを上げ。
「でも、他に解決する方法は・・・」
「ないよ。俺たちは何度も大学側と話し合いを持つよう掛け合った。だけど、大学側の反応はなかった。こうする他なかったんだ。」
「立てこもって・・・この先どうするんです・・・?」
「さぁね。大学側がちゃんと話し合いを持ち、大学の質を維持してくれると約束したら、ただちにバリケード封鎖を解くつもりだよ。
俺たちは、暴力で解決したくはないんだ。まずは話し合いを持ちたい。それだけだよ。
俺たちのモットーは、『非暴力・非服従』だからね。」
事情を聞くにつれ、この男の言うことは正論だと思い始めており。
それに・・・その行為がいいのか悪いのかは別として、闘うその姿勢はとってもカッコよく。
何とか学生たちの望むとおりの大学になってもらいたいと願うワケで。
それに比べて・・・
ただ日々の田舎暮らしに辟易し、父さんの天然っぷりに呆れ、何の目的もなく「便利な街・東京」へ行こうとしたボクは、何だか子供じみており。
東京に出るのは何かやりたいことを見つけてからにすればよかったかもしれないと後悔してしまうワケで・・・。