配属されて1ヶ月は、先輩のマネージャーに付いて、マネージャーとは何たるかを学ぶ期間に当てられる。
俺のお手本となってくれる先輩というのが・・・
「君が〜、北山くん?」
「はい、北山陽一と申します。右も左もわからないのでご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、精一杯頑張ります。何なりと申し付けください。」
「どうも、サカイです。酒に、井戸の井って書いて、酒井、ね。よろしく。」
この「酒井さん」という方だ。
なんでもこの人、当時無名だった女性アイドルのマネージャー時代に辣腕を振るい、彼女をトップアイドルにまで押し上げたキレモノだそうだ。
そのアイドルっていうのが、その、例の俺が昔好きだったアイドルなのだ。
フリフリの黄色いワンピースでカレーの歌を歌う彼女はホント最高だったな〜。
・・・♪ターメリック色の〜夏の太陽〜、日焼け〜した君の肌〜とぉってもスパイシ〜ぃ〜。
「・・・北山くん?何ぼ〜っとしてるの。シャキッとしないか、シャキッと!」
「いや、あっ、ども、すいませんっ!以後気をつけます!はいっ!」
「・・・じゃあ行くよ。ついてきて。」
「はいっ。」
車に乗せられ連れてこられたのは、都内の少々ボロめのマンション。
「ここのね、5階に住んでるから。」
「・・・はぁ。はい。」
よくわからないまま返事をしている間に、エレベーターは5階で止まった。
酒井さんはそこの一室のインターホンの前に立つなり、いきなりそれを連打し始めた。
しばらくして出てきたのは、俺と同い年ぐらいの若い男。
俺より少し背が低くて、髪の毛がクリクリしている。
「ふぁあぁぁぁ〜っ・・・誰〜・・・?」
寝起きまる出しの顔と声だ。
「誰じゃないだろ!仕事だ仕事ぉ〜!はよ準備せい、お前ら〜っ!」
「はいはい、わかってるよ・・・ったく、うるさいなぁ〜・・・」
男はもう1回大きなあくびをしながら、部屋の奥へと向かっていった。