賑やかな帰路
side―越前 リョーマ

昼すこし過ぎ。
迎えにやってきたバスは、俺たち青学テニス部+αを乗せると、一路学校を目指し走り出した。








バスの中は妙に騒がしかったり、妙に静かだったりする。
席順は一番前に手塚部長、竜崎センセイ、大石先輩。
次に後ろから三番目に河村先輩、菊丸先輩、海堂先輩。
乾先輩は通路を挟んで同じ列。
俺は桃先輩と荷物と一緒に一番後ろの席。
で、先輩は後ろからひとつ前の窓際で不二先輩の隣。
……なんかこの順番、インボーを感じる。
って言うか、結構他に席余ってんのに何でみんな固まってんの?
すっげー、ヘン。
さっきから先輩は眠いのか、頭を揺らしてる。
なんだかんだ言って、先輩この四日間頑張ってたもんな。
食事の世話から洗濯物。
果ては施設中の掃除まで。
一回、何でそこまでやんのって聞いた事がある。
そしたら先輩は、
「だって言われた以上きっちり成果は残さないと。私がサボったせいでテニス部が弱くなったーなんていわれたら心外じゃない。ただでさえテニス知らないからマネージャー業はやれないしね。やれる事は全力でやりますよー、私は」
って、笑いながら言ってた。
子供っぽく笑ったかと思ったら、次の瞬間には妙に悟った顔をする。
くるくる変わる表情に、飄々とした態度。
捕まえたと思ったらするりと手をすり抜けていく。
だからなんか……眼ぇ離せないんだよね。





ゴスッ







って考え事してたらいい音がして、何かと思ったら先輩がずっと握ってたコーラの缶に頭をしたたか……って言うか勢いよくぶつけた所だった。
「いったぁぁ〜……」
額を押さえて座席に深く沈む。
手から転がり落ちたコーラはもう全部飲んだ後だったのか、床にしみができる事はなかった。
ちゃん、大丈夫?」
不二先輩が頭を撫でる。
「何とか……」
ちゃん、おでこに缶の跡がついてるよ〜ん」
菊丸先輩はけらけら笑ってる。
「だっせぇなぁ、だせぇよ」
「るさい。桃ちゃん!君にこの痛みが分かるか!?」
大笑いする桃先輩に食って掛かる先輩。
でも、額についた三日月みたいな跡のおかげで全然迫力ない。
「まだまだだね」
「悪かったね。凄く眠いんだよ」
先輩は座ったまま思いっきり伸びをした。
そのまままた大あくび。
「疲れてるみたいだね」
「お気使いありがとうございます、河村先輩。一杯色々ありましたもんねぇ……」
しみじみ呟く先輩。
確かにこの四日間、やたら色々ありすぎた気がする。
「縁(えにし)かなぁ……。一日目は山吹がご飯食べに来て、二日目はルドルフと買い物して、三日目には氷帝に誘拐されて、最後の四日目にはこの三日に出会った他校生の方々のご訪問を受けて……
『えっ……?』
最後に呟かれたせりふに、全員瞠目する。
「ど、どー言う意味!?」
慌てる菊丸先輩に、先輩はきょとんと、
「言ったままですよ?今日は一杯色んな人と話しました。山吹の太一君に、ルドルフの裕太君。それと氷帝の鳳さん」
「いつ?」
乾先輩が話しに割り込む。
手にしっかりとノートを持っているのがらしいというかなんというか……。
「みんながランニングしている一時間のうちに次々きてね。太一君はこの間のお礼」
「お礼?」
今度は俺が聞く。
確かに初日、昼飯は一緒にしたけど……それだけの為?
「ん。ご飯一緒に食べたのと、お粥作ったのと。わざわざお礼に来るなんて、礼儀正しいいい子だよねぇ……」
喋っている間にも眠いのか、先輩は何度も目を擦ってる。
裕太は、何しに来たの?」
不二先輩の声は完全に据わってて、顔を直視したらしい菊丸先輩が脅えたみたいに座席に隠れた。
先輩はそれに気づいていないのか、何度も生あくびを噛み殺しながら、
「ぐーぜん……。走ってたらおいでなさられたよーです。おにぃさんに会いにきさらされたのかもしれません。あと……えと、……誰だっけ……朝市で一緒にいた観月って人に迎えて来られて帰った」
「そう……ぜひ会いたかったな」
「お引止めしときゃよかったですかね?」
もう殆ど寝てる眼をして、先輩は首をかしげる。
「でもそれってほんとにぐーぜんな訳?」
なんかワザとっぽいものを感じる。
こういう勘ってよく当たるんだよね。
「それ以外なんでもないでしょうよ。アー……そだ。フジ先輩に伝言」
「何?」
「なんか、私に関することらしいのですがぁ、"そばにいるからといって安心しないでくださいね?"by観月さん」
「――――」
すぅ……ッとバス内の気温が冷える。
別にクーラーが効き過ぎとかそういうんじゃなくて。
「そうか……観月の奴……」
不二先輩がぶつぶつと呪いでもかけそうな雰囲気で呟き続ける隣で、先輩は相変わらず眠そうに、
「でも意味わかんないよぅ……どういう意味?」
「先輩はわかんなくったっていいよ」
下手に意識もたれるとこっちがやりにくいしね。
っつーか、観月とかっていう奴も余計な真似を……。
「氷帝は、氷帝は何しにきたんにゃ?」
さっきから聞きたくてうずうずしてたらしい菊丸先輩が身を乗り出して問いただす。
先輩はぐしぐしと目を擦りながら、
「う〜ん。お礼参り
「はっ?」
何それ?
「お礼参りって……仕返しに来たってことか!?」
「どーゆう事だよ、ッ!?」
大石先輩と桃先輩が慌ててる。
何、オレイマイリって、仕返しって意味なの?
だとしたら……厚かましいよね。
先輩ユーカイしといて、逆恨み?
……テメェ詳しく話せ」
席から海堂先輩が乗り出して、凄い顔で睨んでる。
まぁ、先輩の席は死角になってて顔は見えないみたいだけど。
先輩は、何度も頭を揺らしながら、
「あれ?お礼参り……じゃないのかな?アレは……。うん、違う。お礼参りでなくてね……アレだよ、アレ。……お詫び……かな?」
「お詫び……」
「大将の代わりに頭下げに来ました。なんかもー、哀れを誘うくらいのけんめぇさで思わずほろりときてしまいました。ほかにも一緒に宍戸さんやら忍足さんやら向日さんやら芥川さんやらも順番に来ましたナリィ……」
口調がだいぶ怪しい。
「何もされなかったか?」
桃先輩が心配そうに言う。
ちょっと心配しすぎ……って言ってやろうと思ったけど、気持ちと反対に先輩の口が開くのを待ってる自分がいる。
先輩は何度も生あくびを浮かべながら
「たいした事じゃない。芥川さんに押し倒されただけでーす








「ちょっとまてぇッ!?」









全員の声が見事にハモる。
押し倒された!?
ちょっと待ってよ、なにのん気にあくびしながら言ってんの!?
、どういうことだ!?」
一番前の席で寝てたとばかり思ってた部長が、眉間の皺五倍にして駆け寄る。
「ちょ、ちょっと、ちゃん!?」
、できればどういう状況だったか詳しく教えてくれ」
「乾、なにノート広げてるんだ!?さん、大丈夫だったか!?」
……オイっ」
「おいおい、マジかよ……ッ!?」
「フフ……彼もいい度胸だね……」
「え、えええっ!だ、大丈夫〜!?」
「先輩……先輩!?」
慌ててる俺たちなんて眼中にないみたいに先輩はその言葉を最後に本格的に眠りに入ってしまった。
ちゃん、ちゃん!?押し倒されたってどういうこと――――!?」
菊丸先輩が青い顔して叫ぶ。
でもそんな大音量の質問攻めにもめげず、結局先輩は学校前につくまで一度も目を覚まさず、おまけに寝ぼけてたのかバスの中の会話は一切覚えてなかったらしい。
家に着いた俺は、からかう親父の相手をするのも億劫で早々に部屋で寝てしまった。
なんか……最後の最後までいろんな意味でとんでもない合宿だった気がする……。

あとがき

やっとこ合宿終了です。
最後はちょおっと強引だったかな(汗)
リョーマの一人称は書いてて難しかったです。
あぅ、精進せねば。
ちなみに他校キャラの名前のリンクを押せば、その時の状況を書いたSSに飛びます。






おまけの翌日。
「あ、副部長。おはようございます」
朝の廊下。合宿行きの元凶が、にこやかに前から歩いてきて、は軽い会釈と共に挨拶を交わした。
「オハヨ。そういや、合宿の間は何にもなかったか?」
「何もって?」
きょとんとした顔で聞くと、相手はニヤニヤとなにやら宜しくない笑みと一緒に、
「色々。思い出は作れたかって事」
言われ、は少し首を傾げて考え込んだ。
「……ああ、そういや作りましたね。正確には作らされた」
「へぇ、どんな?」
誘拐初体験
「はぁッ!?」
何気無しに聞いていたのか。
傍を通りかかった女子学生が、副部長と同じように瞠目してを見つめた――――。

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