賑やかな帰路
side―壇 太一

「この間はありがとうございました。この間はありがとうございました。この間はありがとうございました……」
青学の施設のコートを見渡せる草むらの中。
何度も何度も口の中で練習を繰り返す。
どきどきと高鳴る心臓を僕は精一杯宥めようと頑張っている。
でも練習すれば練習するだけどきどきが大きくなっていって……。
「うぅ……このままじゃちゃんとお礼いえないです!」
「誰に?」
さんに、この間のおかゆのお礼を……」
「別にそんなのいいのに」
「いえ!やっぱりこういうのはちゃんと言った方がいいです……ってぇ、わぁっ!?
僕はびっくりして思わずひっくり返ってしまいました。
なぜなら今の今までずっとお礼を言おう言おうと思っていた相手、さんが目の前に現れたのです!
「いつ、いつの間にです!?」
「いや、"お礼言えないです"あたりから……」
僕はさんの差し出してくれた手につかまりながらちょっと恥ずかしくなってしまいました。
穴があったら入りたいです……
「今日も偵察?でもみんなは今いないよ」
「いえっ!そうじゃなくて!!」
僕はぶんぶんと首を横に振った。
「今日は偵察とか、そういうのじゃなくて、ただ……。お、お礼にきたのです!!」
緊張のあまり、舌を縺れさせながらやっとの思いで言うと、は困ったように笑いました。
「さっき聞いたよ。それに材料はそっちにあるものを使ったんだから別にお礼なんて……」
「でも改めて!この間はご飯ご馳走になって、しかもお粥作りにきてくれてありがとうございましたです!!
僕は頭を下げたまま、固まってしまいました。
でもやっと言えた!
ずっと練習してたかいがあって一度もとちらなかったです!!
心臓がバクバクいってます。
耳も心臓の音と風の音しか聞こえません。
「……」
しばらくして、クスリと笑う声が降ってきました。
それと一緒に優しい手が頭を撫でてくれたです。
さん……?」
顔を上げた僕の眼に飛び込んできたのは、木漏れ日みたいに優しく笑うさんでした。
「わざわざありがとう。そう言ってもらえると、私も嬉しい」
「は、はいです!」
さんが笑うと、何だか僕も嬉しいです。
「でも本当にあれで良かったのかなー?茶粥なんて口にあった?」
「大丈夫です!みんな美味しいって言ってたです!」
みんな絶食した後みたいにばかばか食べて、ついでになぜか千石さんも食べてて、僕の食べる分がなくなったくらいです。
僕は別にお腹を壊してなかったけど、ちょっと食べてみたかったです……。
「そう。ならいいんだ」
笑ったさんからシャボンのいい匂いがしたです。
何だかちょっと……どきどきです。
「あ、あの、それじゃあ、僕帰るです!」
僕はもう一回頭を下げると、逃げるみたいにダッシュで帰りました。
走ってる間も、どきどきが続いたのはたぶん……全力疾走したせい、です?

あとがき

檀君の一人称は何気に書きやすいです。
だいたい『です』入れてりゃいいもんなぁ(手抜き)
っつーか、やっと恋愛色が入り始めた気がする……
しかしこれは恋というより一歩手前か?

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