Gift from Aplayer = Ayasato sama.
『もう一つの物語 〜3.そうして時は動き出す〜』

偶然 必然 運命
そんな名称は、あとからゆっくり付ければいい
とりあえずもう 歯車は動き始めたのだから

3.そうして時は動き出す

傷は回復したものの初めて生命の危機というものに直面してしまったジェイドとエンジュの精神的ダメージは計り知れず、ひとまず奥へ進むのは諦め、一度リバーベル街道を後にした。

「おぉ。無事だったか!」
街道の入り口で足早に駆け寄ってきたのはソール=ラクト。
ケージを持っていない少女二人に頼まれるまま街道の入り口まで連れてきたまではよかったものの、奥から悲鳴が聞こえるなり瘴気の中を飛び出していったのを心配して待っていたのだ。
「うわわ! 心配させてごめんなさーい」
わたわたと慌てて謝るセルキーの少女と、申し訳なさそうに眉を下げるクラヴァットの少女の様子は飛び出す前と変わりなく、明るく溌剌としたもので。
それはつまり、彼女たちの持つ能力の高さと、経験を豊富さを表していた。
その少女たちの後ろからコロボックルの村の少年たちが疲れ果てた様子で続き、ソール=ラクトとそのキャラバンの姿を認めるなり座り込んだ。

「かなり厳しい洗礼を受けたようだな」
意気消沈している少年たちに、ソール=ラクトの言葉が重く響く。
どこか非難しているように聞こえてしまうのは、自信がぽきりと折られて卑屈になっているせいかもしれない。
エンジュは未だ震える指先を誤魔化すように、持っていた槍を握る手に力を込める。
「…気が付いたら炎に包まれてました」
避けることも、逃げることも出来ず、ただ立ち尽くすだけだった。
彼女たちが現れなければ今ごろ…とは口に出せず、ぎりりと唇をかみ締める。
それっきり俯いたまま顔を上げようとしないエンジュとジェイドに、そうか、と一つ頷いてソール=ラクトは踵を返す。
そうして、その場に留まっていたアルフィタリアのキャラバンに指示を与え、出立の準備を整えた。
去り際、エンジュたちとともに動こうとしない少女たちにソール=ラクトは腕を差し出す。
「できれば我らと旅をして欲しかったのだが、もう決めてしまったようだな。…君らの無事を祈る」
「そちらも どうぞよい旅を」
握り合った掌は“武の民”であるリルティのソール=ラクトと同じ固い感触。
武器を持ち慣れ、戦い慣れた者の手だった。

ひらひらと手を振って見送る不思議な少女たちを、一度だけ振り返ってからソール=ラクトはその場を後にした。

- - - - -

ガラガラという車輪の転がる音にようやく顔を上げれば遠ざかって行くアルフィタリアのキャラバンが見えた。
頼りになる彼らがいなくなった途端、身体がざわざわと不安を訴え出す。
先ほどの戦いで自分たちの力の程は自覚している。
再び震え始めた掌を押さえ込むように握るエンジュの耳に暢気な声が聞こえてきた。
「あー。もうあんなに小さくなっちゃったー」
「だってアルフィタリアのキャラバンはどこかの誰かさんと違って、寄り道なんてしないもの」
楽しげに笑う高く澄んだ声にエンジュは自分の耳を疑う。
どうしてこの場に残っているのだ。慌てて声のする方向へ視線を向けたエンジュに気が付いたのか、金の髪の少女は、
「とりあえず、お茶でも飲もうよ」
とエンジュとジェイドににこりと笑いかけた。

「ガーちゃんの淹れるお茶は美味しいんだよ〜」
瞬く間にお茶の用意が整えられ、ともすればここがリバーベル街道の入り口ということを忘れ、ピクニックに来ているような錯覚を起こしてしまいそうなほど。
エンジュとジェイドの手にも温かな湯気と、ほのかに甘い香りを放つカップが渡される。
反射的に一口飲んで確かに美味しいそのお茶に強張っていた肩の力が抜けた。
「それじゃあ、自己紹介でもしようか」
まるでそのタイミングを計っていたかのように掛けられた言葉にエンジュもジェイドもぎこちなくだが笑顔で はい と答えることができた。

「まずは言い出しっぺのアタシからね」
ぴょこんと元気に立ちあがったのは金の髪の少女。
「アタシの名前はヴィ・ワ。種族はセルキー。出身地はティパの村。好きなものは、もふもふのものと 美味しいものと いいにおいのもの! 嫌いなものは、アバドン アバドン アバドンドン!!」
“アバドン”が何かエンジュには分からなかったが、少女…ヴィ・ワの言い様ではかなり嫌なものなのだろう。
叫んでいるヴィ・ワに驚くことなく、新たに注いだお茶を渡すことで落ち着かせた白い頭巾の少女が次に口を開く。
「私の名前はガーネットです。種族はクラヴァットで、出身地は同じくティパの村。…と言っても どこの村か分からないでしょうね」
少し悲しげにそう言って笑ったガーネットに、なんだか胸が締め付けられるような苦しさを覚える。
どうしてかは分からないが、そんな悲しい笑顔を浮かばせたくなかった。
「ガーちゃん…」
心配そうにガーネットの服の袖を握ったヴィ・ワの手を大丈夫というように軽く叩き、エンジュたちにもやわらかな笑顔を見せた。
それだけで重くなっていた空気が霧散する。
次はエンジュたちの番だ。
そう思うと背筋が自然と伸び、改めて命の恩人である二人を見据えた。

「ボクの名前はエンジュです。種族はリルティ。この街道の先にあるコロボックルの村が僕らの育ったところです。
 …さっきは危ないところを助けてくれてありがとうございました」
ジェイドと共に頭を下げる。
「いやいやいや。どっちかっていうと条件反射みたいなものだからさ、気にしないでよ」
「そうそう。ヴィ・ワの特攻は癖のようなものだから…」
慌ててそう返す声音が謙遜というより、本気であるのが可笑しい。
聞いてみれば、あの時発動したケアルガも偶然の産物だったらしい。
セルキーなのに特攻癖のあるヴィ・ワにはケアルが必須で、クラヴァットなのに時々無鉄砲なガーネットはつい自分の回復を忘れてしまうらしい。
だから、とりあえず唱える余裕があるときは其々がケアルを唱えるようになってしまったというのだ。
お互いがお互いのことをよく分かっている様子のヴィ・ワとガーネットが酷く頼もしく、羨ましく思えた。
きっとそれはジェイドも同じで、自分たちがこの二人のようにお互いの欠点をフォローできるようになるにはどのくらいの時が必要なのだろう。
もっと強くなりたい。
背中あわせで戦えるようになるくらい。

「それじゃあ、最後は僕の番。僕はジェイド。エンジュと同じコロボックルの村に家があるんだ」
ジェイドはひとまずそこで言葉を切る。
それから気を落ち着かせるように大きく息を吐き出し、さっきからずっと気になっていた疑問を口に出した。
「……二人は、ヴィ・ワとガーネットはどこから来たの?」

その問いが、単に村の名前を聞いているのではないことは、ヴィ・ワもガーネットも分かっていた。
ただその答えが二人にも(可能性が高いとはいえ)推測に過ぎないことも分かっていた。
信じてもらえるかどうかも分からない。
それでも、その問いを有耶無耶にしたくなかった。
それは真剣に話を聞こうとしてくれているエンジュとジェイドにも失礼であるし、どこかでミオさんの言っていた二人が彼らのことかもしれないという予感があったからかもしれない。

案の定、話を聞き終えたあと戸惑いを露にしたエンジュとジェイドだったが、その瞳の中に不信や嫌悪が浮かぶことは無く、目の前のお菓子がヴィ・ワの胃袋へ消えてしまう頃には一つの答えを出していた。

「ぼくらも一緒に探すよ。二人が元の世界に戻れる方法を!」
くすんだ青い空の上で、白い光が安心したようにやさしく瞬いた。

旅はまだ始まったばかり。

e n d ?

管理人・田林から…

An even break」(ジャンルは違います)のあやさとさまから戴きました。

とうとう戴いてしまいました! コロボックルの村の物語です。紙に書かれたものの量が量なだけに入力が待たれていた大作ですっ(私がねだったようなものです)(またか)(いつもありがとう……!)。
まったくご存知ない方のために簡単にご説明いたしますと、『ゲストとして他のデータに入る』状態、そしてそれをどう考えるか、で生まれたネタです。パラレルものとして読んでいただければ良いかと思われます。(ちなみにコロボックルの村の名前の名付け親はAプレイヤーです♪)

あやさとさま、ありがとうございました。
2005年2月12日に頂戴いたしました。

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