Gift from Aplayer = Ayasato sama.
『もう一つの物語 〜2.彼女たちの旅の終わり〜』

全てが終わって、全てが始まった
そう思っていたのは ある意味 正解で ある意味 間違い
でもまさか また最初からだなんて考えてもいなかった

2.彼女たちの旅の終わり

閃光。爆音。衝撃。
最後に見たのは、ただただ 白、白、白。一色のみ。
そして、次に気が付いたときに見えるのは一面の青と、心配そうに覗きこむ鳶色だけ。
――― そう、信じてやまなかった。

「………あれ?」
ぱかりと目を開くなり間抜けな声を上げたヴィ・ワの顔が、覗きこんでいた丸い瞳に映し出される。
覗きこんでいたのが夢と同じ鳶色でなかったことにも驚いたが、それ以上に、その背後に見えた空の色に戸惑いを覚えた。
「―――――― 青く…ない??」
ぼんやりと霞んだような くすんだ青は酷く見覚えのある色で。
「ありゃ???」
増えつづける違和感に、目を瞬かせた。

ヴィレンジェ山は?
ミオさんは?
ラモエは?
メテオパラサイトは?

瘴気を晴らして、青い空を見上げたのは夢なのか、現実なのか。
それはまた、どちらが夢? どこまでが夢?

普段、余り使われることの無い脳味噌(しかも寝起きで酷くボケている)がフル回転して、回転しすぎて空回りしているのが分かる。
そう、ここは、相棒のように落ち着いて行動を…と、そこまで考えて、その相棒がいないことにようやく気が付いた。

「ガーちゃん! ガーちゃぁあん!!」

とりあえず叫んでみる。
が、返事は無い。
無いことが不安で、どうしようもなくて、空回りして。

まさか、ガーちゃんの存在さえ夢?
ってか、それならアタシの妄想逞しすぎ。
はっ!! もしかして、さっきアタシの顔を覗きこんでいたのが仲間だったとか?
でも、あれってアルフィタリアのキャラバンの人にそっくり…。
もしかして、アタシってばアルフィタリアのキャラバン隊だったとか?!
てことは、ソール=ラクトさんの部下?
「〜〜でふっ!」の同僚?
それは楽しいかもしれない。かなり楽しそうかもしれない。そそられるものがある。
だが、それでも、やっぱり、どうしても!

「アタシの相棒は、ガーちゃん じゃなきゃあ 嫌なんだぁあーー!!」

「うん。私もヴィ・ワじゃなきゃ、嫌よ」

寝転んでいたせいで ただでさえ乱れている髪を さらにぐしゃぐしゃにかき乱しながら叫ぶヴィ・ワに待ち望んでいた声がかけられる。
「ガーちゃぁああああん!!」
もう逃がさないぞ と言わんばかりに がっしとガーネットに抱きつく。
パニックに陥りながらも、先ほどの言葉は聞こえていたらしく アタシたちってば両思いね、きゃっv と、今度は別の方向に空回りしているヴィ・ワを宥めながら、ガーネットは唖然としているアルフィタリアのキャラバンに苦笑いを向けたのだった。

- - - - -

「コロボックルの村?」
ようやく落ち着きを取り戻したヴィ・ワに湯気のたつカップを渡しながら、ガーネットは仕入れてきた情報を伝える。どうやらヴィ・ワが起きたときにいなかったのは、馬車の中でその話を聞いていたかららしい。

聞けば聞くほど疑問が増えていく。
山も、河も、海も、街も、何もかもが記憶と同じ。
出会う人たちさえ全く同じ。
違うのは誰もヴィ・ワとガーネットという人物を知らないことと、瘴気がまだあるということ。そして何より、何もかもが同じなかで大陸の端にある村の名だけが違うということ。

「ティパの村は?」
ヴィ・ワの問いは、ガーネットの問いでもあった。
だが、何度地図を見せてもらっても、ソール=ラクトらに確認しても、ティパという名の村は存在しておらず、かわりにその地にあったのはコロボックルという名の村だった。
「どういうこと??」
さっぱり理解できないと首を捻るヴィ・ワに、それを聞きたいのは私も同じよ、とガーネットも心の中で思う。
だがガーネットが答えを出してくれるに違いないと信じきっているヴィ・ワにそんなことは言えそうにも無く、ガーネットは溜息の代わりに一度瞼を伏せ、考えた末の結論を述べた。
「つまり、ここは、私たちのいた世界と違うんじゃないかしら」
「へー、そういうことかぁ……って、マジで?!」

もちろん、ガーネットもそんなことがあるなんて信じられない。
気が付いたときには、ヴィ・ワと同じく今までのことが全て夢だったのかとさえ思った。
だが、しかし、それは夢と言うには余りにリアルで。
そうして記憶の糸を辿っていくうちに、ふと引っかかるものがあったのだ。

「ねえ、気を失う前のことって覚えてる?」
ガーネットの問いに、ヴィ・ワは素直に考え込む。
パニックを起こしていた先ほどとは違い、脳はスムーズに記憶を辿る。
「…瘴気を払うためにヴィレンジェ山に入って、瘴気を出してる変な物体と戦ってたら、あと少しのところで光の玉が出てきて、それがミオさんで、変な質問があって、答えて、そしたらラモエが出てきて、戦って、勝って、それからやっと瘴気を出してるのに止めを刺した…んだよね?」
大筋ではあったが、ここまではガーネットの記憶とも一致していて、それが夢でなかったことを伝えてくる。
あってるよね、と聞けば、うん、という返事。それに安心して、ヴィ・ワは更に記憶を辿る。
「それから暫く動けなくて、でも空は青くて、ガーちゃんがこっち見てて、嬉しくて。
 なんとか動けるようになって、山を下りて、モグに村の皆への手紙を届けてもらうよう渡した…ような気がする」

そこから先は、最初のやり取りに戻る。
気が付いたら倒れていて、瘴気は晴れていなくて、村は無くて、自分たちを誰も知らない。
とても信じられなくて、夢だと思いたいけれど残念ながら頬を抓れば痛くて、話していれば喉が乾いて、動けばお腹も空く。
どう考えても、これは現実なのだ。

情けない顔をしているヴィ・ワが先ほど語った記憶の中で、一つだけガーネットとは違う部分がある。いや、違うというより付け加えに近い。
そこがガーネットが引っかかった個所であり、そしてたぶんこの事態の鍵。
信じたくは無いが、ここが異世界であるという結論に至った根拠。

「あのね、ヴィレンジェ山を下りて、ヴィ・ワは手紙を書いてたでしょ」
ヴィ・ワが力強く頷く。
「私ね、ヴィ・ワがそれを書いているときに白い光を見たの」
ふわりと浮かぶ光の玉。思い出を吸い取るやわらかな光。
「まさか……ミオ、さん?」
訝しげなヴィ・ワの声に、ガーネットは肯定の意を表すようにふさりと瞼を閉じる。
そしてゆっくりと瞼を持ち上げ、その鳶色の瞳に強い光を湛えながらその先の記憶を語り出す。
「その時ね『もう一つの世界の私たちも助けてあげて、あなたたちならできるはず』って。『彼らだけでは不安だからお願いね』って」
そう、やけに楽しそうな声がしたのだ。
その直後から記憶は途切れ、ヴィ・ワと同じく気が付いたときにはアルフィタリアのキャラバンに囲まれていたというわけだ。
信じたくは無いが、信じたくなど無いが、これはやはりそういうことだろう。

「…ねぇ、ガーちゃん『彼ら』って、誰ら?」
どこか呆然と問うてくるそれに、答えられる術は無くガーネットは力無く首を横に動かす。
それを見たヴィ・ワは…切れた。何かが ぷっつりと。
「『彼ら』のヒントくらい出してからにしてよ! ミオさんのバカー!!
 これから一体、何すればいいのさ! 教えてミオさん! つーか、教えやがれ、コラーー!!」
地団太を踏みながら濁った空に向かって吼えるヴィ・ワをガーネットは止めるでもなく(何しろガーネットだって同じことを思っているのだから)眺めながら、すっかり冷めてしまったお茶を口に運んだのだった。
冷えたお茶は、やけに渋かった。

そんな二人が、コロボックルの村の二人を助けるのは その翌日のこと。

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