Gift from Aplayer = Ayasato sama.
『もう一つの物語 〜1.彼らの旅の始まり〜』

全く同じようで 全く違う
全く違うようで 全く同じ
まるできれいに並んだ平行線のように 交わることの無い世界

1. 彼らの旅の始まり

旅立ちに相応しい、晴れた日の朝。
世界を覆うように立ち込める瘴気は その空の色さえ変えて見せる。
きっと本当の空の色なんて誰も知らない。
そして、そんな瘴気から村を救うためボクたちは今日 旅立つのだ。

準備が済んだら寄るようにと言われた通り、エンジュは村長の家へ向かった。
朝日を受けるクリスタルは 今日も曇り無く透明に輝いている。
その視界を白く染めるような眩しさに 目を眇める。
徐々に慣れてきた視界の中で、クリスタルの前に佇む人影が見えてエンジュは足を速めた。

「おはよう」
金色の髪をつんつんと逆立てた幼馴染といつもより緊張した笑顔で挨拶を交わす。
彼がこれから共に旅する仲間。クラヴァットのジェイド。
いつになく真面目なジェイドの表情に、エンジュにも本当に旅が始まるという実感が湧く。
二人で深呼吸して 気合を入れて 顔を見合わせて。
それから ようやく旅の始まりを告げるドアを叩いた。

励ましと 注意と 覚悟。
村長と その妻から語られたそれは 今まで旅してきた者たちからの言葉。

かつてキャラバンが戻らなかったために滅んだ村の話。
瘴気を晴らすと言って旅立ち、そして戻ってこなかった若者の話。
それらは二人の肩に圧し掛かり、自分たちの旅の重さを知らしめた。

無理だったでは済まされない。
甘えの許さない状況に不安を隠しきれないまま、エンジュとジェイド、二人だけのキャラバンはコロボックルの村を後にしたのだった。

「きみらが、新しく旅立ったキャラバンか?」
村を出て直ぐにアルフィタリアのキャラバンに声をかけられる。
重々しい鎧に身を包んだ彼らの旅慣れた空気に安心すると同時に、腰が引けてしまうようなプレッシャーも感じる。
思わず泳がせてしまった視線が、だがある一点でぴたりと止まる。

アルフィタリアのキャラバンの馬車の陰。
視線を泳がせなければ きっと気付かなかったであろう そんな場所にいたのは二人の少女。

一人は、栗色の長い髪に白い頭巾を被った、クラヴァットとおぼしき少女。
もう一人は、金色の髪を持ち 長い足を惜しげも無く晒しているセルキーらしき少女。
リルティだけで構成されているはずのアルフィタリアのキャラバンの中に何故か混じっているのもそうだが、それ以上に、彼女たちの持つ雰囲気が気になった。

ここにいる誰よりもこの地を旅慣れているようで、ここにいる誰よりもこの地に戸惑いを覚えている。まるで迷子であるかのように。
そんなはずは無いけれどと否定しつつも、エンジュはその二人から視線が外せなかった。

- - - - -

「やっぱり最初はリバーベル街道からだよね」
アルフィタリアのキャラバンとスティルツキンというモーグリから旅の心得や戦い方を学び、初めて使った魔法に興奮し、その勢いに押されるままリバーベル街道へ足を踏み入れる。
コロボックルの村から一番近くて、でも今まで一度も入ったことすらないそこは 魔物たちの住まう地。
旅立つ際に持ってきた槍と剣をぞれぞれ握り締め、慎重に歩を進める。

ぱきり

ジェイドの踏んだ小枝が音を立てる。
それに動揺したエンジュの肩が茂みにぶつかり揺れた。
やばい と思ったときには、目の前にゴブリンの投げた石が迫っていた。
どうにかそれをかわし、無様に地面に転がる。
ジェイドの方もどうやら最初の攻撃をかわせたようで、この騒ぎに寄ってきたヘッジホッグパイに向かって剣を振り上げる姿が見えた。
と、刹那。その姿が炎に包まれる。
「!!」
何が起こったのか分からないまま、エンジュの視界も赤く染まる。
ファイアだ!
身を焦がす炎は熱さよりも、痛みが強い。
纏わりつくように広がる炎の先に、きらりと光るゴブリンの刃が見えた。

――こんなところで倒れるわけにはいかないのに…!!

振り下ろされる鋭い切っ先に、絶望感が心を覆った。

「ケアルガ!」
周囲が急に暗くなり やわらかな光の渦がエンジュとジェイドを包む。
ふわりと光が身体を撫でてゆくのを感じた途端、付けられた傷も火傷もすべて跡形も無く消え去っていた。
展開に脳がついて行けず、ただただ呆然と立ちすくむ。
隣に立つジェイドも同じように呆然としているのが分かった。
「!――あぶなっ!!」
そんな二人の間から魔物へ駆け抜けて行く二つの影に思わず叫んだ。

どかっ!
ばきっ!

確実にゴブリンを倒す その武器は見たことの無い形と光沢。
踊っているかのように揺れる金の髪の先にすら 魔物が触れることはない。
その後ろから雷を操り ヘッジホッグパイたちの動きを止めている少女の鳶色の瞳にも 恐れや迷いは見られない。

瞬く間に エンジュたちを取り囲んでいた魔物を倒した二人は、先ほどアルフィタリアのキャラバンと共にいた少女たちだった。

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