「い、つまでやるつもりじゃボケ!」
オドレは毎回毎回しつこいんやと言いながら、ウルフウッドは頭を殴った右手をさすってシーツをかぶり、背を向けた。隣でベッドに沈没したヴァッシュは、殴られたところを涙目でさすりながら「ひどいやウルフウッド」と訴えたが、「黙れ色ボケ」と一喝されてしまった。
「ひどい……」
「一晩に三回も四回もやるオドレのがひどいに決まっとるわ。それでのうても一回一回がくどいっちゅーのに」
ウルフウッドの断言に再びダメージを食らったのか、ヴァッシュはシーツに突っ伏した。それに代わるようにウルフウッドは起き上がり、ふらつく体を騙しながらベッドを抜ける。体を拭きたかったのだ。
ヴァッシュはそれを背で見送ると、寝返りを打って仰向いた。誰もいなくなった部屋でもう一度「痛いなあ」と呟いてみたが、部屋の隅に澱んだ闇に吸い込まれるだけだった。
どうにも相手に何かを求めるのはヴァッシュのほうが割合が強いので、事後に殴られるのは今夜が初めてではない。でもけっこうウルフウッドもそういうとこあると思うけど隠したがるんだよなあ、などと呑気に思うから同じことを繰り返してしまうのだが、ヴァッシュ自身は気付いていない。
肌の熱を奪うようなセックスの中で見せてくれる様々な表情も好きだが、本当は笑っている顔がいちばん好きだと思う。どんな人の表情でも笑顔は好きだが、滅多に心からの笑顔など見せてくれない男の笑顔はまた、別格だった。
いつも笑ってればいいのにと思う。
そんなに難しいことではないと思うのだけれど。
彼の何がそんなに難しい顔をさせているのか。聞いたことはないし話してくれたこともないけれど、いつか笑ってくれればいい。
「なんや、また暗ぁなって考え事か?」
戻ってきたウルフウッドがシーツにもぐりこむ。熱はすっかり引いているらしい。
「別に」と答えながら、つれなく背を向けた背中を抱き込んだ。
「なんやねん」
大人しく寝かせえ、と苦笑するウルフウッドのうなじのあたりに鼻頭をうずめる。軽く吸い付いたが、痕をつけるような真似はしなかった。
「トンガリ」
声は不穏を孕み、体はわずかに緊張したようだったが、ヴァッシュに行為を続けるつもりは毛頭ない。ましてこれ以上不機嫌にさせる気もなかった。
「何もしないよ」
「…………」
「信じてない?」
「日頃の行いを恨むんやな」
「……。大丈夫、ほんとにしないから」
信用ないなぁと内心で苦笑しつつ、腕をウルフウッドの体に回す。先ほどより冷えたとはいえ、温かいことに変わりはなかった。
「おやすみ、ウルフウッド」
囁くと、「ああ」とそっけなく返される。
起きてもこのままいたいなと思いながら、ヴァッシュはゆっくり目を閉じた。