Tuba mirum spargens sonum per sepulcra regionum coget omnes ante thronum.
温かく冷たい何かが、アレンの目醒めを呼び込み、
散り逝く音色が その幼い魂を震わせた。
既に旅立った後だった それ は、小さな墓標の上で吹き鳴らされた音によって、
新たな王たるものの前へと呼び戻され―――、
意識と肉体は連動して、ぼくの視界を切り拓いてゆく。
とたんに、とてつもない 喪失感 が、心に飛び込んできて、
ぼくはたまらず 叫び声 を上げた。
最初に目にしたものは、汚れたシャツの肩越しに見えた薄汚い天井の骨組みだった。ふと既視感に襲われて___それはすぐに消え去っていった。
起き上がろうと身体に力を入れて、ぼくは失敗した。最初はなぜだかわからなかった。上から覆いかぶさる人間の重みの所為かと思ったが違った。起き上がるために身体を支える腕が失くなっていたからだった。左腕がごっそりと消えていた。不思議と痛みは無い。なぜ左腕がないのだろう―――ぼくはたったいま生まれたばかりのはずなのに。
苦労して身体を起こす。ぼくの身体を抱きしめるようにしていた男の屍体をベッドの下へと放ってやった。横顔が露わになったが、ぼくはなんの感慨も抱かなかった。
右手がひやりとしている。見ればその手は真っ赤に染まっていた。血だ。流されたばかりの新しい血が、乾いてぼくの手にこびりついていく。きっとこの男の血だ。だって男の胸元が、赤い花でも咲かせているかのように真っ赤だから。流れ出た血と魂の分だけ軽くなった男の身体が、ぼくの足元に横たわっている。
でもこんな感情は知らない。わけがわからない。知るはずがないのだ。ぼくの全身を染める血の理由なんて。
「アレン・ウォーカー、我が輩が解りますカ♡」
まるで天からの声のようだった。ぼくは頭上を振り仰いだ。
(ああ―――)
今まで感じていた心細さはその人物によって一瞬のうちに払拭された。この人こそがぼくの主。
「はい、
ぼくがそう答えると、その人は満足そうに ウフフ と笑った。 「では、行きまショウ♡」
差し出された手。ぼくはじっとそれを見つめた。
誰かとはずいぶん違っているなという想いが頭をよぎった。この手を取ればもう二度と後戻りできないと誰かが囁いた。
だけどぼくの意思に反して身体は動いた。まるでそうするように決められていたみたいに。
手を引かれながら、ぼくは最後に振り返った。床に無残な屍体が転がっている。
とたんに視界が歪み、頬を涙が濡らした。
わけもわからず、ぼくは泣いた。
―――あの喪失感が、ぼくのたましいを灼きつづけていた。
(妙なるラッパの響きが、すべての墓の間に鳴り響き、人々を玉座の前に集めるだろう。)