Quantus tremor est futurus,
quando iudex est venturus cuncta stricte dis-
cussurus!
その日のことを、アレンは200年経った今でも鮮明に思い出すことができる。
その日こそ、怒りの日。
すべてを理解した日、すべてを再び亡くした日。哀しみが心を引き裂き、憎しみが身を切り刻んだ日。
ただひとつ、手元に遺された愛する人の証に誓った日。
アレンは右手にしたものをきつく握り締めた。自分が壊したモノ、無残な形骸、その一片を。
力無く地面に座り込むアレンの周りに散らばる骨格の破片は、破壊と救済の名残りだった。アレンはそろそろと握りこんだ右手を胸に抱いて上体を折った。
「...マ、 ナ」 涙の代わりに、疵付けられたばかりの左頬から血が滴った。一滴。
ああ自分は愛しい人のために泣くことも叶わないのだ___アレンはぎゅっと身を縮こまらせた。涙。ただそれだけで、幾分か罪を贖えるような気がするのに。
再び血が滴った。顔の左半分が灼けるように熱い。呪いと愛を同時に叫びながら、マナが遺していった疵。痛みは無かった。痛いのはむしろ別の場所だった。魂の座。アレンはその上に置いた拳を左手で覆った。なんて苦しみ。
拘束された魂に逃れる術は無い。犯した罪への苦悩/血塗られた自身への絶望/現実への憎悪/ぼくはなぜ、ここにいるのか/疑問/ぼくはなぜ、ここにいるのか...
失われていた記憶が、濁流となって魂に叩きつけられ、アレンは全身を ぶるり 震わせた。
眼を閉じれば、“死”の感触と“誕生”の光景が鮮明に蘇る。あの時自分は死んだはずだ。呼吸も心臓も止まり、意識は暗闇に包まれ旅立つはずだった。愛しい人の声に振り返りさえしなければ。
自分を呼ぶ
愛していた。血のつながりはなくとも、父として慕っていたひと。愛しているからこそ呼ばれた声に応えたくて。なのに結局どうなった? ぼくはなぜ、ここにいるのか。
マナを
「たましいを...捕まえられた...もう逃れられ ない」
呆然と、アレンの小さな唇から声が洩れる。はっとしたように、黒い瞳が見開かれた。
「
アレンの小さな身体は、今度は怒りのために小刻みに震えた。頭の中、おぞましい哄笑がハウリングする。記憶の中で哂う影。知っている。僕はこいつを知っている!
「千年、伯爵...!」
マナに罪深い囁きを落とした者。アレンの魂を手に入れて、
僕はなぜ、ここにいるのか。その疑問の答えが、ようやくアレンのなかではっきりとした像を結びつつあった。
温度のない血が、アレンの左頬を濡らし続けている。アレンは握り締めていた拳を開いた。ダークマターの欠片。マナだったものの欠片。ぽたりと血が滴った。アレンはそれに誓った。
(審判者がやって来られ、私たちが厳しく裁かれるとき、その恐れはどれほどのものであろうか!)