Et lucis aeternae
beati-
tudine
perfrui.
伯爵は見つけた悲劇の分だけ、次々とアクマを造って回る。
でも全てのアクマが、エクソシストに有効なほど進化し、兵器として申し分ない強さを手に入れることができるかといえば、それは違う。アクマは選別にかけられる。弱いものは壊れていき、強いものは人間を殺してどんどん進化する。アクマにとって人間は極上の餌だ。とくに幼い子どもや弱い女。柔らかい肉と新鮮な血は、ダークマターから生まれたアクマの自我を存分に愉しませてくれる。ただ殺すだけでなく、引き裂き噛み千切り嬲って愉しむ。レベルの高いアクマほど、より高度な殺人を。千年伯爵に気に入られるような、悲劇を創り出すために。計画的に人を殺す。人間の心理を操って殺させる。嫉妬と疑念、仲間割れに権力闘争。その影で零される涙が、新たな悲劇の芽吹き。人間ってなんて愚かなのだろう―――アレンはそっと白い睫毛に縁取られた漆黒の瞳を伏せた。その視線の先には、血の海に沈む男がひとり。現実を受け入れられず、悪魔の囁きに頷いてしまった男がひとり。その妻が隣に。抱きかかえられて幼子がひとり。最初から寄り添っていたのではない。アレンがここまで運んできた。せめてもの手向けにと。アレンは頬に飛んだものを拭った。鉄の匂い。それはひどく甘く匂った。人間ってなんて愛しいんだろう。

  



伯爵の頭の良いところは、兵器であるアクマを自己進化させる形にしたことだ。それならば、使役者がわざわざ手塩にかけて育てる手間が省け、製造を進めて行くうちに、どこかで強いアクマが勝手に育ってゆく。まるで魚類の産卵のようだ。無数の卵から、たった2,3匹が、成長して大人になる。
洗練された遺伝子を残すために。高性能の悪性兵器キラーマシンとなるために。

伯爵はアクマを造るだけ造って、あとは放置しておくことが多い。気まぐれに市井に紛れているアクマの様子を見て回ることもあったけれど、そんなことは珍しく、殆ど無いといっていい。伯爵がロードを真剣に叱る、という可能性と同じくらい低いのだ。
その放置された下位のアクマの様子を、ことこまかに把握しているのはおそらく僕だけだろう、とアレンは思う。耳の奥、ヒトの可聴音域ギリギリの慟哭。ああ、また世界の何処かで。アストラルレベルで走査線を走らせれば、アレンは総てのアクマの存在と位置とを把握できた。アクマの星図/幻暈がする。まったくこっちの身にもなって欲しいものだ。たとえ訴えたところで、伯爵がアクマ製造のスピードを緩めるとも思えないが。

そんなわけで、アレンは初期レベルのアクマの、教育係的な役目を負っていた。

お腹が空いても、人目があるところでいきなりがっつくのはなるべくやめろとか、
人を殺すならば闇夜に乗じて殺れとか、
エクソシストという黒の団服に十字を飾っている人間にはとにかく真っ先に襲い掛かっていけとか、

...そういうことをアクマを集めては時々講義していた。大人しくこちらの話を聞くものもいれば、何を勘違いしたのかアレンに手を出してくるアクマもいたので、アレンの開く“お勉強会”はいつもちょっとした惨事になる。アレンの機嫌が悪ければ、自我のない大人しいレベル1ミソパエスは八つ当たりの対象だったし、機嫌が良ければ、アレンに襲い掛かってくるアクマは一瞬のうちに処分された。


ある日、いつものようにアレンが集めた数人のアクマに対して、アクマの心得うんたらを語っていると、どこからやってきたのか、ティキ・ミック卿がひょっこりと顔を出したのだ。
エクソシストを見つけたら、なんでもいいから攻撃しろ、と云い放つアレンに、ティキは可愛い外見してお前って意外と男前だよなぁ と腹を抱えて笑い出した。

「失礼ですね、人が真剣に教授してるっていうのに、」
ぶすりとした調子で告げれば、お前ってほんとうに 変なヤツ だね! ティキは感心したように云った。 お前のその教え方、まるでアクマにとっとと壊れて逝けって云ってるように聞こえるぜ、


...学が無いと自分で云うくせに、
こういうところは妙に鋭いノアに、アレンは さっさとくたばってしまえばいいのに と、心中で毒を吐きながら、


「そんなつもりはありませんよ」 と鉄の微笑みで返した。

 

 

 

 

(そして永遠の光の祝福に至るように。)