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手3

青い鬼火で照らし出されていた筈の室内は、獅紅がユラユラと発し始めたオーラの色で赤く染まりつつある。
そのオーラのおかげで、先程まで半分僕をからかっていた獅紅の感情が、本気で揺らめき始めているのがわかった。
そんな獅紅の心の現われが、僕にはとても嬉しい……


「ぁ…ふ……っ」

逃れられない強い力で頭を押さえ付けられたまま、息をつく暇が無いほど追い立てられる。
僕は何も考えられなくなるぐらい強引で激しい獅紅のキスが好き。
けれど今はいつもとは違う角度のキスに戸惑い、少しだけ緊張して、強く掴まれている腕も獅紅の胸に置いている手も微かに震えてしまう。
舌を引き摺り出され、唾液を搾り取られてしまうんじゃないかと心配になるほど吸い上げられ、口腔を思うままに弄られるキスはいつもと同じなのに、角度が違うだけで今まで触れられた事が無い場所にも獅紅の舌の存在を感じ、その度に心臓が跳ね上がった。
それでも必死でキスを返す。
ただがむしゃらなだけの、自分でもすごく不器用だとわかるキスだけど、でもその分ありったけの 『好き』 を込めて……


ようやく頭を押さえられていた手が緩んだので、唇を離しながらそのまま崩れるように獅紅の胸に顔を埋め、はぁはぁと肩で浅い息を繰り返した。
でも僕がこんなに心臓をドキドキさせて息が上がってしまっているというのに、獅紅の呼吸はほとんど乱れていないし鼓動も多少速いかな?ぐらい。
おまけに赤いオーラはいつの間にか消えてしまい、室内はまた庭の青い鬼火で照らし出されているだけだった。

何でだろう……
さっきもなかなか構ってくれなかったし……


すると獅紅が長い爪で僕の髪を優しく梳きながら静かに口を開く。

「今日は朝から麒紋領に行くのではなかったのか?」

「あ、忘れてた……」

……そうだった。
今日はバレンタインデー。
僕はここで暮らすようになってから様々な行事をするようにしているんだけど、バレンタインデーもその一つ。
僕も男だから本当は貰う側になりたいけれど、間違っても獅紅がハート型のチョコレートなんてくれる筈がない。
だから百歩譲って毎年僕が獅紅にあげる事にしていた。

それに今回は、麒白と白桜の思いがようやく通じ合って初めてのバレンタインデー。
麒白なら喜んで白桜にチョコレートを作ってあげそうだけど、ここはやっぱり僕が白桜に色々教えてあげたいし、こういう行事が初めての白桜が困らないように、僕なりに頭を悩ませて色々考えた事もある。
その話は既に獅紅にはしてあり、昨日のうちにチョコレートを作る材料を用意してもらい、今日は朝から麒紋領に連れて行ってくれるように頼んでいたんだけど、獅紅の手で遊んでいるうちにすっかり忘れてしまっていた。
確かに今このまま抱かれてしまったら、完全にヘロヘロになって麒紋領に行くどころではなくなってしまうだろう。
だから獅紅は出来るだけ僕に構わないようにしてたんだ……


そんな事を考えていると、優しく髪を梳いてくれていた手が突然離れ、獅紅の胸に置いていた僕の左の手首を、爪が食い込むほどに強く掴んだ。
驚いて顔を上げると、燃えるような瞳で僕を見下ろしながらその手を自分の口元まで引き寄せ、人差し指と中指を口に含んで思い切り噛み付いた。

「痛っ!」

「……散々私を煽り立てておきながらここで耐え
 忍ばせた罰、麒紋領より帰ってのち、存分に
 受けてもらうぞ……」

喰い千切られてしまうのではないかと思うほど強く噛み付かれ、痛さのあまり手を引こうとした瞬間に噛んでいた力を緩められて、そのまま二本の指を愛撫するようにねっとりと舌を這わされた。

「……やぁっ……」

指先から獅紅の口腔の熱さが伝わってくる。
時々垣間見える獅紅の赤い舌がぬるりと這わされる度に全身の神経が研ぎ澄まされたように敏感になっていき、咥えながら舐められている指の隙間から獅紅の唾液が零れ落ちていくのを見ているだけで、ジンと体の芯が熱くなった。

「ぁっ…ん……」

獅紅は一度人差し指と中指を解放し、掌をゆっくりと舐め上げてから今度は人差し指だけに舌先をチロチロと這わせる。
堪らず声を漏らしながらどうしようもなく湧き上がって来る体の熱を獅紅の体に擦り付ける。
獅紅はその赤い瞳に愉悦の光を浮かべて僕を見下ろしながら、第一関節、第二関節とまた口の中に呑み込んでいった。

……僕が獅紅の手で遊んだ分、今度は獅紅が僕の手を弄んで反応を見ながら楽しみ、散々翻弄してから放り出すつもりなんだろう……

指の1本1本に執拗に舌を這わされて、行き場の無い快感がうずうずと腰の辺りに溜まっていくのを感じ、もう充分過ぎるほどお仕置きになっているのに、と思いながら漏れそうになる喘ぎをゴクリと咽喉を鳴らして飲み込んだ。

「……覚悟が足りぬようだぞ……」

獅紅は指を口に含みながら少し楽しそうに囁き、僕は左手首を捕らえられたまま震える息を吐きつつ、すっかり観念して獅紅の広い胸にポフッと顔を埋めた。


− 完 −

2006/02/11 by KAZUKI



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