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手2

自分で思いついたことにワクワクしながら繋いでいた手を放し、左手で獅紅の手に拳を握らせ、右手で人差し指と中指だけを真っ直ぐ伸ばさせる。
それを庭から入る鬼火の明かりに照らし出されるようにすると、部屋の壁に綺麗に影が映った。
よし。
そして獅紅にはっきり伝わるように心の中で強く強く思う。

『チョキ』

だけど獅紅はピクリとも動かない。
なかなか手強いな、と思いつつ今度はもう一度獅紅の手で拳を作り、自分の手で作ったチョキをその下に付けてみる。

『カタツムリ』

僕の指が短いから、殻が大きいワリに角が短い不恰好なカタツムリだけど……


開かせた獅紅の掌に自分の開いた掌を乗せ 『カニ』

……片方だけ足が短いな……

獅紅に構ってもらうという当初の目的も忘れ、何だかだんだん楽しくなってきた。
それからも僕は次々と獅紅の手で遊んでいく。


そうやっていくつか遊んでいる内に、一番基本の 『キツネ』 を作っていない事に気が付いた。
え〜と、人差し指と小指を真っ直ぐ立たせて、中指と薬指を親指とくっ付けて、と……

「アハハ」

そのキツネが予想外に可愛かったので思わず声に出して笑ってしまった。

……獅紅が……鬼神が……
……こんなに可愛いキツネ作っちゃってるよ……


壁に映った影絵を見ながらクスクス笑っていると、いきなりそのキツネが動いた…じゃなく獅紅が動いて後ろから耳に噛み付いて来た。

「あっ!」

すっかり手遊びに夢中になっていた僕は慌てて獅紅の手から両手を離す。
けれど獅紅は逃げようとする僕の耳に更に歯を立てながら、腰の上に置いていた右手でまだ何の反応も示していない柔らかい僕のモノを握り込んだ。

「……キツネとは噛み付く生き物であろう?」

寝起きだからか、いつもより更に低く掠れた声にゾクゾクして、温かい手で包み込まれた僕のモノはピクッと反応してしまい、ゆるゆるとそれを弄んでいた獅紅が気付いて小さな笑いを漏らす。
すごく恥ずかしくて何とかして逃げようとするのに、大きくて力強い体にしっかりと押さえ付けられてしまえば身動き一つ取れない。
僕が動けないのをいい事に獅紅は丹念に耳に舌を這わせ始め、弄んでいた手を今度は扱くように動きを変えていく。

「ぁ……やっ……!」

耳の中まで獅紅の長い舌が入り込み、クチュクチュと響く卑猥な音に鳥肌が立った。
先程までキツネを作っていた可愛い筈の左手は、いまやその爪で胸の飾りを弾いたり摘んだりを繰り返し、右手は緩急を付けながら僕のモノを扱き続けている。
変則的にリズムを変える獅紅の手の動きに翻弄されるまま、ズクンズクンと音を立てて脈打ちながらその部分に血が集まっていく。
逃げようとしていた気持ちなんてあっという間にしぼんでいき、両手でシーツを掴みながら、すっかり朦朧とし始めた頭で与えられる快感をひたすら夢中で追った。

「……ぅんっ…ん…」

獅紅の手が少しずつ熱を増していく。
この手が火傷しそうなほどに熱くなり、全身を蕩かしてしまうまでもう少し……


「……私に構ってほしかったのであろう……?
 これで良いか……?」

「えっ?」

獅紅はもう一度軽く耳に齧り付くと、もう終わりとでも言うように突然僕の体から両手を放して仰向けに寝転んでしまった。

全身を包み込んでくれていた温かさを急激に失い、まるで寒風にさらされた気分で先程とは違う意味の鳥肌が立つ。
心許なくてどうしようもなくなり、思わずいつも僕を温めてくれる両手を追って寝返りを打ち、そのまま獅紅の上に覆い被さった。
すると獅紅の赤い瞳が珍しくからかうように見上げて来る。

「あ、え、えっと……」

勢いで覆い被さったのはいいものの、自分からこんな風にしたのは初めてなので急激に恥ずかしくなり、顔を赤く火照らせながらあたふたと自分の枕に戻ろうとする。
ところが布団に手をついて自分の体重を支えていた右の二の腕を痛いほど強く掴まれ、後ろ髪に差し入れられたもう片方の手で強引に顔を引き寄せられて、そのまま深く激しいキスをされた。