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手1

ふと目を覚ますと辺りはまだ薄暗く、庭から入る鬼火たちの炎でぼんやりと室内が照らし出されている。
しんと静まり返った中、相変わらず鼓の様な音だけが止まる事無く静かに響き続けていた。

僕が起きてしまったから獅紅もきっと目を覚ましてしまっただろう。

だけど身動き一つしないので、背中から抱き締められながら寝ていた僕も無言のまま、背中に感じる素肌の温もりに安心感を感じつつ夢うつつのまどろみの中でゆっくりと瞬きをした。


鬼火たちの炎が揺れる度に室内の影もそれに合わせて揺れる。
元々物をほとんど置いていない僕の部屋にあるのは、字を書いたりする時に使う小さな机やお茶の道具ぐらい。
着替えを入れている箪笥は隣の部屋にあるし、他の物も大抵そっちに置いていて、琴は 『琴の間』 と僕が勝手に呼んでいる部屋に置いてある。

琴と言えば……

相変わらず僕は毎日鬼達に琴を教えているんだけど、僕と鬼達の間には大きな違いがある。
それは琴爪を使って弾く僕とは違い、鬼達は自分の爪で弦を弾くという事。
一人一人爪の形や長さや厚さが違うので、同じ曲を奏でている筈なのにそれぞれに違う音が響くんだ。
初めはその事にすごく驚いたんだけど、でも不思議な音色を奏でる鬼達にすごく感動して、今では色んな音を聞けるという僕の楽しみにもなっている。


何の気なしに僕が頭を乗せている、投げ出された獅紅の左の手を眺める。
僕は獅紅の手がとても好きだ。
手『が』、ではなく手『も』だけど……という自分への突っ込みはこの際置いておいて、そっと布団の中から右手を出し、腰の上に置かれている獅紅の右腕が動かない事を確認しながらその手を静かに伸ばした。


まずは人差し指の爪をちょっとだけ摘んでみる。
先になるに従って細く尖っていく長くて真っ赤な爪。
今でも腕を強くつかまれたりすると食い込んだりはするけれど、それでもあの初めてキスした時のように傷を付けられる事はない。
普段は細かいところまで色々気を使ってくれる獅紅だから、きっとそれだけあの時は余裕が無かったって事なんだろうな〜、と思いながらフフッと一人で思い出し笑いをした。


今度は左手も伸ばして力の入っていない獅紅の左手を開かせながら、そこに自分の右手を乗せて大きさの違いを確認してみる。
自分の手が男として大きくないのは認めるけれど、それにしても僕の指先は獅紅の指の第1関節と第2関節の中間ぐらいまでしか届かない。
まるで大人と子供ほどに違う。

ん〜ちょっとだけ悔しいかも……


そのまま指を1本ずつ絡ませながら繋いでみる。
温かくて大きい掌に、ごつい訳ではないのに男らしく節くれだった長い指。

抱かれる時はいつもこの手から火傷しそうなほどの熱い思いが溢れ出て来て、身体中に火を点けられていく気がする。
ハンドパワーっていうか、まさにそんな感じ。
獅紅が火族の鬼神だって、僕が一番感じる時だった。


何度も右手に力を入れたり抜いたりしながらニギニギしてみるんだけど、相変わらず獅紅は動かない。
前に心を読まれても構わないって言ったのに、それでも獅紅は以前ほどではないにせよ気を使ってくれているらしく、やっぱりいつも僕が起きるのと同時に目を覚ましている。
だから今も間違いなく起きているだろうし、これだけ獅紅の事ばかり考えているんだから、きっと僕が思っている内容は全部伝わっているだろう。

それなのに何でいつまでも動かないのかな〜。
何だかちょっとつまんないな〜……
……よし。
こうなったら獅紅と根競べだ。
獅紅が僕を構わずにいられなくなるように……ふふっ……いい事思いついちゃった……


※次は18禁※苦手な方はご注意を