腕2
「よし!これで出来上がり!」
光鬼様と色んなお話をしながら教えていただくままに作業を進め、厚紙で作った蓋付きの箱に出来上がったチョコレートを詰めた。
ハート型という形の、一口サイズの茶色い塊が5個。
部屋の中にはほんわり甘い香りが漂っていて、それを嗅いでいるだけで何故かとても幸せな気持ちになる。
光鬼様が獅紅様に作られたものよりずっといびつな形にはなってしまったけれど、それでも麒白様への思いは沢山込めさせていただいたつもりだし、自分なりにとても満足だった。
「大変楽しかったです。
光鬼様、本当にありがとうございました。」
微笑まれている光鬼様に深々と頭を下げる。
時間を忘れてしまうほど夢中になり、今はやり遂げた達成感と充実感に溢れていた。
「楽しんでくれたなら良かった。
でもね、バレンタインデーはここからが本番。
で、白桜が一番安心出来る場所はどこ?
僕は獅紅の膝に座って後から抱き締めてもらうのが
一番なんだけど。」
「え?え…っと……
やはり麒白様の……腕の中……とか……」
頬が赤く染まってしまうのはわかったけれど、真剣に尋ねて来る光鬼様にはちゃんとした答えを返したかった。
幼い頃より麒白様に抱き締めて頂く度に心が静まっていった。
今は心が静まるだけではなくドキドキしてしまう事が多いけれど、それでもやはり麒白様の大きくて温かくて力強い腕の中が、私にとって一番安心出来る場所なのだと思う。
すると光鬼様が 『やっぱりそうだよね〜』 と笑いながら懐より一通の手紙を取り出し、それをそのまま私の懐に仕舞う。
「白桜と麒白がどうやったら幸せな1日を送れるかって、
僕なりに毎日頭を悩ませて来たんだよ。
それで昨日やっと思い付いたんだ。
大丈夫、簡単だから。
そこに書いてある通りにチョコレートをあげれば、
きっと麒白の腕の中で安心で幸せな一日を送れる
はずだよ。
白桜には楽しくて安心で幸せな毎日を送ってほしいと
いつも思っているんだ。」
そう言ってさらりと私の頭を撫でてくださった。
光鬼様が本当に私の事を思ってくださっている気持ちが伝わって来て、私は 『ありがとうございます』 と言いながら嬉しさのあまり思わず涙を溢れさせてしまう。
すると光鬼様が笑いながらその細い腕の中に抱き締めてくださった。
「泣くのは僕の腕の中じゃなくて麒白の腕の中でしょ?
さ、お互い本番頑張ろうね。」
麒白様とは違うけれど、それでも心からの優しさに溢れた腕の中で何度も何度も頷いた。
****************
光鬼様と共にチョコレートを持って麒白様のお部屋に戻ると、待ち構えていたかのように獅紅様が立ち上がられるお姿が見えたので、私は箱を膝の上に置き、襖の手前の廊下に平伏する。
「……行くぞ」
燃えるような赤い髪を揺らせながらつかつかと歩み寄って来た獅紅様は、何故か先程よりも更に不機嫌そうな顔をしながら光鬼様の腕を掴まれる。
その後を 『まぁまぁ気持ちはわかるが、獅紅もそんなに焦るなよ』 と苦笑しながら麒白様がこちらに近付いていらっしゃった。
少し顔を上げてその様子を見ていると、光鬼様は少し困ったように微笑まれながら、『ちょっとだけ待って』 と獅紅様に言われ、腕を掴まれたまま麒白様に声をかける。
「麒白、白桜が一番安心するのは麒白の腕の中
なんだって。
だからちゃんと抱き締めてあげてね。」
「ミ、光鬼様っ!」
麒白様と獅紅様の視線が一度にこちらに向けられたので、突然何を言い出すのかと、顔を赤くしながら光鬼様に抗議をする。
すると光鬼様は私を見ながらふふっと微笑まれた。
「白桜、さっき渡した手紙を忘れないで。
さ、帰ろう獅紅。」
そう言って光鬼様と獅紅様は早速帰っていかれ、私は何が何だかわからぬままにお二人に手を振って見送った。
すると大きくて温かい手が頭に置かれ、そちらを見上げると、麒白様が優しく微笑みながら私を見下ろしていた。
「襖を閉めて中に入りなさい。
私にチョコレートをくれるのだろう?」
『あ、はい』 と慌てて答えながら箱を持って立ち上がり、一歩お部屋の中に入ってから言われた通り襖を閉める。
それから既にご自分の場所に胡坐をかかれた麒白様の正面に歩み寄り、思いを込めて作ったチョコレートを膝の前に置きながら正座をして平伏をした。
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