「『永遠』という意味は、その者の思いや価値観によって
それぞれに違うのだと思う。
だから私と桜雲の思う『永遠』が同じだったのか、それも
正直なところわからない。
だがお前が言うように、まさか人として生まれ変わるとは
知らなかった桜雲が消えていく際、私は黒羽を失う時の
お前に近い心境だっただろう。
あの時私は桜雲の思いにただ応えてやりたかった。
桜雲の望んでいるだろう全ての思いを叶えてやりたかった。
私の止め処のない思いを表すのに『永遠』という言葉こそ
ふさわしいと思った。
だから『永遠』に愛していると告げてくれた桜雲に、私の
思う『永遠』を全て与えようと思った。
私の思う『永遠』で愛し抜こうと思ったよ。」
麒白は遠くを見るような目でそう語り、小さく溜息を吐いた後に今度は笑みを浮かべながらまた口を開く。
「黒羽の文からは、黒羽が何をもって『永遠』としていた
のかがとても伝わってくる。
第三者の私が見ればそれは良くわかるが、思いに囚われた
当事者のお前にはわからないのだろう?
私もお前のおかげで白桜の思いに気付けたが、大抵当事者
というのは冷静な目を失っているからね。」
……黒羽が思う永遠……?
「黒羽にとっての『永遠』は龍黒が存在している間。
それ以上でもそれ以下でもない。」
予想もしていなかった言葉に、思わず目を丸くして表書きをなぞっていた手を止めた。
「黒羽は全てわかっていたのだろうね。
運命を委ねてしまった龍黒がその後悩み苦しむだろう
事も、自分の後押しがなければお前が先に進めない
だろう事も。」
「……後押し?」
「お前に最終を託したのは最後のその瞬間まで求め
続けていたという証なのだろうし、そこまで愛した
お前だからこそその先にある愛を手に入れて欲しい
とも望んだのではないか?
だがその為には、時が止まってしまうだろう龍黒の
背中を押してやる存在が必要だろう?
だからこそこの手紙を残したのだと私は思う。
それにたとえ具体的な言葉を告げなかったとしても、
お前の心に存在している黒羽には間違いなく思いが
伝わっているよ。」
視線を上げると、麒白はまた遠くを見るような目をしていた。
「……残される側は確かに辛い。
自分にとっては世界が激変するほどの事だというのに、
周りは何一つ変わりなく時が過ぎ、ただ心の中だけが
空虚な大穴を開けている。
失った痛みや喪失感を抱えながらその後も存在し続け
なくてはならない……」
そこで硬く目を閉じた麒白からは、まさに私が感じている痛みと同じものが感じ取られた。
「……私にはまたいつか、桜雲の時のように手元から
白桜を失わなければならない日が必ず来る。
白桜と共に過ごしている幸せな今が一分一秒過ぎ
去るごとに、否応なくその時に近付いていく。
置いていかれるあの地獄の様な苦しみを、また味
合わなければならない。
またいつかこの鬼界に戻って来るとはいっても、
次回こそ私の代に帰って来るかどうか……
そう考えたら気が狂いそうになるほどだ。
だが……」
ゆっくりと目蓋を上げた麒白は真っ直ぐに私に視線を向け、苦しみと切なさとが入り混じりながらも、確かに幸せそうな笑みを浮かべた。
「それがわかっていても、私はこの先も二人を愛し
続けるよ。
私が思う永遠で。」