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白雪様の元を訪れても私はずっとうわの空で、『桜色の髪と 瞳をした私と同じ顔』 の人がずっと頭を離れなかった。
あの人は誰なのだろう、とそればかりが気になってしまい 何度も先程の姿を思い浮かべては物思いに耽った。


麒白様とお会いするとどうしても落ち着かない気持ちになってしまう為、出来るだけそれを避けながら、その翌日も、またその翌日も毎日毎日私はあの場所に通い続けた。
けれどあれ以降、一度もあの人の姿を見た事は無い。
その代わりに断片的な場面が色々浮かんで来た。
次々浮かんでくる場面で一番多いのが、私が拝見した事の ない獅紅様のお仕事中の姿。
他にも光鬼様が見た事がない黒い上下の服を着て、こちらを 向いて笑いながら話されている姿や、見慣れた白い服を着て、 一緒に料理をしている姿なども浮かんで来た。
それらのどの場面を見る時も穏やかだったり楽しかったりという 気持ちになり、もしかしたら私は 『桜雲』 というその人の目を 通してそれらの場面を見ているのかもしれないと、最近思う ようになった。
これだけ獅紅様や光鬼様の場面が多いという事は、やはり桜雲は火族の鬼なのだろう。

そして時々私も何度も拝見した、麒白様が自由に空を飛びまわる お姿も見えた。
その度に胸が震えながらも苦しく、切ない気持ちになる。
この思いは、私が最近麒白様に対して感じる思いと似ている……
桜雲は私と同じ様な思いを抱えながら、いつも獅紋領で 麒白様が訪れるのを待っているのだろうか?
けれど私が知る限り、麒白様は余程の事がない限り他の領に 行かれたりはしない。
獅紅様や光鬼様は時々遊びに来ては下さるけれど……


それにしても今私が麒白様に感じる思いや桜雲の感じる、 胸が高鳴って痛くなって切ない気持ち。
この気持ちは一体何なのだろう?
それから私と桜雲の気持ちは少しだけ違う所がある。
桜雲は麒白様の場面が見える度に悲嘆に暮れているような 気がする。
私が感じるドキドキするような思いより、悲しみに心が泣き叫び、 苦しみで胸が押し潰されるような、そんな辛い思いで麒白様を見ている。
桜雲がこんなに苦しみながら麒白様のお姿を見ているのは何故なのだろう……?


****************


「……白桜、わかったな?」

白雪様のお声でふと我に返り、『え?』 と思わず声を漏らした。
すると白雪様は苦笑されながら 『また聞いていなかったか』 と 呟かれる。

「今年は我が麒紋領が打ち合わせ場所だとは聞いているだろう?
 だから今回は茶器を光鬼様にお届けする役をお前に任せると
 言ったのだがな?」

白雪様のお言葉に、もう一度 『え?』 と声を漏らしながら目を 丸くした。

来週は年に1度行われる祭祀の為に、鬼神様達が一同に集まられて 打ち合わせをされる日がある。
毎年持ち回りで打ち合わせをする領が変わるのだけど、今年は この麒紋領の番だった。
そして何年も前獅紅様の領で打ち合わせが行われた際、光鬼様が  『茶』 を鬼神様達に出された事がきっかけで、それ以降この打ち 合わせの時にお茶を用意するのが慣習のようになっている。
属性の違う者同士が触れ合えば力の弱い者は消えてしまう為、 鬼神様達にお茶をお出しするのは影響のない光鬼様のお役目に なっていた。
だから受け持ちになった領は茶器を用意して光鬼様にお届けする という役目がある。
今までは白雪様がそのお役目だったのだけど……

「あの、何故今回は私が?」

「お前も大人になって来ているのだから、そろそろ
 麒白様のお手伝いをされてもいい頃だろう。」

麒白様のお手伝い……
私などで少しでも麒白様のお役に立てるのならば、今まで受けて 来たご恩返しも含めて何でもさせて頂きたかった。

「ありがとうございます。
 心を込めて麒白様にお仕えさせて頂きます。」