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あれから光鬼様としばらくお話をした後、獅紅様と共に帰られる 光鬼様に 『また遊びに来てくださいね』 とお声をかけ、お二方に 頭を下げた。
空を飛ぶ際麒白様は私を抱っこしてくださったけど、光鬼様は 獅紅様の肩に担ぎ上げられている。
そしてそのまま私と麒白様に向かって、笑いながら手を振られる光鬼様に 手を振り返しながら、『ちょっと乱暴だから怖い時もある』 と言われた理由が 解った気がした。

お二方の姿が見えなくなるまで手を振って見送った後、麒白様の視線が私に向けられる前に頭を下げ、そのまま その場を後にして自分の場所に戻った。


そして翌日、私はまたあの桜の場所を訪れている。
昨日自分が特別扱いされていた事に今更ながら気が付いた。
私がここで生活をし、そして麒白様に息子のように可愛がって 頂いている。
それを白雪様を始め、他の鬼達も誰も疑問に思っている様子は 今まで一度も見た事が無かったように思う。
何故なのだろう?
その理由はどこにあるのだろう……?

白い石の前にしゃがみ、そっと指で触れながらふと目を閉じる。
いつも通り懐かしくて切なくて、胸が温かくなって苦しくて……
その時目蓋の裏に桜の木が浮かぶ。
桜の木?
桜の木という事はここに植えられていた桜の木なのだろうか?
そのまま意識を集中していると、その桜が少しずつ姿を変えていく。
……あれは……?

……誰かの……後姿?

ハッと目を開けて石を凝視する。
今、誰かの後姿が見えたような気がした。
何?どういう事?

ドキドキしながらもう一度静かに目を閉じ、またあの思いに 包まれていると、やはり先程の姿が見える。
多分私と同じ様な桜色の着物を着ている。
髪も同じ様な長さ。
けれど髪と角の色は白い私とは違って……桜色?
ではこの人は獅紅様の治められる火族の方なのだろうか?

……誰?……貴方は誰ですか?

何度も心の中で問いかけてみる。

『桜雲』

しばらくすると突然頭の中に言葉が浮かんだ。
オウウン?
何かの単語?
それともこの人のお名前?

……貴方は、桜雲というお名前なのですか……?

ゆっくりゆっくりその人が振り向く。
そして桜色の髪を静かに揺らしながらこちらを振り向き、 桜色の瞳で微笑みながら頷いたその人は。

私……?!

驚きのあまりパッと石から指を離した。
それと同時に目蓋の裏の情景も消える。
心臓がドキンドキンと音をたて、目を開けて両手を口に 当てながら震える息を吐き出す。

あの人は誰?
何故私と同じ顔なのだろう?
それに火族の方がこの場所に来られる筈はないのに、何故 この場所から桜とあの人が重なって浮かんで来るのだろう……?


『それを聞いてしまったら私の中の何かが壊れる気がする。
 それを聞いてしまったら私が私ではなくなってしまう気がする。』


最近私の心を蝕み始めていた渦を巻くような不安に、 今にも全てが呑み込まれてしまいそうだった。