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数日後。


「獅紅様、この度は大変ご迷惑をおかけした上に
 お世話になり、心から感謝しております。
 そして光鬼様、光鬼様のおかげで私は大変救われ
 ました。
 本当にありがとうございました。」

私は目の前のお二方に深々と頭を下げた。

ここは麒白様の自室。
どうしてもお礼を言いたいと麒白様にお願いをし、獅紅様と光鬼様に無理を言ってわざわざこの麒紋殿に来て頂いた。

あの時私が川に近付いても平気だったのは、実は獅紅様を初めとする鬼神様達のおかげだった。
この麒紋殿に鬼神様達が一堂に集われ、あれだけの霊力が満ちていたおかげで私があの川に近付いても大丈夫だったそうで、その上獅紅様の発案で鬼神様達が結界を張られて辺りを探ってくださったので、すぐに私の居場所がわかって麒白様が迎えに来てくださったという事だった。
やはりあの川の水に少しでも触れれば私は確実に消えてしまっていたらしく、改めて自分の無鉄砲さを反省した。

こんなに沢山の方々に大切にして頂いていながら、そのありがたみをすっかり忘れていた自分が恥ずかしく、周りの方々にご迷惑をおかけした事が本当に申し訳なかった。
木族、土族の鬼神様には昨日直接お礼とお詫びを申し上げ、龍黒様は気持ちだけ受け取っておくと、麒白様を通じてお言葉を頂いていた。


「もう良い。」

何度も頭を下げる私に、獅紅様は胡坐をかいて腕を組まれながら少し不機嫌そうに言われる。
すると光鬼様が 『あ!獅紅が照れてる!』 と笑い、私の隣にいらっしゃる麒白様もそれに釣られてクスクスと笑った。
その言葉にホッとして頭を上げると、光鬼様が私に笑いかけてくださった。

「麒白と思いが通じ合って良かったね。」

「光鬼様のおかげです。
 本当にありがとうございました。」

頬を赤く染めながらもう一度お礼を申し上げると、光鬼様はバツが悪そうに頭をかきながら微笑まれた。

「ん〜、そう言われると複雑だけど……
 僕はただ獅紅と僕の暴露話をしただけだし。」

「……光鬼、白桜に何を話した?」

……光鬼様が隣の獅紅様に睨まれて固まっている。

おろおろと獅紅様と光鬼様に交互に視線を向けていると、『可哀想に。光鬼はこの後お仕置きだよ。』 と麒白様がクックと笑いながらそっと私に耳打ちをされた。
お仕置き……
獅紅様のお仕置きならば、光鬼様は相当大変な思いをされるに違いない。
私のせいなのはわかっているので、それではあまりにも光鬼様に申し訳なく、私は緊張で震える体を必死に抑えながら、勇気を振り絞って獅紅様に声をおかけした。

「シ、獅紅様!
 お仕置きでしたら私がいくらでもお受けします
 ので、どうか光鬼様にはお咎めなきようお願い
 致します!」

麒白様も光鬼様も獅紅様も、皆ポカンと私を見ていた。
そしてその直後麒白様と光鬼様は顔を見合わせて爆笑され、獅紅様まで苦笑されている。

……私はまたおかしな事を言ってしまったのだろうか?


訳がわからずに首を傾げていると、相変わらず苦笑しながら獅紅様が麒白様に話しかけられた。

「なかなか前途多難だな」

「まぁ本人の希望通り、この後実践込みで教えるよ。
 そっちもせいぜい光鬼を壊さない程度にしておけよ」

麒白様も苦笑しながら返されている。
実践込みって?
更に首を傾げていると、光鬼様が私の方に身を乗り出し、溜息を吐きながら小声で話しかけてきた。

「白桜も覚悟しておいた方がいいよ。
 麒白は今まで我慢してきた分、しばらくは暴走が
 止まらないだろうからね〜。」

「暴走……ですか?」

「麒白は普段優しいけど、でもやっぱり荒神だし。
 属性は違っても鬼神はみんな気性が激しいから、
 暴走を受け止めるほうは大変。
 それはこの数日で嫌って程わかったでしょ?」

この数日でって……
光鬼様が仰りたい事に気付き、頬を赤く染めながら下を向いた。
この数日、私は麒白様がお仕事に行かれている間も鬼火で休んでいなければならないほどに疲労困憊していた。
それは全て麒白様に抱かれているせいで……
幼い頃から一緒に過ごさせて頂いて来たけれど、麒白様があんなに激しい部分をお持ちだというのはこの数日で初めて知った。


「そろそろ行くぞ」

獅紅様が腰を上げ、光鬼様はそれに、うん、と頷き返す。
そして私の肩をポンポンと優しく叩きながら立ち上がり、同じく腰を上げた麒白様を見上げて仁王立ちになった。

「麒白、白桜は僕の弟分なんだから、あんまり
 無理をさせると僕が黙ってないからね。」

……弟分?

麒白様はクスクス笑いながら 『わかってるよ』 と答え、獅紅様は苦笑されながら光鬼様を肩に担ぎ上げられる。
ご自分の領に戻られるお二方に改めて御礼を申し上げ、そのお姿が見えなくなるまで手を振って見送った。


獅紅様と光鬼様のお姿が見えなくなり、麒白様に頭を下げて白雪様の元に向かおうと歩き始めた途端、いきなりふわっと抱き上げられ、慌てて麒白様の首にしがみつくのと同時に顔中にキスの雨が降ってくる。

「……さて。
 白桜は兄貴分である光鬼の分までお仕置きを受ける
 覚悟が出来ているのだろう?
 なかなか麗しい兄弟愛で結構だ。
 では期待に応えられるよう私もせいぜい頑張るよ。」

……お仕置きというのが何の事なのかはまだよくわからない。
けれど呆気に取られている私にはお構いなく、お側仕えの鬼に布団を敷く指示を出しながら楽しそうに微笑まれている麒白様に、今までに見た事がない不穏な空気が漂っているように見えるのは、私の気のせいだろうか……

− 完 −